18か19ぐらいの頃、小学校時代のツレと偶然再会して、それからまた少し遊ぶ様になった。
俺がギターを弾いてるって話したら、そいつはキーボードやってるって事だったんだけど、実際はまともに弾けやしなくて、単に小室に憧れてEOSってキーボードを持ってるだけだった。
まぁ、昔から奴はカッコつけたがりだったから、「まぁ、そうだろうな」ぐらいにしか思わなかった。
俺的には好きな奴でもなかったんだけど、その頃は退屈してたし、俺の周りは良い子ちゃんばっかりで合わせるのも面倒だったんで、適当にそいつと遊んでるぐらいでいいやと思った。
どっちにしても腹割って話せる様な奴は見当たらなかったし、それなら暇潰しになる奴でも相手にしてたら気が紛れるだろう・・・と。
俺もその頃は片親の家庭になってたけど、そいつの家も片親だった。
でも、そいつは母親に育てられた長男だったから、決定的に甘やかされ方が違ってた。
女親はどうしても息子に甘くなって、しつけるべき大事な部分を見落としがちになる。
そいつの場合もまさにそんな感じで、俺にしてみたら信じられない様な部分が幼稚だったり浅はかだったりした。
そんなトコがどうしても苦手だったけど、奴は金払いだけは良くて、変にケチケチしてたりはしなかったから、遊び仲間としては都合の良い奴でもあった。
まぁ、要は利用してたって事なんだけど、そもそも奴の方こそ他人を都合良く利用するタイプで、昔からそんなトコがあったから俺は好きになれなかった。
第一、そういう奴じゃなかったら俺も奴を利用しようとは思わなかったと思う。
一匹狼気質だから、別に奴が居なくても全く構わなかっただろうし。
ともあれ、奴とつるむ様になって、少しばかり俺も外の世界で遊ぶ機会が増えた。
ナンパに付き合わされたり、明け方までボーリングをしたり、いわゆる若い連中が当たり前みたいにやってる事をちょっとだけ味わった。
それが楽しかったかどうか聞かれると、素直に「楽しかった」とは言えないけど、全く遊ばずにいるよりはマシだったんだろうな・・・ぐらいには思う。
俺が奴とつるんでた一番の目的は、奴の持ってたキーボードとリズムマシンにあった。
当時の俺は色々とあった末にバイトを辞めた頃で、まともに金なんか無かった。
それだけに曲作りやらに打ち込んではいたんだけど、頭の中で鳴ってる音を形にするには機材があまりにも無さ過ぎた。
その頃は当然PCなんて持ってなかったし、持ってたとしても今ほど簡単で万能なツールでもなかった訳で、デモテープ作りは基本的にMTRと呼ばれる専用の録音機材を買わないといけなかった。
例えMTRを買えたところで、ギターしかなければギターの音しか録音は出来ない。
つまり、それなりの曲として形にするには、ドラムの音を出すリズムマシンやベース、キーボードなんかが必要になる。
それらを一揃え出来る様な金なんて当然無い訳で、俺は前に自分で買ったリズムマシンもどきを駆使して、ダブルデッキのカセットデッキを使ってデモ音源を作ってた。
そんな俺の前に奴が現れて、キーボードとリズムマシンを持ってるとなれば、俺の目的はそれを借りて、より完成度の高いデモテープを作る事だけだった。
そしてある時、ようやくそれを実現させた。
俺のデモテープを聴いた事ですっかり触発された奴は、一緒に曲を作ろうだの、俺ももっと弾ける様に練習するだのと口先だけはやる気になっていたけど、それが口先だけの事なのは俺が一番良く知っていた。
当然、奴はそこで大した努力もしないし、そもそもセンスだって持ち合わせてないんだから、前向きな発言をするほど嘘っぽく聞こえた。
それでも一応は相手をしてるフリをして、俺は自分のデモテープを作る作業に没頭した。
さすがに奴もEOSを貸すには期限をつけてよこしたし、その期限内にどれだけの曲を形にするかが俺の課題となっていた。
実際、あの時は「寝る間も惜しんで」という言葉通り、一日のほぼ大半を音作りに費やしていたし、メシを食っててもトイレに入ってても、頭の中で曲の事ばっかり考えていた。
結局、EOSを借りられたのは2、3回で、形にした曲もそれほど多くはなかったけど、リズムマシンに関しては期限なしで貸してよこしたもんで、俺はそのリズムマシンを弄り倒して、また別の曲を形にしていった。
酷い言い方になるかも知れないけど、奴との再会でメリットがあったとすればそれぐらいだ。
他の事はむしろデメリットの方が多かった気がする。
奴のお母さんからゲイじゃないかって疑われた事もあったしw
可愛い息子の心配するのは結構だけど、何の根拠もなく勝手にゲイ疑惑を掛けられた俺はたまったもんじゃないw
結局、それについての謝罪すらなかったな~。
