やっぱり正月は寅さん。
車寅次郎が帰ってきた。
昭和の定番正月映画「男はつらいよ」が復活した。
渥美清の遺作となった49作目から22年ぶり、
1作目から数えて50年、50作目となる
「男はつらいよ お帰り 寅さん」。
早速、観てきた。
 
渥美清は4Kデジタル技術でよみがえった。
かつて映画俳優は「銀幕のスター」と呼ばれたものだが
50年前の姿が、大スクリーンで鮮やかに再現される。
映画スターならではの特権だ。
倍賞千恵子、前田吟、佐藤蛾次郎、浅丘ルリ子、
後藤久美子、夏木マリ親子、美保純、
寅さんファミリー総出演。
ストーリーはと言えば、吉岡秀隆演ずる満男のその後。
ということになるが、シリーズも平成に入るころには
実質的主人公はすでに満男に移っていたので違和感は
なかった。
それだけに過去の寅さんシーンの挿入回数
はいささか多すぎた感がある。
山田洋次監督の寅さん愛が強すぎたのだろうか。
今を生きる「吉岡寅さん」を全面に出しても
良かったように思う。

「男はつらいよ」は渥美清と山田洋次なくしては
生まれなかった映画であることには間違いない。
第1作の封切り前年、赤坂の料理旅館「天城」で
二人は初めて対面した。
そこで飛び出したのが、
「結構毛だらけ猫灰だらけ・・・」
「四谷、赤坂、麹町、ちゃらちゃら流れる、御茶ノ水・・・・」
「四角四面は豆腐屋の娘。色は白いが水臭い・・・」
「ヤケのやんぱち日焼けのなすび。・・・・」
尋常高等小学校卒業後、町工場で働くが2、3年で退職。
上野で本物の香具師やアウトローであった渥美清と
東大出の山田洋次。
山田洋次にしてみれば、今まで出会ったことの
ない人種であっただろう。
彼は渥美清を車寅次郎に重ね合わせ、初対面から
一週間後に本作のプロットが出来上がっていたという。
渥美清亡き後、生みの親たる山田監督が好きにすればいい。
この映画に批評は不要なのだ。
 
バブル期を跨いだ昭和末期から平成初期に掛けて、
僕は毎年「男はつらいよ」正月興行を幼なじみの
女友達と一緒に観ていた。
片方に恋人がいる時でもいない時でも、
僕たちの正月定番行事はお互いが
結婚する直前まで続いた。
当時はシネコンなどない。
松竹館は「釣りバカ日誌」と2本立て。
お昼に待ち合わせ。
長期戦に備えパンや寿司を買い込んで劇場に持ち込み
食事をしながら映画鑑賞。終われば喫茶店で
夜まで語り合い、笑い合った。
仕事のこと、家族のこと、友人のこと、
そして恋愛のこと。
 
僕たちの間に恋愛感情はなかったが、
寅さんが素敵なマドンナと失恋するのを目の当たりに
するたび、自分自身の感情がわからなくなることもしばしばあった。
 
彼女と観た最後の寅さんには寺尾聡が出ていた記憶が
ある。
今、検索すると第43作目みたいだ。
観終えた後、いつもの喫茶店に入るや、
不思議なことだが同時に
「実は・・・結婚するかも」と言い合った。
 
一緒に「マジかあ」!
 
「じゃあふたりで観る寅さんもこれで最後だね」
と笑い合った。
窓から見る空は雲ひとつない快晴だった。

昨年、秋晴れの日。
 
ジョギングから帰ると届いていたのは彼女の訃報。
 
一瞬でいい。
4Kデジタル技術であの時の彼女を見たい。