【産経抄】6月5日 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






御手討の夫婦(めおと)なりしを更衣(ころもがえ)-与謝蕪村の「人事句」の中でも評判の高い一句である。不義密通か何かで断罪されるはずだった男女が特別に許され夫婦になった。衣替えの季節に新生活を迎え、身も心も軽い。そんな心情が込められている。

 ▼今年は例年より早く夏服、それもクールビズ風に衣替えした人が多いようだ。蕪村の句ではないが、大震災やそれにともなう原発事故、電力不足が重たくのしかかる気分をひとときでも軽くしたい。そういう気持ちが働いているのかもしれない。

 ▼菅直人首相も句のような気分に浸りたかったのだろう。大震災への対応のまずさを断罪され、不信任案をつきつけられた。与党にも同調の動きが広がりあわや「御手討」のところだった。それを「ペテン師」まがいの「退陣」表明一本で与党内の不満を鎮め、延命に成功した。

 ▼だから今ごろは身も心も軽くなっているはずだった。だがそうは問屋が卸さない。調子に乗り過ぎ、記者会見で来年1月までの続投をにおわせたものだから、今度は身内にも総スカンである。閣僚らから「長期なんてとんでもない」といった発言が相次いでいる。

 ▼確かに「震災対策のときに政争などやるべきでない」と首相に有利な声も多い。だが冷静に考えると首相は震災前すでにレッドカードをもらっている。中国漁船衝突事件への対応や日米関係、財政再建、何ひとつうまくやれず、支持率はもう10%台に落ち込んでいた。

 ▼それが大震災でいわば「執行猶予」となっていたにすぎない。支持率も依然低迷したままの今、首相退陣や総選挙で政権を衣替えし、スッキリしたいと願っているのは多くの国民の方なのだ。そのことを忘れないでほしい。