『MASTERキートン Reマスター』QUEST3『マリオンの壁』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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平賀=キートン・太一「別れた? 理由は? 『理由なんて……ない』……?」


急展開の回でした。


終盤までは如何にもキートンらしい、アカデミックミステリでしたが、ラスト2頁で描かれた事柄の衝撃度といったら……いや、こういうことになるんじゃないかと第1回の感想で予想してはいました が、過去形ではなく、現在進行形の形式で描くとは思いませんでした。この展開を描くために考古学の花形であるトロイア戦争をダシに使うとは随分と思いきったことをしたものです。しかし、その目論見は見事に成功したと思います。上記の事柄とは勿論、


百合子の離婚


です。


今回の表向きの主題はトロイア戦争の謎&ベコー教授の元妻の関係。キートンが提起したトロイア戦争四つの謎は以下の通りです。


①ギリシアとトロイアが一人の女性を巡って10年も戦争をした理由

②トロイア人が木馬を神聖視していた理由

③木馬の奇襲の真相

④トロイアに駆け落ちした妻をスパルタが許した理由


この中の①は私も大体見当がついていました。或いはトロイアに逃げたヘレネはエーゲ海の隠喩で、新興勢力のギリシアと既製勢力のトロイアとの制海権を巡る争いだと考えていましたが、


ベコー教授「和議のため、嫁を差し出し、あとで返せと戦争を仕掛けるのは中世にもあった常套手段だ」


というのは思い至りませんでした。

②は作中で描かれているように20世紀末のトロイア遺跡発掘が解決の鍵にされていました。この辺は『Reマスター』の面目躍如。

③は……結構苦しかったかな。結論は面白かったのですが、もう2、3頁は結論に至る模索に費やして欲しかったです。

そして、最大の問題とされる④。あくまでも理論を優先するベコー教授の思考の盲点を突くキートンの答えが光りました。


平賀=キートン・太一「キリスト教の神は人の行動に正義を求める。常に理由と答えを求める。でも、ギリシアの神々は逆です。人をわざと理由や答えのない行動へと駆り立てる。

トロイア伝説の最後の謎……戦争の元凶たる妻を、なぜ夫が許したか。理由なんかない。ただ許したかったから許したんですよ」


これはキートンが本当に信じているかは微妙だと思います。ベコー教授と元妻の復縁を取り計らうための詭弁かも知れない。でも、この答えで誰かが傷つくわけじゃない。逆に素直になれない熟年カップルの心の壁を突き崩したわけですから、この答えでOKなんです。何より、①~③の問題をキートンとベコー教授が理詰めで解決したからこそ、④に対する回答はセンリメンタリズムでも話が通るのでしょう。否、④の回答を出しても文句をいわれないように①~③では徹底してリアリズムを追求したのだと思われます。ちなみに、キートンが説くキリスト教の『神』とギリシアの『神々』という単数形、複数系の表現は地味に嬉しい。ギリシア、ローマの宗教は日本の八百万の神々と同じく、神の数だけ真実があるようなおおらかなものですからね。このように人の心の動きに理由なんてないという結論をいい意味で用いた話で終わる……かと思いきや、今度は、


平賀百合子「旦那と別れたった。理由なんてない」


と悪いとはいかないまでも、明らかにマイナスな表現で〆るオチが最高。確かに男女の出会いや別れに理由を探すほうがナンセンスなんですが、こんないい話をこんな碌でもないオチに導くために使うとか……浦沢先生、贅沢過ぎです。


今回ラストで大きな動きのあった『Reマスター』。考えてみると初代(?)でも、キートンの私生活に初めて触れられたのも第3話なんですよね。それまでのキートンは謎の非常勤講師&オプでしたが『小さなブルーレディー』で百合子が初登場して、キートンの離婚歴が暴かれて、そこから色々と物語が動き始める。それを鑑みると今回の『Reマスター』第3話で百合子の離婚話が浮上したのは意図した構成と思われます。ここからが『Reマスター』の本番ということでしょうか。次回が楽しみです……と思っていたら、


次回は12月20日発売号に掲載!


半年近くもお預けかよ……orz


あ、それと百合子の旦那と思しき基行君は多分、初登場キャラだと思います。先代(?)の第3話や終盤の受験の回で出てきた男の名前と全然違っていましたしね。もしかしたら見落としている可能性もありますが(汗)。