春にして君を離れ | 前立腺がん闘病封じ込め記

前立腺がん闘病封じ込め記

前立腺がんの診断を2020年1月に受けた。PSA値640超、Gスコア8、多発的骨転移ありだった。手術・放射線は適応にならない。それでもあわてない、あせらない、あきらめない日々を送る。




アガサクリスティのちょっと異質な作品。ポアロもヘイスティングズも出てこないし、殺人事件も起きない。

その専業主婦は、自信家で、勝ち組で、弁護士の夫を愛し、3人の子供たちもしっかりと成人して独立している。友人も多く、我ながら完璧な人生だ。

ところが、ある日一人旅からオリエント列車で帰る途中の砂漠の駅で大雨のため数日間足止めを余儀なくされた。その間における退屈凌ぎにこれまでの家族一人一人との会話を思い出す。

良かれと思ったことが、そうではない。

夫の行動と心理、長女、長男、次女、それぞれと自分とのやり取りを思い返す。そのうちに、自分が家族の中でとんでもなく浮いていて、実は嫌われているのではないか、という思いに囚われる。

大いなる気づき。

一人旅は人を変える!

これまでのことを悔いて、新しい思いで家族と接することを誓う彼女。

生まれ変わった自分を抱いて英国の自宅に帰国した彼女は、よりよい自分として家族と接していけるのか。そして、夫の反応は。


素晴らしい小説だった。女性の気持ち、夫の希望、行き違い、女性の独白で綴られるこの心理劇は、あらゆる意味で心の中の思いと、受け取られる時のずれ、さらに思いやり深い相手であればあるほど溝を深くしてしまいかねないことを物語っている。

ある意味、作者が追い求めた心の内にあるミステリーなのかもしれない。