小津安二郎が自作「浮草物語」をセルフリメイクし唯一故郷の三重でロケをした大映映画「浮草」 | キネマ画報

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名古屋在住映画好きダメ人間の映画愛をこめてのブログ多少脱線ありです。

小津安二郎が1934年に松竹で制作した「浮草物語」を大映でカラーリメイクした1959年の作品です。小津が唯一故郷の三重で撮影した作品でもあります。

 

な志摩半島の小さな港町。そこの相生座に12年かぶりで旅回りの嵐駒十郎一座がやってくる。その港町には 一座の長である駒十郎が、むかしの女に生ませた息子の清いるが駒十郎は自分を母親の兄だと思わせている。その町に駒十郎の息子がいると知った駒十郎の連れ合いのすみ子は一座の若い女優の加代に金を渡して清をたぶらかそうとさせるが…

 

三重県で撮影される作品がたまにありますが三重弁がちゃんと使われている映画は少なく、この作品は三重出身の小津が監督しているせいかちゃんとした三重弁が聞ける作品になっています。

きょう活弁つきでオリジナルの「浮草物語」を観てきましたがあちらは信州が舞台でこちらは三重の港町が舞台なので大筋が同じでもディテールが結構違っています。

時代も製作された時代の内容に合わせてあるのでアップデートされているのもありますが、セリフが昔とまったく同じの部分もあります。

一座の演目も座長役の中村雁治郎に合わせてか歌舞伎の公演になっています。一座が町にやってくるのも機関車から船に変わり、親子の釣りのシーンも渓流釣りから磯釣りになっています。

大きく違うのは前作ではその町に4年ぶりに来たという設定でしたがこっちは12年ぶりとかなりの幅があります。

大映の名カメラマン宮川一夫のカラー撮影が美しく、これも大映で撮影したからこそかも。

なぜ松竹の小津監督が大映で撮影しているのかと思ったら前年の「彼岸花」で大映専属の山本富士子を借りた見返りだったとのこと。

大映の名優たち、中村雁治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩と普段の松竹の小津映画とかひと味違うキャスティングが魅力的です。三重弁の台詞も松竹の小津映画とはかなり違う空気感を生み出しています。キャストの好演と志摩の空気感と美しい撮影がマッチしてとんでもない傑作に仕上げています。

ホームドラマをメインにしてきた戦後の小津作品の中でもかなりの異色作かも。