
森田芳光監督最後の作品です。
どうしようもないアニヲタだった自分が邦画を意識的に観るようになったのは、森田芳光監督の「家族ゲーム」に出会ったからでした。
当時は長渕剛主演のドラマ版「家族ゲーム」が面白くて、その劇場版で「探偵物語」の松田優作主演だから観ようくらいのつもりで映画館に足を運びました。
自分が知っている邦画のイメージと全く違う新しい日本映画がそこにありました。
劇場にはパンフレットがなく、かわりにあった「アートシアター」という冊子を買い、ATGの存在を知りました。
テレビ(「月曜ロードショー」)で「の・ようなもの」という森田監督の処女作を観て、2本立てで観る娯楽映画以外にも面白い映画があることを知り、映画にのめり込みました。
森田監督はシブがき隊主演のアイドル映画を作ったと思ったら漱石原作の「それから」で映画賞総ナメ、かと思えば流行監督を名乗り、とんねるず主演「そろばんずく」、石田純一主演「愛と平成の色男」といった微妙なコメディを作り、「(ハル)」ではネット社会にいち早く注目し、ベストセラー「失楽園」を映画化し、きっちりヒットさせ、ベストセラー「模倣犯」を独特なアレンジで映画化し、原作者や主演中居正広のファンからも眉をひそめられ、「黒い家」や「海猫」はそれなりに仕上げたり、名作「椿三十郎」リメイクでコケながらも、「武士の家計簿」を手堅く当てるというバランスで流行監督であり続けようとしました。
で昨今の鉄ヲタブームに乗って「僕達急行」です。
思えば松ケンの妻・小雪主演「わたし出すわ」でも電車が印象的に使われていた気がします。
観るまで正直不安でした。鉄ヲタでもない自分がこの作品を楽しめるのか。
でも結果、ずっとニヤニヤしっぱなしでした。
鉄工所の跡取り息子のコダマくんとのぞみ地所に勤めるコマチくんは、あるローカル線の旅で顔見知りとなり、都内の電車の中で再会する。
そんなこんなでお互い鉄ヲタであることで意気投合した二人。
コダマくんはマンションの欠陥で引っ越しの必要があったコマチくんを鉄工所の寮に住まわせると、二人は夜な夜なゆで卵と焼き鳥と発泡酒で鉄道談義する仲に。
そんな中、コマチくんは福岡に転勤が決まり、コダマくんは父の同窓生の娘とお見合いすることに。
九州の鉄道が乗れると転勤を喜ぶコマチくんだけど、福岡支社には問題がいっぱい。
コダマくんも鉄工所の融資がおりず、頭を抱えていた。さらにいい感じにデート出来たお見合い相手から交際をお断りされてしまいへこむ。
コダマくんは福岡のコマチくんの元へ傷心旅行し、九州の鉄道の名所へ。
そこで若い女性二人を連れた鉄ヲタおやじと仲良くなる二人。
しかし、この出会いが二人の運命を大きく変えることに…
台詞がセリフセリフしていて、アクションにいちいちSEが入るのが、最初とても異様でした。
しかし、この作品が目指すところが昭和の松竹喜劇映画スタイルなんだと思うと、なんだかすとんと入り込めました。
作為を楽しむ映画なんです。これは。
主人公たちは左遷されたり、実家の鉄工所がヤバかったりで、あんまり笑っていられる状況じゃないのに、基本的にマイペースで、終始ニヤニヤしています。
コダマくんは鉄工所の人だから、列車のメカニカルな部分に触れる為に乗り鉄し、コマチくんは音楽を聴きながら車窓やら、ヴァイブレーションを楽しむ。
二人は主張しつつも、それぞれの楽しみ方を尊重する。
楽しみがあるから生活のいろいろ面倒なところを乗り越えられる。
やたら深刻がったり、声高に主張しなくても彼らはやるべきことをマイペースに考えている。
鉄ヲタとしてのディテールを強調して、笑いにするんじゃなくて、彼らの節度ある自然体が観ているうちにいとおしくなります。
前半、この作品の落としどころが読めず、どうなるものかと思っていると中盤から豪快に「釣りバカ日誌」フォーマットに乗りはじめて、あとは身を任せてお約束を楽しむばっかりです。
ご都合主義で非現実的と批判する人はすればいいけど、これはもうニヤニヤと楽しんだ方が断然お得です。
余談だけど、さりげなくBL感だってあり、松ケンや瑛太の鉄ヲタ二人がやたらチャーミング!
松ケンに瑛太が練乳たっぷりのいちごミルクをおねだりし、松ケンがすかさずそれに応えるシーンをBL的以外にどう解釈しろというのか?
お互い女性と交際したい感じもありながら、女子といるとき以上にイチャイチャするコダマくんとコマチくんがヤバイです。
そんなこんなでいろんな細かい遊びがちりばめられていて、細部まで愛せる喜劇映画でした。
これはシリーズ化も出来る題材だけに、監督が亡くなったのがつくづく残念です。