「ああ、ハッピーエンドってつまんないね」
愛海は桃花に言った。
愛海は大学を辞めて暇を持て余していた。
留学の話がどうなったのか、桃花は聴くに聞けずにいた。
私のせいで留学話が流れたら、目も当てられない。
唯一救いなのは愛海が笑顔を絶やさないことだった。
「今日見た映画でしょ、ありえないよね、あんな一途な男いるもんか」
そうよ、ルカのやつ、最近、おとなしくしてると思ったら、バリバリのアイドルに夢中になっちゃって。
「この私に、今度の歌番組で会うだろ、サインもらってきてなんて」
節操のないやつだ。
私が出るんだから、私だけ見てればいいのに。
「小さいやきもち……」
愛海はボソッとこぼした。
「えっ?」
「相変わらずヤキモチ妬くほど好きなんだね」
桃花は改めて言われると、恥ずかしくなった。
「で、そのアイドルって誰?」
「誰だっけ?AKBのどれかよ」
そんなメジャーなタレントの出る番組に出るんだ。
そっちの方が驚いた。
「顔は知ってるんだけど、名前がねえ……」
誰のことを言ってるのか分からなかったが、別に妬くほどのことはないような気がした。
「だってブスじゃん」
「ブスって主観的だから」
「ブッチャてさ、学生時代きっといじめられてたっぽくない」
確かに、桃花と同級生だったら、いじめられたに違いない。
「でもあんなのがいいなんて、ブスでも好きになれるってことじゃない」
話をよく聞いてみると、アイドルが好きなのが問題じゃないのだ。
ブスでも好きになれるってことが気にいらないらしい。
「だからあんなゴリラみたいなヤンキー女と付き合ったりしたってことでしょ」
ラムちゃんのことだ。
来夢がブスでホッとしていたという自信が崩れ落ちたようだ。
これだけ愛されて幸せと感じる相手ならいいけど、一歩間違うと重すぎ女だ。
こんな女がストーカーになるに違いない。
「大丈夫、桃花は充分美人だから」
「美人だから心配なんじゃないの」
ここまでいくと、ネガティブすぎではないか。
改めてルカの心の広さを感じずにはいられない。
ここまで繊細だから、あんな繊細な詩が書けるのかも知れない。