引導を渡す政治家は誰? | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






【松本浩史の政界走り書き】決め手に欠ける「菅降ろし」



民主党内で小沢一郎元代表の支持グループなど反執行部による「菅降ろし」の動きが激しさを増している。ところが、表面上のにぎにぎしさとは裏腹に、そう確たる勝算があってのことではなく、決め手に欠ける隔靴掻痒(かっかそうよう)の政局にあくせくしているようにみえる。

 どうやら今の局面では、直ちに菅直人首相が辞任するには至らず、両院議員総会の開催をめぐる綱引きや党内の各グループの会合などで辞めろ辞めない声が噴出するだけで、攻防のクライマックスは平成23年度第2次補正予算案が可決・成立した後になりそうな気配なのである。

 民主党の関係者に会えば、寄ると触ると「菅降ろし」の話題になる。東日本大震災の復旧・復興策を盛り込んだ23年度第1次補正予算案が参院で可決・成立する予定の5月2日が目前に迫っている事情もあって、この日に内閣不信任決議案や首相に対する問責決議案が提出されはしないか、不信任決議案が提出されれば反執行部は野党に同調するのか、その規模は、ということにことのほか関心があるようだ。

 出方が注目される小沢氏は先週、とある民主党中堅に不信任決議案に対する自身の考え方を述べている。

 「与党の立場にいる俺がそんなもの(不信任決議案)に乗れるか。政権交代は俺がやったんだぞ」

 「菅降ろし」を実現させるには、不信任決議案に賛成するのが早道なのだが、それはしないという。ひところは、不信任決議案による首相追い落とし戦略に前向きだっただけに、軌道修正をした感が強い。

つまるところ、賛成に回って新党を結成することになっても、大震災の復旧・復興を優先すべき時節なだけに、国民の支持は到底得られないし、行動をともにする国会議員の数も読み切れないのだろう。政権交代を実現させた強烈な自負もブレーキをかけることに結びついている。

 とある民主党関係者によれば、参院民主党で絶大な影響力を保持する輿石東会長も周辺に、「今は政局で動かない」と明言したという。

 小沢、輿石両氏が「勝負のとき」はまだ先だとみているのなら、野党が不信任決議案を提出しても、反執行部の同調者は可決に必要な約80人に届かず、したがって、首相が辞任する事態には至らないだろう。

 もちろんのことながら、そうした事態になれば政権はこれまでにない危機に直面するのだが、首相が22日の記者会見で「大震災は宿命」と言ってのけたように、ポストに恋々とする恥知らずな人柄なのだから、潔い幕引きを自ら演じるとはとても思えない。

 そうは言っても、「やはり菅直人には首相は務まらない」との空気はもはや反執行部にとどまらず、首相支持グループの中にも広がりを見せているのが実情だ。実際、「菅氏が首相のままでは、2次補正はもちろん、24年度本予算の成立も危うい」(若手)というため息まじりの声が、首相支持グループにもある。

 過日、小沢氏に近い関係者から、「菅降ろし」について、こんな見立てをうかがった。

 「1次補正はもちろんだが、2次補正まで今国会できちんと処理しないと、『政治の責任』を果たせない。小沢氏には『2次補正が成立するまで政局を仕掛けない』と明言してもらいたい。『菅降ろし』はその後だ」

込められている暗意は、首相退陣と引き換えに2次補正を成立させるという思惑だ。2次補正をきちんと処理しなくてはならないとの認識は、党内に共有されており、首相アレルギーがことさら強い自民、公明両党をはじめとする野党対策も勘案し、どんなやり方で成立させるか、ということが重要になっているわけだ。

 となれば、誰が首相に引導を渡すのか。

 首相は大震災発生後、仙谷由人代表代行を官房副長官として再び官邸に迎え入れた。ところが、さる政府関係者によれば、今、首相は仙谷氏としっくりいっていないのだという。「首相は仙谷氏に会いたがらない」とまで言っていた。

 首相を支え続けてきた仙谷氏が公然と「菅降ろし」に舵を切れば、その影響はことのほか大きい。党内には、「今となっては首相のクビに鈴をつけるのは仙谷氏しかいない」(別の若手)との声は根強く、政権運営がにっちもさっちもいかなくなれば、いやが上にも仙谷氏への“期待”は膨らむ。ここしばらくは、仙谷氏の立ち位置と言動を気にしておいた方がよさそうだ。