『独眼竜政宗』第24回『天下人』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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時事、徒然、歴史、ドラマ、アニメ、映画、小説、漫画の感想などをスナック感覚の気軽さで書き綴るブログです。
※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

毎回、感想記事を書くために片手でメモを取りながら見ていますが、今回は最初から最後までメモしている暇が全くありませんでした。それどころか、いい年齢こいて、テレビ画面に首ったけ。史実の顛末も知っている&本作も何度も見ているにも拘わらず、視聴者の首を力づくでも画面の方角へ捻じ曲げるパワーは何でしょう。

圧倒的じゃないか、勝新は。

今回は完全に勝新の勝新による勝新のための大河ドラマでした。勿論、ナベケンも原田のアニキも津川さんも凄かったですけれども、ここは理屈抜きで天下人の圧倒感を楽しんだほうが勝ち。今回のポイントは5つ。

1.勝新

誰が何といおうと、今回のイチオシは勝新。全身から圧倒的なバイオレンス臭を漂わせる秀吉というのは、空前にして絶後でしょう。何処の世紀末覇者だよ。先回は政宗があらんかぎりの知恵を駆使する様子が描かれたものの、その一切が通用しないのが天下人の真の恐ろしさ。天下人というのは正しい理屈を説く相手でも気分次第で殺す権力があるから天下人なんですよね。況や、後ろ暗い事案を腐るほど隠している政宗なので、策とか理屈とかじゃなく、相手の御機嫌を窺うしかテがない。そういう相手だというのを視聴者に伝える手段として、勝新というキャスティングはまさにうってつけでした。でも、当時のスタッフとしてはかなりの冒険……というかギャンブルに近かったと思います。何せ、通説で語られる秀吉とは似ても似つかない容貌のうえ、大河ドラマでは緒形拳さんという絶対的なハマリ役が既に出ている。そもそも、勝新を歴史劇で使うとすれば、

影武者ではない

普通はこっちが順当でしょうにね。コケたら責任者のクビが飛ぶレベル。勿論、比喩ではなく、モノホンのクビがです。いや、流石に言い過ぎ……でもないか、うん。よく語られる逸話として、撮影に先駆けて挨拶に出向いたナベケンに勝新が『小田原で会おう』と敢えて顔を合わさなかったとか、今回で秀吉が政宗の首をバシッと叩くアドリブ(台本では巷説通りにチョンと触る程度であったらしい)でナベケンの反応を楽しんだとか、今回の撮影を終えたナベケンに『いい目をしていたぞ』と声をかけたりとか、色々とエピソードが知られていますが、この『ヤンチャな若手を弄って器量を探ることを楽しむベテラン』という構図は、秀吉と政宗の力関係そのもの。秀吉としては政宗を生かすも殺すも一時の気分次第。でも、政宗には秀吉の機嫌が己の明暗を分かつ全て。その緊張感を出すためだけに、勝新というキャスティングをしたと評しても過言ではないでしょう。言い換えれば『政宗の目に秀吉はどのように映ったか』を劇画的に表したのが本作の秀吉なんです。あれは、

天下人のオーラが醸し出す迫力の表現

であって、本当は通説通りの体格なんですよ、多分。敢えて例えれば、

身の丈十五メートル

これと同じ理屈ですね。

この時は『オーラの所為で大きく見えた』と剣桃太郎は解説しています。まぁ、そうは言いつつも、

ゆでレベル

俺はこのコマを見落としてはいないのですが。これは流石に言い逃れできないよね。

2.対面

上記のように勝新の存在感が全てを飲み込んだように見えましたが、それに頼りっきりということは断じてありませんでした。まずは対面のシーン。秀吉に『近う』と招かれた政宗が、相手に『飲まれた』がために脇差を帯びたままで前に出そうになる。それを家康が無言&秀吉に見えない角度でそれとなく窘める。政宗、慌てて元いた場所に跳びすざり、脇差を外す。実に芸が細かいシナリオです。台詞を聞き流す観賞をしていたら絶対に見逃すシーンでしょう。個人的に一番キワドイと思ったのが秀吉が政宗の年齢を尋ねる場面。勿論、人にもよりますが、ある種の権力者には若さとはそれだけで憎悪の対象になり得るんですね。自分よりも無知で愚鈍な輩が、若いというだけで俺よりも長生きするのは許せない的な発想。この場合、若いほうは己の才幹が寿命に値することを示すしかありませんが、そうした才気を先走らせた物言いは禁物と先回で家康に釘を刺されている政宗としては、只管に秀吉に哀願するしかない。前後の台詞を鑑みても、政宗の屈辱外交は、この秀吉の台詞以降に顕著になっているので、政宗も問いの真意に気づいたんじゃないかと勝手に思っています。実際、この場面では勝新の存在感は当然としても、ナベケンのリアクションがいちいち見る側のツボを押すというか、そうだよなー、あの勝新秀吉にあんなことされたらそーなるよなーという表情の連発。勝新が『いい目をしていた』と褒めたのも納得です。

