「それは愛じゃないから」②~映画館のマッサージチェア~ | キネマ画報

キネマ画報

名古屋在住映画好きダメ人間の映画愛をこめてのブログ多少脱線ありです。

ぼくは映画館で映画を観るのが好きです。

去年の夏、彼女に再会するまでの5年間は週末に7~8本の映画を観ていました。なぜ映画が好きかというと一番楽ちんな娯楽だからです。ただ座っていればいろんなことを体験させてくれるんですから。行ったことのない場所、未知の世界、最高のパフォーマンス、美しいもの、目を覆いたくなるもの、涙が止まらない、声を出して大笑い、その他普段はありえない境地や非日常が座っているだけで体感できるのだから。
家でDVD観てたってそこまで入れこめません。だから映画館。 

基本的にその週末に封切られる映画をより沢山観られるように映画館を渡り歩くスケジュールを組みます。
さらにシネコンで観る場合にはより良い席が取れるように、前もって劇場へ行き指定を取りに行きます。 

万全を期して映画に臨むのがぼくの信条です。 

毎週末、1日3~4本の映画を観る為に市内の映画館を回遊していると同じような連中がいるのがわかる。

ぼくは約束でもしたみたいに同じ映画館の同じ回に彼らの誰かと顔を合わせ、次の劇場に行ってもまた彼らと出くわす。

おそらくお互いに顔を認識しているけど、言葉を交わすことはないし、ありえない。 

それは指定のとれない自由席の劇場とかで見やすい席の争奪戦を繰り広げ、お互いに苦々しい思いをさせられている相手でもあるから。

ぼくも彼らも揃いも揃って40前後で、メガネで小太りでダサイ。おまけに性格悪そう。

たぶん本当の映画好きは日常に楽しみを見いだせないぼくのようなダメ人間だと思う。リア充なら映画なんていらない。

ぼくはいかにも社会不適合者な彼らに会うたび自己嫌悪に陥る。彼らはぼくの鏡だ。

映画館では彼ら以外にもバケツでポップコーンを買い、映画館をバター臭くするバカップルに呪い殺さんばかりの眼差しを向けているぼくですが、日曜の夕方にはときおり彼女と映画に行くことがある。(彼女にとっては晩ごはんのおまけ)

本当言うと彼女と映画に行くのはあまり好きではない。

ぼく以外の映画館の孤独な回遊魚たちに彼女を見せつけたいという人間的にどうかと思う感情がないわけではないけど、そういうときに限って彼らはいないし、理由はそれだけでもない。

彼女はなぜか土曜に夜更かしし、日曜の朝方に眠りにつくので起きる時間が不規則。
食事の約束があるときはいつも午後4時前後に電話し何が食べたいかお伺いをたてる。彼女はその電話で起きて、なんだかんだと支度しはじめるので、ぼくに会うまでに2時間はかかる。 

だから映画のときには上映時間の2時間以上前にモーニングコールが必要で、熟睡しているときは電話に出ないことも多い。 

しかも、彼女が観たがる作品はぼくの趣味にあわないことが多い。(だから映画館の海遊魚たちがいない) 

そもそも彼女は映画が好きじゃなく、て面白かったという感想も聞いたことがない(たぶん映画を必要としない楽しい生活をしているのだろう)。 

それでも話題作は観たくなるみたいで、最近では「大奥」に行った。 

男女逆転の「大奥」は女子にとってはイケメンが溢れる目の保養になる作品だろうけど、男にとってはそうでもない。だから観たいなんてひとつも思ってなかった。 

その日もずっと連絡がつかずあきらめモードになっていたが、上映の5分前にようやく劇場に彼女がやってきた。

ぼくは開場と同時に席につき、上映を落ち着いて待つ派だから、この時点でたまらなく不機嫌。予定を立ててスマートに進行したいぼくの真逆が彼女だ。 

そんなぼくのご機嫌を伺うことも全くなく、席につくと彼女は決まってこう言う。

「ちょっと揉んで」

ぼくにマッサージしなさいということです。
彼女のマッサージ指令は至るところで発令する。

飲食店ならオーダーから料理がくるまでの時間で済むけど映画館ではそうはいかない。ちょっとと言いながらちょっとで終わることはまずない。 

ぼくは映画館の照明が落ちると同時に首から下は彼女のマッサージチェアになる。 

想像してもらいたい。映画館で隣に座る人のマッサージをすることを。 

非常に厳しい態勢で彼女首や肩や腕や脚までもみ続ける。 

それが10、20分ではなく映画が終わるまでずっと続くのです。

普段は手を握ることも嫌がるくせにガッツリ身体中を揉ませるなんて、どういうつもりなのかと思う。 

映画に集中しながらマッサージしていると映画の場面によって揉む手に力が入り過ぎてしまうことがある。 

「大奥」で言えば柴咲コウ扮する吉村の初体験シーン。

男女が逆転した大奥であっても、男女が行うことは同じだと知り、ついつい興奮。
ウホッと気分が高まると同時に首筋を揉む指先が彼女にめり込んでしまった。

パシッ!

そんなぼくに彼女は張り手を食らわし、高まった気分に冷や水を浴びせかける。

これがいやらしいシーンに興奮しているぼくに対する嫉妬であれば、どんなにいとおしいことか。 

しかしこの場合、単にちょっと肩に指が食い込んで痛かっただけなのだ。

世の中の彼氏たちは彼女の横でベッドシーンにウホッとならないのだろうか?

逆に彼女たちは…  

結局、柴咲コウとニノでは初体験シーンといえど生々しい場面はもちろんなくぼくは叩かれ損。

しかもその帰りには、いつも行かない天ぷら屋での晩ごはんを所望。

コースを食べた上に単品で高級ネタをどんどん追加なさいます。 

観たくもない映画に付き合わされ、高い夕ごはんをたかられてぼくはどういう気分で帰ればいいのか…

と言いつつ、時代劇が最近好きな自分は意外に「大奥」を楽しんだのでした。
女子とカップルが客席を埋めつくすこの作品を回遊魚たちが観ることもないだろうから、観れただけでも価値があったかと自分に言い聞かせます。