第二十一話 逃走劇とイギリのコロシ | 生き返りゲーム

第二十一話 逃走劇とイギリのコロシ

人は変わることができる

 変わることは進化でもあるし

退化でもあるかもしれない


どちらにもいえるのが

 今までの自分と違うってこと


自分を捨てる

 昔の自分を


今の自分を誇るために

 昔の自分が情けないから


だから俺は変わりたいんだ





小さき勇者を

真の男を


気を失った最高の男を

セロは抱きかかえていた


「ポプール」

ついつぶやいたその言葉には

尊敬の気持ちが入っていた


後ろをちらりと見て

ガデインが卑弥呼を抱きかかえ

セロをみて頷くのを確認してから

セロは走り出した


ひとまず外に運ぶ

今は逃げる!


それが最善の道だ



セロも足が遅いほうではないと思っている

しかし大の男ひとりを持った状態では

そう早く走れない


「いてっ」

ポプールのなにかがセロの背中あたりに当たる

ポプールの武器だった

さっき見たときと変形している


どうやらミコト戦で

トリガーをひいたのだろう


こうも変化するものなのか

ポプールの武器は荒々しくなっていた


今にもセロに襲い掛かってきそうなくらい


ガデインは力があるようで

そう変わりは内容だが

もともと遅いので

ちょうどスピードはセロと同じくらいだった


横をクラナが走る


このペースならついてこれるだろう


(あれ?イギリは・・・?)


イギリがいない


と思った瞬間

イギリがセロの右側から追い抜いていった


「おい!おまえ・・・」


イギリは答えずにセロたちのちょうど10mくらい前を走る


「なに考えてんだ・・・?」

相変わらずこいつの考えていることはわけがわからない

しかしなにかがある。それがこの男イギリだった


セロはいろいろと勘繰っていたが


「セ・セロ!今からどっどこいくのっ!?」

クラナは息が上がったのか

途中途中 くぎれながら話した


「そうだなぁ・・・さっ最初の木のとこ!」

セロは疲れを悟られないように話そうとしたが

やはりわかってしまったようだ


そんなセロをみて、

「ポプール あたしがもってあげよーか?」

と、意地悪そうに笑った


「お・・・クラナさんだって疲れてるじゃん」


お前―――といいそうになるのを

ギリギリで止めたが

いきなり

クラナ――と呼び捨てにするのもなんだか

と思ってつい「さん」付けしてしまったのだった


「あははは。クラナさんって何よ  

 クラナ様でいいわ」


「はは」



この建物はなかなか広い

迷路みたいでもあって なかなか下まで降りれない

曲がり角がとにかく多いし


廊下を進んでいくと いきどまりになっているところさえある


ナゼこんなつくりにしてあるのだろうか


やはり戦のとき城まで侵入され場合

城の内情をよく知っている邪馬台国側が

有利になるためだろうか



だとしたら


今まさにその状況なのだ


敵のわなにおちかけている?

いやもうすでに落ちているのかもしれない


最初の木のところと約束したから

多少はぐれてもそこで落ち合えるだろう


どれくらい走っただろう

相当疲れた


息も上がる

ポプール分の体重と

走りにくいのとでセロの体は軋んで音でも出そうだ


そしてこの迷路みたいな道

ただでさえ疲れるのに 疲れは倍増である


道でも間違えたらいっかんの終わり

敵のわなにはまって一網打尽 という可能性もある

袋の中のねずみか


しかしその心配はなかった

イギリが先導してくれるおかげで

道について考える必要もなかったし


なぜか迷わない


まるでイギリも邪馬台国の衛兵の一員であったかのように

なぜわかるんだろうか


それは今、知る必要はない

今大切なのは とにかく逃げ切ること


いくつめかの角を曲がったとき

イギリが前を走った理由がわかった



ものすごい数の敵だ


衛兵が待ち伏せていたのか

全員が武装し

今から始まる戦いへの準備をしている


嵐の前の静けさとでも言うのか

妙に静かだった



「ちきしょう!てめぇら!」


セロは剣に手をかけようとした

しかしその必要はなかった


イギリがほとんどすべての敵をなぎ倒す


とんでもない

とんでもないスピード


ヴァリの武器を使っているようだ

みんな胸の辺りを引き裂かれたり

生きている可能性は皆無だった



横たわる衛兵たち




「あのやろ・・・またころし・・・」


クラナは呆然とするかのように

青い顔を引きつらせていた

まるでこの世の終わりでも見てしまったかのように


イギリは確かにすごかった

鬼のよう――


とたとえるのもすこし違うが

はやすぎる


何十人もいた衛兵が

イギリの手にかかればあっという間

本当にあっという間に血を出し横たわる


誰一人とイギリに傷をつけることはできなかった

というより


誰一人 イギリに対し剣を突き出すこともできていない


イギリは汗をかく様子もなく

ただただ 大量の敵の脇をすり抜けながら

急所を突き、斬り、ひきさいて

走っていく



今までセロが見た中で一番強いのかもしれない


認めたくはないが そうなのかもしれない

セロ自身

こいつとたたかって勝てるのかわからない



バシュ

パシュ


というイギリの肉を裂く音が聞こえる


地獄絵図だ


誰一人叫び声をあげることすら許されず

イギリという鬼にやられていく


ゾクッ

セロの背中に嫌な汗が流れた


いつか自分もあのようにイギリに殺されるのか

俺は反撃できるのか

反応すらできずに

無残に死ぬのか



あれだけいた衛兵も

イギリのおかげで

気にすることなく 修羅場をすりぬけることができた


確かにイギリのおかげで

どうもやりきれないが

それは認めざるを得ない事実


イギリなしであそこを容易に通り抜けることができたか

答えは否

不可能だ



気がつくともう外に出る扉ににたどりついていた

セロはふとイギリの顔を見る


笑っていた


笑うイギリ



なぜ笑える

なんで笑えるんだ

イギリメデュール


セロも確かに生前殺し屋で

世に不用な人物らを闇に葬ってきた


しかし笑えたことなどなかったと思う


たいていは欝な気分になり

軽く酒をあおり

銃の手入れをして


ゆっくりと気分を鎮めてきた


なのにこいつは・・・

笑ってられるのか


ちょっとこいつにはわからせてやらなきゃ


「イギリ」


「なんだよ」

セロの方も見ずに答える

あれだけ動いたのに

息も乱れていない


「お前、またあんなに殺しやがって」


「ん?」

イギリが涼しい顔で答えた

やはり何も気にしちゃいないのか


「あいつら特になんもしてねぇじゃねぇかよ

 ミコトとかならともかく・・・」


「だから殺してねーんだろ

 お前はいつもうっせーな」


は?セロは耳を疑う

聞き間違いか

ハッタリか


「だってあんなに・・・血・・・」

いいたいことが言葉に出ない


なんだこのもどかしさ

動揺している

声も震えている


「ちょっとは考えろよ殺し屋」


そういうとイギリはちらりとナイフをみせた

最初にヴァリからもらったときと

形が変わっていない


変形してないということは・・・


「それじゃ・・・殺せない・・・」


「ん」


セロはイギリをまじまじと見た


「なんだよ」


「お前・・・」


セロはそれ以上何もいわなかった

イギリが変わりつつある?


わからない

変わっていないのかもしれない


でも

今イギリが殺しをしなかった


それだけは信じていい事実なんだ