3.伊達者

根府川の陣所は秀吉不在の場面。まぁ、始終出ていられたら見ているほうも緊張感半端ないのですが、よくよく見たら、この場面の出演者も錚々たる顔ぶれなんですよね。のちに佐久間象山に転生する石田三成もいるしさ。
『鄙のみやこびと』という秀吉による政宗評。聞き心地はいいのですが、裏を返せば気取った田舎者と取れなくもありません。少なくとも、根府川の陣所にいる連中はそういう意味で捉えているでしょう。台詞の一つ一つに裏の意味がある&推察する楽しみがあるのが本作。
中身をブチ撒ける勢いで献上品の砂金を披露する政宗。三方から零れた砂金は埃か砂を払うように無造作に畳の隙間に払い落とすとか。これは確かに伊達者……要するに傾奇者です。若干の鼻白みを禁じ得ないほどのやり過ぎ感が傾奇者の条件。『秀吉の他は有象無象』と斬り捨てた政宗の意地が光る場面です。
まぁ、そうは言うても、秀吉の前では大人しくしているしかないのも政宗の現実。茶席の問答とか超リアルですよ。上司に下ネタを振られた時ほど対応に困るものはありません。そういうネタにもちゃんと応じなければいけないのも政宗の現在。ついでにいうと、それと同じノリで死に物狂いで奪った会津を返上させられちゃうのも政宗の現実。

4.幽霊のリアリティ

しかし、今回一番リアリティを感じたのが小次郎の亡霊の場面。幽霊の場面にリアリティもへったくれもないだろうとお考えの方もおられるかもですが、さにあらず。人間が幽霊を見る時はどんな時か。気を張り詰めている時には幽霊は現れません。心に隙や脆さが生まれた時に人は己の中に巣食った影を見る。秀吉に気に入られて生命は助かり、会津を没収されたとはいえ、本領は安堵された。政宗は概ね成功したといってよいでしょう。この時、政宗は成功で気が緩んだ筈です。緩んだと同時に心の奥底で考えたことは何か。

『誰の力でこんなにうまくいったんだろう?』

これ以外にありません。九分九厘、斬首という状況から起死回生を果たした主人公。しかも、途中経過は兎も角、最後は秀吉の機嫌次第という天運がもたらした僥倖です。自分の力で切り開いた活路であれば全てを理性的に受けとめられたでしょうが、そうではなかった。無意識に色々と思案を巡らして出した答えは弟殺しで国論分裂を回避したという現実。その結果、政宗の中のウシロメタサが心の緩みに乗じて脳の内部で映像化された。これが小次郎の幽霊の正体だと思われます。一見、奇を衒ったとしか思えない場面も、凄く計算されて描かれているのが本作……だと思います。オドロオドロシイ雰囲気とは裏腹に、実は政宗が危機を脱したことを表す場面でした。

5.軍師の鑑

奥羽仕置きの流れで小十郎を呼び寄せる秀吉。この時の政宗の、

どっちが松尾でどっちが田沢?

という表情が堪らん。案の定、

豊臣秀吉「おまえの嫁の実家の田村家は所領没収な。その領地を小十郎にやるから。小十郎が励めばン十万石の大名にもしてやれるぞ」

という到底受け入れがたい内容。実際、秀吉は小十郎以外にも他人の家臣を領地で釣りあげようとするマネを何度もしています。直江兼続もその一人でした。人材コレクターという純然たる趣味の域ではなく、有力大名家の分断を企図してのことでしょう。政宗にはそれが判る。しかし、この秀吉の要請のタチの悪さは、どう返答しても自分にはマイナスにしかならないということですね。
否と答えれば、秀吉への忠誠心が疑われる。
さりとて、応と答えれば腹心と共に妻の実家からの信用も失う。
まさに進退窮まった主人公。しかし、その窮地を救ったのは他ならぬ小十郎。政宗が何を言ってもマイナスになることを悟り、主君に一言も発させることなく、その場を収めます。勿論、秀吉の勘気に触れた時は己の生命で償う覚悟がある。しかも、伊達家が秀吉に仕えた以上、伊達家に奉公することが秀吉への奉公であるという理論武装つき。これには秀吉も退かざるを得ません。本当に小十郎は頼りになるなぁ。これで嫁にムチャ振りするのを辞めれば完璧なんですが。今回のマー君は優しかったじゃん。俺が死んだら実家に戻って新しい幸せを捜せとか。一方の小十郎は息子を殺しておまえも死ねと命じた。同じ虎哉和尚の門弟同士、どこで差がついたのか。
一方の秀吉も退きさがらざるを得なかったとはいえ、流石は俺が見込んだ男と自分をageることも忘れないチートっぷり。断られたことさえも己の評価のプラス材料にします。元々、本作の秀吉にとって、小十郎の一件は食事の腹ごなし程度に過ぎない。でも、政宗には一大事。これも両者の差の描き方として秀逸。今回、まざまざと器量の違いを見せつけられた政宗。その反撃や如何?

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