「分かったよ、どうせ親の跡継ぐに決まってるんだから」
ルカの家って何やってるんだっけ?
考えてみたら、聞いたことなかった。
跡をつぐんだ。そんな仕事なんだ。
なんで言わないんだろう。
言うとひくような仕事だろうか。
農家の嫁は嫌だ。
旅館の女将も嫌だ。
町工場の社長……。
町の電気屋さん?
うーん、気になる。
「ルカの実家って、何やってるんだっけ?」
ルカは桃花に耳打ちした。
なぜ耳打ち。
恥じるほどの仕事じゃないでしょ。
へえ……。そうなんだ。
まあまあじゃない。
いざとなったら、愛海の絵を売らなきゃと思ったけど、その必要はなさそうね。
さすが私立大学。
待てよ、糟糠の妻になってくれないかって言ってたよね。
あれってまさかプロポーズ?
なんちゃって、ありえないな。
思いつきで口にしたのね。
でもそういう気持ちもなくはないんだ。
ちょっと嬉しいかも。
携帯電話の辞書で糟糠の妻をひいてみた。
「いっしょに貧乏や苦労をしてきた妻」
糟糠の妻か……。
悪くない響きね。
なるほどね、貧乏もいいかもね。
私は大丈夫。
私には分かるんだ。
ルカがどんなに貧乏だって、きっと今と同じくらい好きでいられるって。
「弁護士めざしてもいいわよ」
「何だよ、急に」
「だってうちの親弁護士だし、いざとなったら父の事務所で働けばいいじゃない」
「なんだよ、それ。うちの親の仕事をバカにしてる?」
しまった、そう聴こえなくもない。
「そういう意味じゃないよ」
「上場企業をバカにするなよ」
えっ、そんなに大きな会社なの。
「さっきから痴話喧嘩?聴こえてるわよ」
桃花は愛子さんに声をかけられた。
「今日はありがとう」
愛子が微笑んだ。
「いつまでも仲良くね」
そう言って、愛子は立ち去った。