『平清盛』第25回『見果てぬ夢』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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今回のサブタイトルは『見果てぬ夢』。何か最終回といわれても納得しそうなサブタイトルですが、実際は第25話。つまり、全体の折り返し地点ですね。それに相応しい……というと変な表現になりますが、今年の大河ドラマの特徴が色濃く出た回になりました。即ち、


『伏線や布石の使い方が巧妙』


『政治劇や戦闘の場面は苦手』


の二点です。これまでの感想でも何度も述べてきましたが、今回はワザとやっているとしか思えないくらいでした。そんな今年の大河ドラマの縮図ともいうべき第25回の感想いきます。


出る人出る人、皆が何処か歪んでいるとしか思えない朝廷パートの中で殆ど唯一の良心の塊である統子内親王が院号宣下で『上西門院』となる。実にめでたい。ついでに第二形態の頼朝もその蔵人となる。要するに秘書官ですな。その出世を寿ぐなっちゃんですが、完全に衰弱しきっている。それこそ、サン○リーの『なっちゃん』ジュースでも飲んで元気を出して欲しいんですが、今、この商品のCMやってんのって、



~ Literacy Bar ~-公式サイトより


この人なのな。しかも、


「し~らないう~ちにお~いしくなっていた~♪」


とか今謡みたいに歌っちゃってるし。NHKかサ○トリーかどっちかは判りませんが確信犯でキャスティングしたんじゃないかと邪推されても文句はいえないと思う。


主人公の報告を元に各地の租税から国家予算の概算を計上する信西。あの筮竹みたいなのは当時の算盤なのね。知りませんでした。忙しい忙しいとかいいながら、何処か嬉しそう。それは己の才覚を発揮する時と場を得たゆえと述べる信西の妻・朝子。それを表すエピソードとして紹介されたのが、久寿二年(1155年)の鳥羽院の熊野詣の際に宋の僧侶・淡海と信西の逸話。

『生身観音』を拝むためにお告げに従って、日本にやってきた淡海が、日本人とは思えないほどに宋国の言語、政治、事情に詳しい信西の姿に観音を見たというエピソード。これは『平治物語』の一節ですな。まぁ、辺境の島国に本国の人間よりも宋の事情に詳しい人物がいたら誰でも驚くわなぁ。信西を生身観音と拝んだ淡海の言動を、


平清盛「それはねーよ」(CV:高山みなみ)


と苦笑しながらも何処か楽しそうな主人公。ここは信西の見識の確かさをしめすと共に、序盤から描かれてきた信西の宋国への憧憬の再確認&この回の終盤で描かれる信西の見果てぬ夢への伏線&信西対する清盛の信頼の確かさが現れた場面になります。この場面を筆頭に今回全体の雰囲気に対する総評はラストで語るとしまして、取り敢えず、場面を進めます。


そんな信西の豪腕ぶりを快く思わない人々も多数存在します。まずは二条天皇の側近、藤原経宗……って、オイ。


コイツ、伝兵衛じゃねーか。


悪左府役で日本一『麻呂メイク』の似あう役者になった山本耕史さんに対して、有薗芳記さんは日本一貴族役の似あわない俳優さんだよな。このキャスティングも確信犯としか思えん。ワザと似あわない役者さんを登用することでミスマッチの妙を楽しめといわんばかりの意図を感じます。有薗さんの演技力は何の問題もない分、ヴィジュアル面の落差が半端なく面白い。彼らは政治の実権をゴシラ帝から奪取しようと企んでいます。

更にゴシラ帝側近のツカジョージこと藤原信頼。コイツはゴシラ帝の寵愛を巡って、信西と対立しています。コイツの場合、二条天皇派よりも性質が悪いのは信西と同じ主、つまり、ゴシラ帝を擁していることですな。それゆえ、如何に信西が、



~ Literacy Bar ~-世紀末


(超意訳)叱りつけても、ゴシラ帝がいいじゃん、おもしろそーじゃんと決めてしまえばそれでおしまい。何よりゴシラ帝もツカジョージが何の才幹もなく、家柄だけで出世した輩と承知のうえで重用しているんだから本当に性質が悪い。そりゃあ、信西が『長恨歌』に託けて、ツカジョージを遠ざけよと諫言しても通用しないわな。全部承知のうえなんだしさ。この作品のゴシラ帝は源頼朝が評した『日本一の大天狗』よりも『ダダイスト』『ヒッピー』『デカダンス』の雰囲気が濃厚。ちなみに、この『長恨歌』の逸話も『平治物語』の一節です。


左馬頭の役職通り、厩で仕事に勤しむ源氏一党。

この描写はアリなのか? 確かに左馬頭は朝廷の厩の管理が仕事ですが、宮人としては珍しく帯剣を認められたり、検非違使の補佐とか、武張った仕事も多かったわけだし、幾ら何でも家臣皆で鞍掃除とかはないんじゃないのか。この場面は義朝がどんどんダメになってゆく(終盤で盛り返すタメですが)場面なので、そこに力点を置きたいのは判りますが、もう少し描き方があったと思う。

