【日々是世界】
東日本大震災による福島第1原発事故への対応の遅れで、国際原子力機関(IAEA)に対する信頼や評価も大きく低下した。IAEA事務局長を務める天野之弥(ゆきや)氏はその批判の矢面に立たされている。IAEAといえば、イランや北朝鮮の核開発に目を光らせる“核の番人”として表舞台に登場するが、それ以外の活動はあまりよく知られていないのが実情だ。
17日の米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は、福島第1原発で最初の爆発があった後、IAEAがその事実を確認したのは5時間も後だったとし、「IAEAの当局者は(本部のある)ウィーンの危機管理室から、原発事故の経過を古い情報とともに監視し続けていた」と皮肉った。
記事はIAEAのアナリストを最近、引退したというロバート・ケリー氏の「各国はIAEAの勧告に従う義務はない。IAEAは核の番人ではなく、仲裁人だ」とのコメントを紹介。また旧ソ連・チェルノブイリ原発事故当時、ソ連専門家チームのトップだったユーリ・アンドレーエフ氏はソ連政府は虚偽の情報をIAEAに提供していたと明かし、「IAEAには、核の大惨事に対応できる訓練を受けた専門家がいない」と指摘した。
IAEAは1957年、原子力の平和利用と核物質の軍事的転用防止を目的に発足。70年に核拡散防止条約(NPT)が発効し、米英仏中露以外の非核兵器国はすべての核物質を申告し、IAEAの査察を受けることになった。
原発大国の日本も査察対象だ。IAEAは、2004年に日本を「核を軍事転用する意思のない国」と認定し、かなり査察を「甘くしている」(関係者)。とはいえ、IAEAの総予算3億1800万ユーロ(約364億円)のうち、査察費用は1億2100万ユーロ、そのうち約3割が対日査察分とされる。
一方、21日付の韓国紙朝鮮日報(電子版)は、「福島原発事故を通して北朝鮮の核を考える」と題するコラムを掲載。安全性が高いと世界に認められ、IAEAのガイドラインも忠実に守ってきた日本の原発で事故が起きたことを取り上げながら、北朝鮮の核には、IAEAの監視が届いていないことに言及している。「北朝鮮の核は発電用、兵器用を問わず、独自の基準で管理されている。しかもIAEAなどの関係者を追放し、ベールに包まれている」とその安全性に改めて疑問を呈した。
原発の安全対策面でも役割が期待されたIAEAだが、今回の事故で危機管理能力の弱さが露呈された形だ。