【40×40】山田吉彦
福島第1原発事故の影響で、避難生活を強いられている方々にお見舞いを申し上げる。見えない恐怖というのは、言葉にはし難い。日本財団に勤務していたころ、チェルノブイリ原発を3回ほど訪れたことがある。事故後8年目から残留放射線量の測定チームの一員として強制退去地域を回った。当初は健康被害などを気にしたが、放射性物質の特性など適切な知識を身につけ備えをすれば恐れるに足りないことを知った。
今回の原発事故での問題は、その適切な知識が伝えられていないことにある。政府も東電もマスコミへの情報公開の手法がお粗末だ。低濃度汚染水の海洋放出は、最悪の事態を回避する措置であったと思うが、情報伝達が後手に回り国民の不信感をあおる結果となった。また、数値が基準値の何倍などという形で公表されているが、その基準値の根拠はどこにあるのか不明だ。
風評被害とは怖いものだ。茨城県でコウナゴから放射性物質が検出されたと報道されると、茨城産の魚が売れなくなった。専門家の言葉を信用せず風評被害を助長している人がいることも脅威だ。長崎大学の山下俊一教授は世界保健機関(WHO)緊急被曝(ひばく)医療協力研究センター長も務める第一人者だ。その専門家がこれ以上危機感を募らせる必要がないと言っているのにも関わらず、にわか知識で否定しようとするのはなぜだろうか。
中国や韓国でも、日本バッシングが始まっている。中国では、日本産の野菜の一部輸入禁止や日本の貨物船の入港拒否が行われた。韓国では、放射性物資を含んだ雨が降るといい100校以上の幼稚園や学校が休校となった。風評を利用し、日本の悪いところを強調しているようにさえ感じる。本来、情報は正しい対策を講じるために使われ、安心を与えてくれるものである。政府は情報を一元化し、最も適切な情報を公開すべきである。さもなければ、日本という国をおとしめようとする人々に利用され、被災地の人々をさらに苦しめることになるのだ。(東海大教授)