『真田丸』第25回『別離』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

先週の次回予告で治部が脱ぐシーンが紹介された所為か、放送前から話題沸騰でしたが、鶴松のための水垢離という、思っていたよりも重いシチュエーションであったため、茶化しにくいものがあります。予想では虎之介や市松から忍城攻めの不手際を『青瓢箪の小役人らしい失態』とでも罵られた治部が、モロ肌脱いで無言で反論するのではないかと思っていました。実際、治部は賤ヶ岳の戦いでも一番槍を挙げており、決して文弱の腐れ役人ではないのですが、徳川二百数十年に及ぶ治世の間に培われた風評というのは恐ろしいですね。
風評といえば、中の人絡みで石田三成さんのツイッターがクソリプまみれになったとかならないとか。ドラマと現実の区別がつかない人間が何かやらかす前に『真田丸』の放送を規制しようとかいう話にならないといいのですが……え? 考え過ぎ? 漫画やアニメを規制したがる連中の言い分は常にこうですよ? 更にいうと彼らの中には『武道による青少年の情操教育』とかいう戦車道は乙女の嗜みと同じレベルの発想を現実で推進したがる人々もおりまして……二次元と現実の区別がつかないって怖いよね。
些か話がズレました。折り返しの二十五話目を迎えた『真田丸』。今までの放送の中でも異色な構成で静かなる節目となった今回のポイントは6つ。


1.今夜が山田

真田信繁「ご容体はいかがですか?」
大谷吉継「この者たちに隠していても仕方なかろう」
石田三成「…………極めてよくない。今夜が山だそうだ」
平野長泰「利休殿の祟りではないかと密かに噂する者がおるそうで」


『真田丸』にしては珍しく、暗い画面と暗い話題で始まった今回。通常は序盤の軽妙なコメディシーンで作品へのハードルを下げておき、後半のシリアスな展開との落差をつけるのが本作のヤリクチですが、今回はコメディ、シリアス共に均等に配置されていました。冒頭で係の者が城内に蝋燭の火を灯して回るのも、当時としては普通の光景なのですが、現代の我々にとっては忌事の暗示のように思われます。宗匠の死に関する描写などで一部、時間軸を前後させる手法を用いたのは物語に意図的な不安定感を醸し出すためでしょう。
しかし、秀吉が主人公の大河であればいざ知らず、真田の物語で鶴松の死に一話丸々費やすとは思い切ったことをするものです。次回から後半戦突入ですが、残りの構成がどうなるのか、非常に気掛かり。流石に大河ドラマで俺たたエンドはないと信じたいのですが。


2.遺言

豊臣秀長「力のある大名たちが、皆で鶴松さまをお守りしていく。これしかありません。今後は、くれぐれも誰か一人に力が集まってはなりません」

序盤で立て続けに二人の屋台骨が失われた豊臣政権。まずは軍務尚書が無言で頷くであろうナンバー2不要論に拠り、最期の御奉公として宗匠を道づれにした大和大納言秀長。この発想が五大老・五奉行に発展すると思いますが、一門や譜代の家臣に力を与えなかったために家康の台頭を許した結果から慮ると、これも一つの豊臣家滅亡フラグと思えなくありません。信繁を殺そうとした虎之介を庇った発言といい、本作の秀長はいい人そうに見えて、実は問題のある人として描かれている気がしてきました。そして、もう一人の遺言は、

千利休「一言でいえば……宿命(さだめ)や」

尚、宿命とは茶々への懸想であった模様。

『世の中を動かすことに使ってこその金』とか『業が深かったからこそ、茶の湯を極められた』とか、なかなかに含蓄のある言葉を並べていた宗匠ですが、足元を掬われた原因となる等身大フィギュアは何と茶々への贈り物であった模様。そんな宿命があってたまるか。己の沽券に拘わる話なので、宗匠は勿体ぶった物言いで煙に巻いたのではないでしょうか。惚れた女に請われて等身大フィギュアを制作した(発注ミスなんて嘘に決まっています)なんて、黒歴史としかいいようがありませんからね。恐るべし、老いらくの恋。
尤も、宗匠のいう『宿命』とは自分ではなく、茶々を指している可能性もあります。奇しくも今回きりちゃんが指摘したように悪気なしに他人を不幸に導く茶々のファム・ファタール体質に巻き込まれたという自覚が、宗匠に上記の言葉を紡がせたのかも知れません。そう考えると信繁に向けた乾いた笑いも『あんさんも気をつけなはれ』という冷笑、乃至は警告と思えなくもありません。


3.今週のMVP&M『B』P

石田三成「私とて、綺麗事だけでは生きていけぬことくらい知っておる」
大谷吉継「いや、本当に手を汚すとはどういうことか、まだ判っておらぬ」フフン


今週一番怖かったのがコイツ。やっていることはスズムシや信尹叔父さんと大差ないのですが、刑部の恐ろしさは己の悪事に治部を巻き込んで平然としていることですね。そればかりか、甘ちゃん治部のウブなリアクションを眺めて楽しんでいる節さえある。

