伊藤みどりさん、54歳でダブルアクセルに挑戦、初のハーネスで『跳びたい!いや、跳べる!』

  世界女子初のトリプルアクセルジャンパーである伊藤みどりさんが、初めてハーネス(補助器具)を使った練習を体験54歳にして、ダブルアクセルに果敢に挑んだ。伊藤さんは『吊り上げる理論と、私のジャンプ理論。これを合わせれば…』と手応えを得た様子だ

 

  伊藤さんは、32歳までアイスショーでトリプルアクセルを跳んでいた、驚異のジャンパー。41歳となった2011年からは国際アダルト競技会(ドイツ・オーベルストドルフ)で復帰を果たし、スケート愛あふれる演技を披露している。昨年の同競技会では、4分間練習(試合直前のウォーミングアップ)で、大きなシングルアクセルを披露し、健在ぶりをみせた

 

  今年も春からジャンプ練習を再開した伊藤さん。4月には都内で、新たなチャレンジとしてハーネスを使ったアクセルジャンプを体験した。ハーネスは、ジャンプの練習に使われる補助器具で、釣り竿のようなもので選手を真上に吊って、補助するもの。わずかに滞在時間を伸ばしてくれることで『あと半回転足りない』というスケーターが、成功体験をできる。また、まっすぐな回転軸を作る補助にもなる。成功体験からイメージや感覚を掴み、ジャンプを習得していくものだ

 

  ハーネスを装着した伊藤さんは、始めはシングルアクセルを、大きく跳ぶ練習。もともとハーネスなしでも跳べるが、さらに高さや飛距離に余裕がでた

 

伊藤みどりさんのシングルアクセル(動画)

 

 

『なんとも無重力のように軽い、というか足に負担なく、タイミング良く釣り上げてくれる印象です。指導して下さった先生によると、「僕はフォローしているだけ。回転力をつける踏み切りは、本人がやらないと。タイミング良く釣り上げられない」とのことです』

 

  と感慨深げに語るみどりさん

 

  続いて、ダブルアクセルに挑戦。ハーネスに補助されている安心感もあるのか、思い切り高く、遠くへ跳ぶ。しかし、1本目は2回転まわったところで着地。するとコーチからは、伊藤さんの時代と現代での、跳び方のテクニックの違いについて説明を受けた

 

伊藤みどりさんのダブルアクセル(動画)

 

 

  伊藤さんの時代は、跳び上がってから空中で回転を始めるダイナミックなジャンプが主流。あえて回転を始めるのを遅くする″ディレイド”のジャンプさえ存在した。伊藤さんのトリプルアクセルも、とにかく高さと飛距離を出して、余裕をもって3回転半まわっていた

 

  それから30年以上たった現在は、いかに効率よくトリプルアクセルや4回転を跳ぶか、理論やテクニックが研究しつくされてきた。なかでも、踏み切りでの回転のかけ方や、空中での回転軸の作り方は、より確実で効率の良いテクニックが浸透してきている

 

『現役時代は、回転をかけるということよりも、ただ遠くに高く跳ぶということだけを考えていました。回転をどうかけるか、ということも大切なのですね』

 

  と伊藤さん

 

  説明を受けると、伊藤さんは再びダブルアクセルに挑戦。新たなテクニックを聞いたとたんに、一発目から実践できるのは、伊藤さんの実力があってこそ。空中での回転速度が増し、余裕をもって2回転半できるだけの威力ある飛躍を見せた。しかし、ジャンプの最後で、回転を開いてしまい両足着地。あと数回練習すれば、成功も近い、という様子だった

 

『今跳んだ高さ、飛距離さえ出せていれば、現役の選手ならランディングしているでしょうね。私はもっともっと回転に余裕がないと降りられないという練習をしてきたタイプなので、今の子に比べると不器用なのかな…。でも今回初体験した理論があれば、跳べる気がします』

 

  練習後、改めて語る

 

『30年以上前に、自力でトリプルアクセルを跳んだ理論と、吊り上げて回転を補助してもらう理論、あわせた動きを完成できるなら、質の良い、放射線上のダイナミックなジャンプが跳べるな、という感覚です。そんな時代が来たのですね』

 

  初めて体験した空中感覚と、自分が現役時代に跳んできた感覚、そして54歳となった今の感覚。すべての感覚を研ぎ澄ませ、それを身体の中で合体させていく

 

『ダブルアクセル。跳びたい!  いや、跳べる』

 

  あくなき挑戦は、続いていく