マリオ・ジャコメッリ写真展 | れぽれろのブログ

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2日間の東京旅行。
14日の日曜日は、恵比寿ガーデンプレイス内にある
東京都写真美術館に行ってきました。

この日の東京都写真美術館では3つの写真展が開かれていましたが、
その中のひとつ、マリオ・ジャコメッリ写真展がとくに面白かった
(というか、これ目当てに行った)ので、感想などを書き留めておきます。

マリオ・ジャコメッリは20世紀後半のイタリアの写真家。
50年代から写真を撮りはじめ、90年代まで撮影を続け、
2000年に亡くなられたとのことです。
非常にコントラストの強い、白と黒の対比が激しいような作品が有名な方。
ですが、今回展示された作品を見ると、どうもそれだけではなく
結構いろんなな種類の作品が残されているようで、面白かったです。

展示はほぼ時代順に並べられており、
作品のシリーズごとにタイトルが付けられていました。
展示作品数215点。全14タイトル。
以下、印象に残った作品について、この各タイトルごとのコメントです。

・死がやってきておまえの目を奪うだろう
ホスピスの写真です。死を待ち続ける人間たち。
あまり幸福とはいえない状況の写真ですが、
ジャコメッリはこういった人たちを非常に美しく撮影しています。

・スカンノ
スカンノはイタリアの街。
古い建物、石畳、階段。街の雰囲気がすごく良いです。
人々はなぜか皆黒いコート、黒いマント、黒い帽子・・・
同じような格好をしています、(白黒写真なので黒に見えるだけかもしれませんが)
コントラストが強い写真が多いです。白の中に黒の人物が置かれる。
単なる街の人の写真なのですが、なぜか幻想的。

・ルルド
ルルドも街の名のようです。
人力車のようなものに乗せられ運ばれる人たち。
たくさんの人力車。夥しい数の人力車&人で画面が覆われている作品も。
解説によると、治癒を願う病人たちなのだそうです。
何やら衝撃的。

・善き大地
暗めの作品が多い中、この作品は雰囲気は明るい。
大地とともに働く人々、子供たち。
とくに、画面いっぱいの横長の棒きれを持った子供の写真が
面白いバランスで気に入りました。

・私にはこの顔を撫でてくれる手がない
ジャコメッリで一番有名なのがたぶんこのシリーズではないかと思います。
神学生たちを撮影した写真。
このシリーズもコントラストが強い、白黒饗宴画面。
雪の中に配置される人物たちの図は、
なんとなく、砂丘に人物が配置される植田正治の作品も思い出します。
雪の白と神学生の黒マントのコントラスト。
つかの間の享楽。はしゃぎまわり、手をつないで円を描く神学生たち。
物凄く不思議な雰囲気で、面白いです。
そして、あとの作品ほど、コントラストがきつくなっていきます。
夢が深まっていく感じ。
前期のジャコメッリでは、やはりこのシリーズが一番気に入りました。

・男、女、愛
森の中で抱き合い、キスを交わす男女。
首をまげてキスする写真、なぜかシャガールの「誕生日」を思い出します。

・風景
このシリーズから作品の雰囲気が大きく変わります。
人物が減り、動きが減り、動的な印象がなくなり、
なんとなく平面的で静的な雰囲気の作品が多くなります。
この「風景」のシリーズは、上空から地上を写した写真がメイン。
畑・耕作地が幾何学的な模様を描く。
その中に人や鳥などが点々と配置される。
自然に対し人間が手を加えた結果、不思議な幾何学模様の出来上がり。
世界は面白い。

・帰還
今度は建物の壁がメイン。
動物なども登場しますが、全体の印象は平面的。
壁の形や、壁の前に置かれた道具などが、面白い形を作ります。
やはり幾何学的な写真たちです。
さっきの「風景」シリーズにせよ、この「帰還」シリーズにせよ、
意外とこういう写真って少ないような気がします。

・私は誰でもない
合成写真と思われます。
壁に人間の目が現れる。
風景に2人の人物の影が重ね合わされる。
人物のシルエットに木の枝の影が現れる。
壁に人の手の群れ・・・。
ジャコメッリの写真の中ではちょっと異質な感じですが、面白いです。
壁に現れた目など、前日に東京国立近代美術館で見た
靉光の「眼のある風景」を思い出してしまいます。

・詩のために
最後の作品もやはり壁などを撮影した写真ですが、
何だかゴミの山のような写真もあります。
ゴミのような取り立てて美的でないものが、
写真により普遍的・幾何学的なイメージに変わっていく。
面白い写真です。


ところで、ジャコメッリの「スカンノ」のシリーズの中に、
以下の写真が展示されていました。

スカンノ_ジャコメッリ


この場所、どこかで見たことがあるな・・・。
自分はカルティエ=ブレッソンという写真家が好きで、
いくつか画像を携帯に保存していたりします。
会場で携帯を出して画像を探して・・・確認。
やはり、カルティエ=ブレッソンの以下の写真と同じ場所です。

スカンノ_カルティエ=ブレッソン


おお、面白い!おんなじ場所!

カルティエ=ブレッソンは不思議な写真家で、ストレートフォトの写真家ですが、
偶然撮影できたとは思えないような、面白い構図の写真を撮られる方です。
この写真も、左下の人と中央の人、二人とも頭上に長方形の板を
同じ角度で持っています。
相似形のふたり。
そして上下二つのアーチも相似形。
右の建物の中央にある○と、その真下の女の子が手で作った○。
そんな画面の中を、階段と手すりの縦と斜めの線が入り混じる。
めちゃくちゃ面白い写真ですよね。
一方で、ジャコメッリの方は、コントラストが強くて、石畳の白が印象的。
カルティエ=ブレッソンよりずっと詩的な雰囲気の写真になっています。
どちらが気にいるかは、きっと人それぞれ。

ということで、じっくり時間をかけて、ジャコメッリの写真を
たっぷりと鑑賞してきました。やっぱり写真は面白い・・・!



さて、この日の東京都写真美術館では、以下の2つの写真展も
開かれていましたので、少しだけ感想など。


・アーウィン・ブルーメンフェルド 美の秘密

20世紀前半の写真家、アーウィン・ブルーメンフェルドの写真展です。
ファッション写真風の展示が多かったです。
ファッション誌「VOGUE」の表紙の写真がたくさん。
自分は実はアーヴィング・ペンなんかも一時期好きだったので、
こういう写真も楽しいです。
そして、同時代の美術作品に共通する表現手法・同時代の潮流も感じられ、
楽しめました。
ピカソ風に顔面をずらした写真(前日鑑賞したベーコンの作品も少し思い出す)。
ケルテス風のディスト―ション、マン・レイ風のソラリゼーション。
ヌードもエドワード・ウェストンだとか、そういう人の作品を思い出します。
人体は面白い。
マグリットの「恋人たち」風に布をかぶった作品もありました。
同時代の似たような表現が登場するのが楽しいですね。


・夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 北海道・東北編

江戸末期から明治期の日本の古写真の特集展示でした。
東北地方と北海道の特集とのこと。
関西ならよかったのにな・・・と少し思いつつ鑑賞。
一番印象に残ったのは、1896年の明治三陸沖地震の津波被害の写真です。
メインは釜石の写真。あの日以来有名になった地名。
明治においても同じような被害を受けていたことが分かります。
木造建築物が破壊された瓦礫の写真。
陸に乗り上げた船の写真、どこかで見た風景です。
歴史は繰り返す・・・。何やら感慨深いです。


ということで、東京都写真美術館は面白い!
大阪にもこんな写真専門の美術館があったらいいのにな・・・。