
塚本晋也監督の長編作品は全て劇場で観てきました。
でもだんだん惰性で観ていたような気がします。
そう感じたのは前作「鉄男 THE BULLET MAN」が本当に残念な仕上がりだったから。
そんな中、新作はまさかのCocco主演作です。
どういう流れでこういう企画が実現したのかわからないけど、これは観なくてはと思える組み合わせです。
不動産屋でチラシに赤線を引くという仕事をしているシングルマザーの琴子は、人が二人に見えたりする幻覚に悩まされている。
そんな精神状態でのまだ赤ん坊の一人息子・大二郎の育児は正直なところ限界だった。
愛が深すぎて息子を失う幻覚を見、それに大騒ぎしては近隣に迷惑をかけ、引っ越しを繰り返す日々。
部屋で子供と泣き叫ぶ彼女に児童虐待の疑いがかけられ、息子は姉の家庭に預けらることに…
一人になって絶望している琴子に声をかけてくる男がいた。
田中と名乗るその男は文学賞をとるほどの小説家で、琴子をバスで見つけるやいなやストーキングし、彼女の家まで押し掛け、すぐにプロポーズまでする。
琴子は発作的に田中の手にフォークを突き立てるが、彼はそれぐらいでは引き下がらず、やがて二人は一緒に生活するようになる。
琴子はいつしか田中を傷めつけることで、心のやすらぎを得るようになり、彼はそれに耐えることで愛を証明しようとするが…
琴子をCoccoが、田中を塚本監督が演じています。
琴子は生きる力を確かめるため自傷する。
琴子が風呂場でカッターナイフを左腕に引き、血まみれになるというシーンが頻出しますが、Cocco自身も自傷していて、腕は傷だらけです。
そんな彼女が原案・音楽・美術も兼任するこの作品は、彼女の感性に溢れていて、これまでの塚本作品と雰囲気や見た目を大きく変えています。
「鉄男」を代表とする塚本作品はどちらかというとモノトーンな世界を描くことが多いですが、この作品はCoccoによる美術や音楽が映画をミシェル・ゴンドリーの作品さながらのPOPでシャレオツなものにさえしています。
とはいえ心を病んだシングルマザーの内面を描く場面では画面が荒々しく揺れ、爆音が轟き、血が飛び散る。まさに塚本映画の真骨頂です。
演技の上でも琴子のCoccoと田中の塚本が絡む場面では、まるで異質の二つの世界がぶつかり合い、なんだかすごいことになってます。
かなり痛い描写も多い作品ですが、Coccoファンにとっては心に刺さる彼女の歌の世界が体感できるいい映画なんではないかなと思います。
これはある意味ビョークの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のCocco版かも。
個人的にはCoccoとのコラボで塚本監督が作家として息を吹き返したことが何より嬉しいです。