『奥方の病気が気掛かりだ、何時でも薬を届けさせる』という清盛の言葉にも『朝廷の走狗になってるテメーの力は借りねぇ』と強がる義朝。『いや、信西の力を利用して朝廷に確固たる地歩を築くのだ』との言葉にも『武力でのしあがってこその武士じゃねーのか!』子供じみた反駁しかできない&部下の仕事を奪うように黙々と鞍を磨く源氏の棟梁。先回といい、今回といい、義朝を叩き落す描写が目につきますな。タメています。あ、それと義朝が『父を斬ってまで手にした職が云々……』の件で鎌田正清のカットを入れたのは◎。義朝は自分が斬ったとかいってますが、実際に手を下したのはこの人だしね。義朝には父を斬ることもできなかったわけで、その意味でも、とことん落とす描写が続きますな。


上西門院統子内親王殿上始の儀。

ここでナレーションと清盛が初顔合わせになります。第一話の冒頭を思い出すと、それなりに感慨深い場面でした。清盛の杯に酒を注ぐ頼朝ですが、その存在感にビビッたのか、うっかり、器から酒を零してしまいます。


源頼朝「ご、御無礼を仕りましたッ!」


平清盛「あぁ、いいよいいよ、気にしなくて。俺なんて口から酒を迎えにいくのが大好きだからさぁ、少しくらい零れるくらいが丁度いいんだよ」

平清盛「やはり、最も強き武士は平氏じゃ! 其方のような弱き者を抱えた源氏とは違うッ!」


この場面は第1話から見ていましたから、すぐにピンときました。清盛と義朝の早駆けの場面ですね。あの台詞がそのまま使われていましたんで、あぁ、今回の後半で回収されるんだなと思いました……が、途中参戦の方には浮いた場面に思えたんじゃないでしょうか。昔、義朝が清盛の奮起を促す際に吐いた言葉だと知らないと余りに唐突過ぎる台詞ですしね。まぁ、予想通り、この回の中で回収されたから問題なしかな。しかし、相手の親父の台詞で発奮を促す&ついでにその親父本人にも奮起を促すとか、主人公成長し過ぎだろ。

そんで、清盛にボロクソいわれた(と思い込んだ)頼朝君が帰宅するとなっちゃんの病状がヤバイことになってる。流石の義朝も背に腹は変えられず、清盛に宋の薬を都合して貰おうとか言い出す。いや、素人目も完全に手遅れっぽいんですが。明子さんが亡くなった回といい、この作品における宋の薬って火の鳥の生き血と勘違いされていそうな雰囲気だよな。そこまで便利でも万能でもないと思うぞ、宋の薬。あの国は当時、医者の社会的地位低いし。しかし、そんな義朝をとめたのは他ならぬなっちゃんその人。


由良御前「なりませぬ……平氏に頭など下げてはなりませぬ……! 殿は何時如何なる時も源氏の御曹司として、誇りをお持ちになり、生きてこられた殿を……由良は心より敬い申しあげておりまする……。斯様なことでお志を枉げないで下さいませ……!」

源義朝「たぁけ! 其方の生命に換えられるか!」

由良御前「殿らしゅうもない……されど、嬉しや……。殿、どうか私を誇り高き源氏の妻として、死なせて下さいませ……」


立場ある人間の妻って切ないよね。明の朱元璋の正室の馬皇后も病に掛かった時、


「うちの亭主は猜疑心強過ぎるから、自分が死ぬと診察した医者が責任問われて殺されるかねないし、薬とか飲みません」


といって亡くなったそうですが、今回のなっちゃんの死はそれに通ずる何かがあるようです。自分たち夫婦が築いてきたものを基底から覆すようなマネは生命と引き換えにしてもできないという矜持。ぶっちゃけ、なっちゃんが源氏の奥方として家を支えてきた具体的な描写は殆どなかったんですが、それでも、この散り方だけで納得できました。この脚本家さんは男は忠正叔父さん、女は由良御前が大好きだな。そんなわけで由良御前も退場です。『誇り高き御方が亡くなられた』と手を合わせた常盤御前と共に謹んで哀悼の意を捧げます。


そんな切なくも美しい場面の直後にツカジョージと麻呂伝兵衛の密会とか絶対に狙っているだろ。敵の敵は味方という初歩のマキャベリズムに基き、信西打倒の盟約を結ぶ両名。『貴族は怖くないが貴族たちには注意すべき』という赤毛の驍将の言葉を思い出しました。そんな水面下の動きに気づく様子もなく、新しい政治に夢中の信西と清盛。この辺はねー、ちょっとアレですねー。まぁ、感想のラストで触れようと思います。


一方、なっちゃんを亡くした心の隙間を埋めるべく、常盤御前の元に入り浸る義朝。日曜八時台の放送にも拘わらず、常盤御前を押し倒そうとしますが、見事に拒否られます。


常盤御前「もう、此処にはお渡りにならないで下さいませ。殿はお辛き時ほど、私の元にお出でになる。私はもう、殿の逃げ場にはなりとうございません」


要約すると、


「私はアンタのママじゃないのよ!」


ってことでしょうか。義朝を自力で立ち直らせるために身を引いたんでしょうが、厳しいわ、常盤はん。しかも、既に牛若身篭っているって……なっちゃんがあんな状態の時にすることしていたんじゃん。それなのに、この段階で拒否られるのはあんまりだよ。赤い彗星じゃないけど男には、