「『キャベツ畑』や『コウノトリ』を信じている可愛い女のコに無正の○○ノをつきつける時を想像する様な下卑た快感」

に酔い痴れているかのよう。勿論、治部を立派な策謀家に育成しているのも確かとはいえ、彼が主人公の岳父になると思うと背筋に冷たいものを感じます。作中では祟りとか怨念とかいう不吉なフレーズが飛び交っていましたが、結局一番怖いのは人間なんだよなぁ。本人は、

大谷吉継「祟りなどある筈がない。もし、あるとならば真っ先に祟られるのはこのわしだ。この通り、何事もない」

と泰然たる様子でしたが……何れにせよ、今回最も印象に残ったのは刑部殿。ただし、あまりのドス黒さにドンびきしてしまいましたので、MVPと同時にMBP(Most black Player)に叙することにしましょう。
対照的に初々しさを垣間見せたのは治部。虎之介や市松に誘われた水垢離に何やかやで参加しましたが、あれは鶴松の快癒を願うというよりも、宗匠の祟りを恐れてのことではないかと思いました。祈願ではなく、罪悪感からの水垢離ですね。まだまだ可愛いトコありますな。


4.今週の日曜どうでしょう

とり「心は常に一つ。一家とはそういうものです」

豊臣パートが不穏にして不吉なムード満載であったのに対して、沼田、上田、大阪のスズムシパートは基本的に暖かい雰囲気でした。並みの作家だと鶴松の死にあわせて、真田側でも誰か死なせたくなるものですが、この辺のバランス感覚は流石です。大叔父上は無断で隠し扉を拵え、新しい嫁は心を開かず、スズムシは乱世の到来を待ち望み、愛しの弟は大阪から戻ってこないという状況で『家族の心は一つ』といわれても、この場にいないお兄ちゃんは俄かに頷けないものがあると思いますが、それはいつものことです。ついでに、

真田信幸「大叔父上にも困ったものだ」

と愚痴を零すお兄ちゃんですが、お兄ちゃんを困らせない真田関係者は殆ど皆無なので今更という気もします。愚痴る相手もなく、ついつい、おこうさんに縋ってしまったお兄ちゃん。流れ的にはおこうさん懐妊~稲姫激怒~フルアーマーカブトムシが蜻蛉切片手に上田に乗り込んでくると思いますが、お兄ちゃんなら何とかしてくれるでしょう(適当)
残念なのは小山田夫妻の再会。匂い袋が記憶復活の鍵になるかと思ったのですけれども、殆どスルーですか。嗅覚は記憶と密接に関連しているのになぁ。『ラストシップ』でチャンドラー艦長が奥さん愛用の香水握りしめるシーンとか好きなのよね。


5.今週のスズムシ

真田昌幸「わしの読み通りになりそうだ。豊臣の世は……」
徳川家康「そう長くは続かんぞ」


関八州に左遷された家康は兎も角、小県の本領安堵&沼田GET&徳川の寄騎脱却という最高の待遇で報いてくれた豊臣政権に対して、斯くも不遜な物言いをするとは……スズムシの辞書には恩とか仁という言葉はないのか……ないよね、うん。まぁ、それは今更仕方ないとしても、全方位にテキトーなことを言い散らした挙句のマグレ当たりをドヤ顔で自慢するのはやめーや、このショットガンスズムシめ。今回も相変わらずのロクでもないシーン(褒め言葉)の連続となった我らがスズムシでした。
この場面、家康と昌幸という、決して相容れない二人の武将が違う場所で同じようなロクでもない企みを巡らしている、その場面自体は面白かったです……が幼子の死を期待する大人の画は見ていて気持ちいいものではありません。スズムシは兎も角、家康のほうには『罪なき童の死を願わねばならないとは業深い人生よの』くらいはいって欲しかったかも。
ちなみにMVPは上記のように刑部殿ですが、次点はスズムシ夫人の薫殿。一面識もない鶴松のために必死こいて薬草を煎じる姿は健気の一言。また、スズムシと家康が廊下で顔をあわせた時はスッと跪いて頭を下げるところとか、何気に育ちのよさを漂わせていました。


6.別離

豊臣秀吉「…………………………」デンデンデンデン

この鶴松死去のシーンは胸を打ちました。決して目は笑っていないとはいえ、多弁で感情の振り幅が大きく、怒ると何をするか判らない秀吉の心境を台詞ではなく、デンデン太鼓の音で表現する一方、喜怒哀楽の『怒』と『哀』が欠落した(ように見える)茶々が、寧々に促されたとはいえ、感情を露わに号泣するというのが、鶴松の死が如何に大きな出来事であったかを表現しております。物語全体を通しても、大坂パートでは徒に泣き喚く人物が登場せず、感情の爆発をラストの茶々のみに留める構成は巧いの一言。この辺は王道の泣かせを好まない三谷さんの作風がプラスに働いたと思います。登場全員がビービーと泣き喚くよりも、普段泣かない奴が一人で泣いたほうがインパクトあるのね。勉強になりました。


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