第二十二話 休息・傷・友情 | 生き返りゲーム

第二十二話 休息・傷・友情

月明かりの下 五匹の猫が歌っていた

 それは正義か間違いか


猫たちはただ歌い続けていたんだ


それが正しいことかなんて

 猫たちにはどうでもいいことだった


なにをしたか


その事実さえあれば 

 なにをいらない 必要ない


月明かりの下 五匹の猫が死んでいた

 それは正義か間違いか


猫たちはただ歌い続けていたんだ




漂う静寂 昇る太陽

先ほどの騒動から


10分と少し


6人いる中で今 自分の意思で動くことができるのは

4人だけ


ポプールと卑弥呼は気絶している

寝ているのかもしれないが


疲れた体は吐息を吐き出すのをやめない


ゼェゼェと苦しそうに呼吸する


セロもクラナもガデインも

ただイギリだけが例外ではあったが



「あのさ・・・」

考えもまとまらないまま3人に耳を傾けさせる


「ん?」

返事があったのはクラナだけ


「今から・・・どうしよう 

 ポプールも・・・卑弥呼も・・・こんな状態だし・・・」


「そうね ひとまず休むことしか

 頭には浮かばないけど」


「腹へりましたですよ」

妙な敬語を発したのはガデイン


「へりましたですよ・・・」

クラナがつっこむ


「まぁそうだけど・・・」


セロはそういったとき

腹が減っていることと

喉がものすごく渇いていることに気がついた

なんか・・・飲み物がないと・・・


「あっち・・・湖があったんじゃないですかですよ?」


「その言葉はおかしいよガデインさん」

言葉遣いには厳しいクラナ


ガデインはどうしてこうまでも不器用なのか


「じゃあまぁ湖に行きますか」


疲れた体を水が潤してくれればいいが

水なんてのんだら 間違いなく腹をこわすな


ましてや自然に存在する水なんて

なにが入ってるかわかったもん――――


「うめぇえ!!!」

なんだこれは!


ただの水がとてもおいしい



手ですくうと

すんだ水がまったくにごることなく輝く


「すごい・・・今の世界じゃこんなの考えられない・・・」



改めて流れた時の長さと

その愚かな人間世界の無常さを

ただの水が物語っている


人間はダメだ

神に見放された人間たちよ


今お前らは生かされているんだ

うぬぼれるな


その右手もその鼻も

自分で作ったものじゃないくせに


えらそうにいばりくさってんじゃねぇよ

まるで地球を支配したかのように



ほぅ とセロはため息をついた

自分がちっぽけな存在に思える


それをクラナは見逃さなかった


「どうしたの?」


セロの顔を覗き込むようにしてクラナがいった


「いや・・・あの・・・さぁ・・・」

「ん?」


今ここで質問をぶつけてみるべきなのか

クラナに自分の心の一部をあけわたすべきなのか


自分に問う

答えなんて出ていた



セロは自分の左目の下に

まっすぐ、そして深く刻み込まれた傷を

そっと指でなぞって聞いた


「なんでお前たちはみんな・・・

 この傷のこと・・・なんにも言わないんだよ

 なにひとつ聞かないんだよ」


そう――――

この傷がセロという人間を変えた


だいたい

セロを始めてみた人はこの傷を見る


あるやつは心配そうに

あるやつは痛そうに

あるやつはそれがいかにも汚らわしいものであるかのように見た


だいたいその繰り返しだった

例外は・・・このクラナたちと

そして生前はただひとりだけが

セロの傷をただ当たり前のように見た


はじめはセロのことを傷を見て判断する

“こいつは危ない”と


だいたい慣れてくると

ちょっとずつしゃべりかけてくるようになる

物珍しさからか

幼い子供特有の

「知りたい本能」からなのか


ある程度・・・

仲がよくなったと思い込み

セロに傷の事を聞いてくる


しかしそれはほんの戯言でしかなかった

心を許したと思っていたのは相手だけで

セロ自身気を許すことはなかった


だから自分を固めた

近寄らせないオーラで自分を世界から拒絶する


それがどんどんとさらに人を寄せ付けなくなってくる


それの繰り返しが

セロという人間を作った



クラナのまぶたが微妙にピクッと動いた気がした


「そんなの―――


ガサッと茂みが動く

ポプールが歩いてきた


「おい お前歩いて大丈夫なのか?」


「へーきへーき!俺どんな傷でも3時間で直す自身あるもんねっ」

ニカッと笑ってポプールがいった


「嘘付け」


「ほんとほんとー

 アイアムストロングボーイ」


「まーいいや 次倒れても

 おぶってやらねぇ」


「あーひどいね

 そんな殺生な

 これは差別だ人種差別よ

 セロリは差別するやつだーー」


「セロリっていうな」


「あはは」


クラナが笑って会話は一応終わる


ホント能天気なやつだ

このポプールってやつは


そう思った矢先

ポプールの目がスゥっと細くなった


といっても

そんな気がしただけだが


「さっきの話だけどさ」


これだ。

ポプール


こいつは締めるところはしっかりと締めてくる

どれだけおどけていても

論点はずらさない

いや

ずらさせない


これがこの男の凄みでもあった


「傷・・・はじめは実を言うとびっくりしたけど

 けどそれなら・・・

 俺だって同族だよ」


ズボンの右足のすそをまくる

ひざまであげた時に

そのすべてが見えた



痛々しいものだ

足の外側に走る 容赦なき傷跡


ナイフなどで

スパッといったのかもしれない

事故でなったのかもしれない


同族・・・


その言葉がセロを妙に安心させた


「わかるだろ?」


「あぁ・・・わかる」


「だから聞かなかったってわけか?」


「違うよ」

ここでクラナが口を挟んだ


「それだけで聞かなかったわけじゃないよ」


「え・・・」


「傷があったら・・・人じゃないの?

 傷がなかったらセロじゃないの?」


しぼりだすように辛そうにそういった


「傷があってもセロはセロのままでしょ」


クラナが必死にしゃべってくれた

心からしゃべってくれている気がした


「ごめん・・・」

セロの口から無意識に出る 謝罪の言葉


「傷があるから 傷がないからで

 人間がかわってどうするのよ」


それはセロにだけでなく

すべての人に対して言っているような言葉に聞こえた


「ごめんな・・・クラナ」


クラナはないていたような気がする

辛さが・・・ふがいなさが・・・

クラナの目から一滴の水を搾り出した


ポプールがセロに向かって

右腕を差し出した


セロはその手をぐっと握り返す


友情が生まれた儀式だった