「父の名を継ぐのは辛いな……君のような支えがいる」


と女性の胸に縋りつきたくなる時があるんだよ。ちなみにシャアに最も似あう女性はナナイ・ミゲル。異論は認めない。

もう、公私共に完全にボロボロの義朝を甘言で篭絡せんとするツカジョージ。信西殺っちまえと煽るツカジョージ&いや、それは……と躊躇する義朝の場面は忠盛暗殺計画の時の藤原忠実と源為義の場面を思い出しました。この辺も折り返しの回ということで、敢えて意識して描いているのでしょう。また、遣唐使派遣の目途がたった場面で『西海の海賊王』での信西と清盛の回想が挿入されたのも同様の意図があると思われます。しかし、


信西「清盛殿、次は其方の出番じゃ! 熊野に参れ! 大願成就には熊野詣じゃ!」


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嗚呼、ついにバッドエンドルート確定。早いなー。もう一、二週はタメるのかと思っていました。この辺も感想のラストで触れたいと思います。


そして、遂にここ数回のタメが解放される瞬間です。

第二形態の頼朝が完全にしょぼくれた義朝に『清盛とは如何なる人物か』と尋ねます。この会話を通じて、義朝は己を取り戻すのですが、巧妙なのは清盛が頼朝の口を通じて過去の義朝自身の言葉で義朝に奮起を促す構成になっていたことです。これは巧い。『源平の御曹司』は第三話でしたから、この段階から今回に向けた伏線を張っていたことになります。あと、これは偶然だと思いますが、比べ馬の時と現在の清盛と義朝の衣装の色が正反対になっているんですね。勝者=黒。敗者=白。この視覚的な対比があるから、現在の両者の関係が完全に逆転していることが目でも伝わる……ような気がします。

再起を果たして、ツカジョージと麻呂伝兵衛の元に馳せ参じた義朝が信西の屋敷を襲撃した場面で今回は〆。その直前、一心不乱に予算の計上する信西の姿に手を合わせる師光の画は、序盤に主人公に否定された『信西こそが生身観音』という淡海の言葉は実は核心を突いていたんじゃないかという描写でしょうね。このように前半25話だけでなく、今回の1話の中でも伏線を張り、ラストや節目で回収という構成は相変わらずの巧さを感じました。


冒頭で記したように伏線の張り方&回収の仕方に関しては、今回はお手本のような出来でした。要所要所で挿入される回想シーンが何の違和感もなく、現在の登場人物たちの心情を表し、或いは再起を促し、新しい布石となる。この手の技量に関しては何の問題もないと思います。

ただし、これも冒頭で述べたように政治劇の脆弱さが如何ともしがたいのも事実です。今回は人生のピークを迎えた信西が転落する寸前の描写で〆でしたが、単純に主人公と信西の関係性だけでも想像&創造の余地があると思うんですよね。劇中の主人公は既に信西に対する怨讐は捨て去った雰囲気でしたが、あそこまで忠正叔父さんを斬る斬らないで揉めたんですから、ここまで明快に割りきられると、忠正叔父さん好きとしては辛い。勿論、昔のように厨二病丸出しで反抗されても困りますが、表向きは信西の力を利用しながらも、裏では割りきれない思いを胸に何らかの謀略を巡らせていて欲しかった。非常にベタな考えですが藤原信頼と源義朝を唆して信西を始末させるとかね。『平治の乱』の展開を鑑みると、のちのち、厄介なことになる創作と判ってはいますし、元々、この作品では清盛と信西は同じものを目指しているキャラに描かれていますから、徒に対立させるのも変な話ですが……ね。

それと、源義朝の去就も性急過ぎましたね。ダメ親父状態から再起したと思ったら、いきなり、信西宅を急襲とかはねーだろと。一応、途中でツカジョージに勧誘される場面はありましたが、あれだけで平治の乱の対立構造が決まってしまうのは正直物足りないです。保元の乱の前振りの『前夜の決断』のように一週丸々使ってもいいんじゃないのか。或いは来週の放送で裏の場面の駆け引きを30分くらいかけて描いてくれるのかも知れませんが、これまでの経緯を考えると望み薄かなぁ。

あとは信西に関する諸々の逸話。きちんと勉強して描いてくれるのは嬉しいんですが、贅沢をいえば、そうした史実、或いは通説にもう一捻り加えて欲しかったですね。単に『平治物語』の複製になってしまっている。この辺でも独自のアレンジが欲しかったです。

まぁ、最期のほうで色々とイチャモンをつけましたが、全体としては(流れが急過ぎるとはいえ)普通に楽しめる回でした。今回は『信西の絶頂と転落』と『義朝の再起』という二本の柱が明快でしたしね。色々な話を同時並行で描ける脚本家さんですが、もう少しマトを絞ったうえで、深く彫り込んでくれると大河ドラマチックな内容になるんじゃないかと思います。


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