『へうげもの』第30話『EDOフロンティア』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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古田織部「この地を『七本木』と銘す。実に的確にしてムダのない詫びた言葉ぞ」


村人甲「御禁制の立て札どうすんべ?」

村人乙「材木全部、前の殿さんに持ってかれたっぺよ」

村人丙「伐んべ伐んべ。あっこの松の木伐んべ」


『七本木』→『六本木』


クッソワロタ。

いや、原作でも大笑いした場面なのですが、アニメ版では伐られた木が倒れると同時に現代の六本木の画に変化するのが面白かったです。その前の場面で家康が江戸を千年に渡る泰平の都にすると宣言する場面でも現代の東京(他にもロンドンとかNYとかも混ざっていたよな)の画が挿入されていましたが、この時は、


「何だか『JIN-仁-』の二番煎じっぽい演出だなぁ」


と思ったんですよね。ところが、これが上記の織部の話のオチに繋がるとは想像できなかった。原作では明快に『七本木』→『六本木』の説明がなかったのですが、アニメ版では織部のいうように的確でムダのない侘びた演出でそれを表現していました。可哀想なのはその事態に織部本人が気づいていないこと。巷説の域を出ないにせよ、織田有楽斎ですら、現今の東京に有楽町なる地名を残しているくらいなのに……不憫な奴。勿論、七本木……ではない、六本木の命名者が古田織部というのはこの作品の創作ですが、六本木の地名は六本の松の木があったことに由来するという説があるのは事実です。それを捻って、ボケて、こういう話にしあげる作者と、それをアニメらしい手法で更なるおかしさを加えたスタッフ最高。


……と、ボケオチで終わるかに思われた今回ですが、ラストに宗匠が登場。織部からの文を読むことで幾分かは気晴らしになったようですが、傍からは見えない蝿を追うような仕草をしながら、


千利休「五月蝿いのう……金蝿が……」


マジ、恐ろしいです。

当然、金蝿とは黄金が大好きな豊臣秀吉の謂。自らの目指す侘び数寄世界のために織田信長と明智光秀を路傍の石を除けるように葬ったが如く、今度は山上宗二という侘び数寄の芽を摘んだ豊臣秀吉の排除に乗り出すもよう。ついに宗匠が復讐鬼と化す! ちなみに北条征伐に同行していた宗匠が現地の蝿や虻の多さに愚痴を零したのは史実のようです。こーゆー逸話をこーゆーふーに解釈するか! と原作を読んだ時には膝をうったものです。


今回は古田織部の成長。徳川家康の江戸入り。宗匠のダークサイド堕ちなど、見るべき点が山盛りでしたが、普通に物語としてみた場合は織部の成長に目がいきました。武田攻めの際に仁科盛信のケンカキックを喰らって退散した時に比べれば、ネゴシエーターとしての腕は格段にあがっています。しかし、世田谷城を開城せしめただけではなく、吉良家の家宝をも徴発するとは……これは人間として素直に喜んでいいのか? それと織部の中の人の演技も武田攻めの時分に比べれば格段に上達しています。何か劇中の織部の成長にあわせてうまくなっている気がする。役柄と役者が共に高めあってゆく姿を見るのは楽しいですね。


豊臣秀吉「微小なる身より天下を獲ったは、余と其方ぐらいなものよ。されど、其方は帝の御後胤にして源氏の者。裸一貫からのしあがったわけではない。ゆえに……余の勝ちぞ、源頼朝殿!」


秀吉語録の中でも特に有名な頼朝の木像との問答。己と歴史上の人物を何の衒いも気負いもなく、且つ、嫌味なく比べられる闊達さは秀吉の魅力のひとつです。秀吉の他に、こうした融通無碍な人物批評ができる日本人は勝海舟くらいでしょう。勝の人物評も批評の妥当性は措くとして、座談の名手のように読んでいて楽しく、スラスラと頭に入ります。

尤も、発言の妥当性の面では『源氏の御曹司のアンタよりも裸一貫からのしあがった俺のほうが偉い』という秀吉の発言も似たり寄ったり。確かに源頼朝は源氏の御曹司でしたが、彼は挙兵するまでは平清盛との権力争いに敗れた源義朝の息子として流刑に遭っていたんですね。いってしまえば受刑者に等しい扱いを受けていたわけで、ゼロからスタートした秀吉に対して、源頼朝はマイナスからスタートしたといえなくもない。ただし、源氏の御曹司という看板は健在ですから、それを鑑みるとプラマイゼロ。つまり、秀吉も頼朝も同一の地点から覇業を成し遂げたといえます。

ちなみに、この秀吉の発言には続きがあります。他にも『其方は右大将で俺は関白。官職でも俺のほうがず~~~っと偉いんだぜぇ』と木像を相手に自慢した秀吉でしたが、


豊臣秀吉「しかしなぁ、そんな俺でも其方には逆だちしても勝てないことがある。俺はこの通りの猿面禿鼠だが、其方の容貌の何と端整なことよ。イケメンぶりでは流石の俺も其方には負けるわい」


と自分の容貌をネタにして見事にオチをつけました。晩年はモーロクしましたが、この時分の秀吉の神憑りっぷりは座興の発言にも、その片鱗を見ることができますね。

今回のタイトルの元ネタはこちら。♯5『ニューフロンティア』です。

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