まぁ、今になっては笑える話だけども、俺にしたら侮辱されたも同じだからね。
決して良い思い出ではないわな。
さて、この下にある二つの音源は、奴から借りたEOSとリズムマシンを使って作った当時のデモテープ音源。
古いカセットテープから起こしたものなんで、当然ながら音質が良いとは言えない代物。
一応、PCである程度のイコライジング処理と編集はしてるけども、トラックごとに処理が出来ないんでちょっと聴き易くなった程度。
まぁ、どんな曲がぐらいは解るでしょう、きっと。
Icurus [Instrumental] ※Old Demo
タイトルはギリシャ神話に登場するイカロスから。
イカロスは、父であるダイダロスと共にラビリンスに幽閉されるが、鳥の羽根をロウで固めて作った翼でそこからの脱出を試みる。
脱出は成功したものの、父の警告を忘れて高く飛び過ぎたイカロスは、太陽の熱でロウの翼が溶け出し、海へと墜落死する・・・という、いかにもギリシャ神話らしいオチの話。
小学生時代、音楽の授業で歌わされた『勇気一つを友にして』って歌があって、それはギリシャ神話のイカロスをモチーフに作られた曲なんですよ。
そのメロディーが俺はわりと好きで覚えてたし、歌詞も小学生にとってはわりとインパクトがあったから覚えてて、完成したこの曲を聴いてる時にそれを思い出したんですよね。
で、イカロスが飛んでる様なイメージだなと思って、タイトルをそのままイカロスに。
この曲は確かEOSを借りた日の夜中に即興的に作ったもので、事前にギターで作ってあったんじゃなく、鍵盤を適当に弾きながら、浮かんだイメージを音に置き換えてった感じだったと思う。
構成はシンプルだから、恐らく4時間とか5時間ぐらいで完成したんじゃないかな~。
基本的に3拍子の曲が好きだから、ベースラインとループになってるストリングスを三拍子でまず打ち込んで、そこにハープとオーボエのメロを乗せてったはず。
この曲のおかげでオーボエの音は好きになったんだよねぇ、そういや。
これを作った当時は、わりと脳内のイメージを音にする感じで作った曲が多くて、今回の二曲はどっちもまさにイメージを音源化したもの。
これで意外とロマンチストなんですよw
WORLD BEAT [Instrumental] ※Old Demo
これはEOSとリズムマシンをMIDIでシンクロさせながら録ったもの。
曲のイメージは、自然と環境破壊への警告的なテーマで、言わば歌詞のない風刺かな。
当時はラブソングとか書こうとしても全然ダメで、風刺的な歌詞とかばっかりだったんですね。
で、この曲もそんな一連の風刺楽曲に含まれるもので、「音だけでどう表現するか」って部分を試す自分なりの実験的試みでもあったんです。
ただ、その試みをするにはこの初期型EOSってシンセは余りにも非力で、最大同時発音数がたったの8という、今考えるとびっくりするほど作り手泣かせな仕様でした。
って事で、泣く泣くかなりの音を削り、出来るだけイメージに近い音として残したのがこれ。
今聴くと、この曲はその後の俺の打ち込み系楽曲のルーツみたいな仕上がりになってて、自分的にはなかなか面白い。
基本はシンセベースのループを組んで、そこに色んな音を配置してる感じ。
まぁ、そこらの手法はイカロスなんかと同じですな。
ドラムのタムを多めに使って重厚感を少し出そうとしてたりとか、クラッシュのリバース音を場面切り替え的なアクセントにしてたりだとか、それなりに地味な努力をしてるのが見えて、我ながら頑張ってたじゃん的なw
不安感を煽る様な演出とか、中盤の森のイメージの演出とか、当時としては丁寧にやってるな~。
この曲に限らずなんだけど、EOSを使ったデモの場合は出来るだけTMサウンドを連想させない様にしてたんですよ。
そもそもEOSが小室専用みたいになってたんで、同じ様なピコピコサウンドにしたら芸が無さ過ぎるなと。
まぁ、EOSに入ってる音が決まっちゃってたんで、ある程度は仕方無いとしても、ありものの音をどう使って自分の世界観に近づけるか・・・みたいな事は考えてたと思います。
この曲は総体的に好きなんだけど、どうしても削る羽目になったストリングスの音がチープになってるのが気に入らない。
せめてあと1音でも乗せられたら、もう少しマシになっただろうに。
そういう意味では後悔の残る楽曲なんだけど、改めて作り直すとなるとなかなか手間が掛かるのが解ってるもんで、リメイクには手出ししてません。
いずれは作り直したいんだけど・・・素材の音作りだけでどれだけ時間掛かるか・・・。
ってな訳で、カセットテープ時代のデモ音源はこんなところ。