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みぃたんと忍者たなかーず

11月24日付 お酒・ワイン ランキング 1-50位

 

11月24日付 スイ-ツ ランキング 1-50位

 

小説「亜麻色髪の乙女(仮)」より抜粋。


世界的音楽家フランツが


かつての教え子鉄蔵を迎えにきて、


そこで鉄蔵が


そのピアニスト人生を投げうっても


育てようとした


天才ピアニスト海音を発見したシーン。





フランツは思わず身震いした。

早く彼女の演奏をもっとちゃんとした環境で聴いてみたい。

これじゃ、19世紀のサロンで演奏を聴いてるみたいではないか……。

サロンか……。

そうだ。

忘れていた。

そうだ、彼女の演奏は忘れていたことを思い出させてくれる。

19世紀、音楽家はパトロンの前で演奏していた。

サロンと呼ばれるお金持ちのためだけの演奏会。

サロンとはきっとこんな感じだったのだろう。


 


「シューベルトを何か弾いてくれますか?」

「シューベルトですか……?」

しばらく考え込んで、「では……」とピアノを弾き始めた。

シューベルト/幻想曲 ハ長調「さすらい人幻想曲」

難易度F。

シューベルト自身、うまく弾けなかったほどの難曲。

うまい。

どの曲を聴いても、あらが見つからない。

シューベルティアーゼ……。

シューベルトにはいっぱい友達がいた。

いつも友達の前で自身の曲を演奏し、みんなを楽しませた。

「もっと簡単な曲を弾けませんか?」

「シューベルトですか……」

 海音は楽譜をとりにいったん席を外した。

海音は楽譜を持ってきた。

楽興の時」難易度C。

「最近まで鉄蔵さんに教わってた曲……」

そう言って、弾き始めた。

そうか、鉄蔵が指導してたんだ。

でも楽譜を見ないと弾けない曲が最近教わった曲なのだろう。

逆に難曲は昔弾いていた曲ということか。

 難しい曲ばかり練習していたのだろう。

何があったのかは知らないが、高校進学を断念して、ピアノをやめてしまったと聴いている。

だとすると、その頃すでに完成されていたというのか……。

とにかく彼女の未来をどうするか考えないと。

しかし、彼女は実績がなさ過ぎる。

とても、彼女を推すことはできない。

鉄蔵と結婚してくれたら、二人で売り出すこともできるのに。

フランツは考え込んでるうちに、そんな自分がおかしくなった。

これじゃ、まるで娘と一緒だな。

さてシューベルトをどうすれば売りだせるだろう……。

目の前にいるシューベルト。

当時のシューベルトの評価は低く、シューベルトの友人たちが金を出し合い、「魔王」を出版したりしている。

ゲーテはシューベルトの曲が気にいらなくて、楽譜を送り返したほどだ。

しかしのちに「魔王」の楽譜がヒットすると、ゲーテもやっとそれを認めたという。

いつの時代もヒットすれば、それが支流になる。

目の前の天才も誰かが売りださないと泡沫の夢に終わるだろう。

ピアノを弾き終えると、フランツは呟いた。

「僕はもう君が世界中の音楽ホールで演奏をしている夢を見ているよ」

海音は満面の笑みを浮かべてこう言った。

「鉄蔵さんを迎えに来たんですね」

海音はまだ気が付いていない。

目の前の海音にもらした言葉だと……。

フランツが興味を持っているのは鉄蔵だけじゃない。

「ドリスデンに連れて行ってください」

「もちろんだよ」

海音の顔にパッと灯りがともった。

「良かった、ほんとに良かった」

海音はじっとフランツを見つめた。

とにかく、鉄蔵をドイツにつれて帰ろう。

そして海音も一緒に連れて行こう。

それがいい。

フランツは納得するようにうなずいた。