「日々是好日」を観た。樹木希林の遺作である。

映画で重要なのは「ストーリー」と「テリング」の2大要素。

 

ストーリーは言うまでもなく物語そのもの。原作や企画がそれにあたり、

テリングとは脚本、映像や音楽、役者の演技、編集力などで感情を伝える行為である。

 

落語で言えば「演目」と「咄家」の関係に近い。

 

僕は以前から、というか「寺内貫太郎一家」の頃から樹木希林という役者は希代の狂言回しだと思っていた。この遺作においても十八番の役どころを見事演じ切っていた。

 

時にふざけて、時に寂しく、時に恐く、時に優しく、彼女の口から物語の変化や結末の意味が語られると妙な説得力や納得感が生まれるのが不思議である。

 

国内の映画マーケットは一時の漸次縮小傾向から脱却しつつあるものの、テレビドラマよりはマシだが映画もキャスティングが先行し、結局は「誰が出るのか」で安易に作られている傾向が強い。

 

正直言えばこの「日々是好日」も黒木華、多部未華子に樹木希林が出演したという以外、ストーリーも抑揚がなく平坦な上、テリングにも何の工夫がなく、どこで盛り上がったのかどんなオチがあったのか良く分からなかった。

 

ただイオンシネマというやつは有難い。55歳からシニア割引が適用されて1,100円である。1,100円ならば満足だ。

 

対価として1,700円でも安いと感じたのはカメ止めこと「カメラを止めるな」であった。僕はこの作品に足を運んだのはメディア等で面白いと話題になってから。

 

映画で損をしない方法は前評判ではなく後評判を確認してから劇場に足を運ぶことだ。前評判は作り手側とそれを取り巻く評論家やメディアから発信される情報なので「プロモーション」である。試写会でのシロウト評価も信用できない。何せ「タダで入場」しているのだ。

 

その意味では試写会なんてしてもらえないインディーズの極みみたいな作品「カメラを止めるな」は「お金を払って」映画館に足を運んだ人たちによる後評判がSNSを中心とした口コミから拡散されてヒットしている点で「後出し入場」はより確実な策であった。

「カメラを止めるな」は「始め」「中間」「終わり」と基本に忠実な「3幕構成」を貫いている。その上、ストーリーは奇想天外でテリングも抜群。

一番痛快なのは日本映画界をあざ笑うかのようなキャスティング“ゼロ”でこの結果を生んだ。ということである。

 

「やればできるじゃない」

 

日本映画界の底力にあっぱれ。

 

「日々是好日」を観て思ったのは黒木華の起用法。

 

彼女は主役というよりバイプレーヤーに向いている役者だと思う。

 

僕が映画のプロデューサーなら思い切って彼女を重要な、狂言回しの役柄につけるだろう。

 

樹木希林の後を襲うポジションを狙えるのではないか。彼女のファンから総スカンをくらうのは覚悟の上での提言だ。