1910年8月26日、オスマン帝国領コソボ州、ユスキュプに生まれる。
この偉大な人のチャートを解読しようなどというのは、はなはだ不遜なことかも知れません。
彼女の残してきた愛と献身の足跡を、どのような言葉にして表現しようとしても、それは真実からかけ離れるような気がします。私は少なくとも、彼女の行うことを、そばで見たということはありません。
インドの貧民たちの中で、子供たちに教育を施した、その現場に居合わせたことはありません。
私の手元に知識としてあるものは、すべて伝聞に過ぎません。
しかし、それでもなおマザー・テレサのホロスコープ・チャートを覗いてみようと思ったのは、もしかすると、という希望を抱いたからです。
私はホロスコープ・チャートに表れる星々の法則(言い換えれば、人間への一種の影響力、拘束力、強制力)を超えるものがあるとすれば、おそらく愛だろうと考えてきました。
愛こそが占星術法則を超え得るのでは?
ほかにも人が占星術法則を超える手段はあるかも知れません。しかし今の私には、それ以外に有力なものは思いつきませんでした。
そして、そうした占星術法則を超越した進化した魂、目覚めた魂が、この地上のどこかにかならずいるとも考えてきました。今もきっとどこかにいる。
そんな人と遭遇する可能性は、非常に少ない。
なんとかそんな人間が実在する、あるいは実在したと検証する方法はないものか。
そう考えたとき、脳裏の浮かんだのが、マザー・テレサでした。
正直、彼女以外の人間の名前は思い浮かびませんでした。
検証するためには、少なくとも生年月日を知りうる人でなければなりません。するとブッダやイエスは、もう論外です。イエスの誕生日がクリスマスなんて、大嘘です。ミトラス教の聖日が、キリスト教に取り入れられたに過ぎないというのが、もっとも有力な説です。だいたい生まれた年ですら、いくつかの説があります。
このようなあいまいな情報で、検証などできません。
それに、検証するためには、その人の行った業績や受けた社会的評価、また身心の不調に陥った時期など、さまざまな詳しい情報があればあるほどいいわけで、こうなるともう少なくとも近世以降の人間でないと、まったく難しいのです。
しかし、マザー・テレサなら、それらの条件はほぼクリアできます。
さらに無私の愛ということを考えたとき、マザー・テレサほどそれを体現した人は、私たちの共有する歴史の中ではいないのではないか、と思えるほどのお方です。
果たして、マザー・テレサはどんな運命を携えて、この世に生まれてきたのか。
彼女のチャートから、私たちは何かを学び、知ることができるだろうか。
そして、彼女は占星術法則など超えた存在であったのだろうか。
この20世紀が私たちに見せた愛の奇跡、それを体現した人、マザー・テレサのチャートとその足跡を、これから皆さんと一緒に旅してみようと思います。
前述の通り、マザー・テレサことアグネス・ゴンジャ・ボヤジュは、1910年8月26日、オスマン帝国領内の現在でいうマケドニア、スコピエに生まれました。
両親はカトリック教徒のアルバニア人。アルバニア人はイスラム教徒が多く、マケドニアという地方自体、マケドニア正教の勢力が強かったので、これはかなり珍しい家庭環境と言えたそうです。
実業家だった父親は、同時にアルバニア独立運動の闘士でもあったようです。この父は暗殺されたという説もあるのですが、早世しています。
12才のころには、すでに彼女は、修道女としてインドに行きたいという望みを持っていたといいます。
そして、その後の人生で、彼女はそれを強い意志で実現して行きます。
ここまでの情報で、彼女の出生チャートを振り返ってみます。
太陽は乙女座2度にあります。
すでに驚かされることがあります。
この太陽のサビアンシンボルは、「守護天使」だということです。
守護天使。ガーディアン・エンジェル。
まあ、よくできたものだ、というのか、出来過ぎた誕生日に思えます。しかし、これ以上、彼女にふさわしいサビアンシンボルはないでしょう。
このたった一事を持ってして、あれやこれやを説明できるものではありません。
これは毎年ほぼ正確に同じポイントに回帰する太陽のサビアンシンボルなので、毎年、8月26日ごろに生まれた人は、同じサビアンシンボルを持っていることになります。
では、それらのすべての人が彼女と同じように「守護天使」としての役割を果たすのかというと、そんなことはあり得ません。
が、全体的にはこのサビアンシンボルは、自分の置かれた環境の中で、信念や信仰を持つことで、ふらつきの少ない、焦点を絞り込んだ人生を歩む傾向があるようです。またぎりぎりの状態の中で訪れる、超自然的な援助、救いの手を実感することもあるようです。
マザー・テレサもまた、出生環境の中でそのようなことを実感することがあったのかも知れません。
そして、それが彼女自身の道を決定する大きな要因となったことは、チャート上から強く推測されます。
ちなみに「守護天使」の前後のサビアンは、「大きな白い十字架から見下ろす土地の全景」「黒人と白人の子供たちが幸せそうに一緒に遊んでいる」で、「守護天使」はこれにサンドイッチになっているサビアンです。
サビアンを理解しようとするとき、その前後をチェックしておくと有効だと感じることが多いのですが、彼女の前後のサビアンは、キリスト教信仰と子供たち(人種を越えた)に深く関わるその後の人生を暗示しているようです。
サビアンはときに、露骨なほどその人を表してしまうことがあります。
さて、そのほか、彼女の出生状況、家庭環境などから、推測できることがあります。
それは、彼女の出生時間がおそらく明け方、それも太陽が東の地平線を昇って間もない頃ではないかという推測です。
こうすることによって、彼女の太陽は「無私=自己を滅する」ハウスである12ハウスに入ります。実際、この配置でボランティアだとか、福祉だとか、あるいは病院・医療関係、同種の延長上にあるなんらかの「人を癒す」ことに関わる生き方をする人も多いのです。
またここに太陽が入った人の中には、配偶者や父親を「失う」体験をする人もいて、父親の早世という現実が符合するようになります。
また出生時刻をそのあたりに設定することで、海外である9ハウスに月と土星が位置する可能性も高まります。9ハウスの月は海外の居住生活を呼びやすく、また土星はそこでの過酷な体験、試練などを暗示。
月と土星は、この出生時刻ならゆるい合となり、ずばり「貧しい(土星)子供たち(月)」の暗示ともなります。それも国内ではなく、なぜか海外での、ということになります。
空の頂上であるMCには、この月か冥王星がもっとも接近しており、どちらも解読上は有効です。
月は子供たちに深く関わる社会活動ですし、冥王星なら非常に宿命的な生き方をすることもあり得ます。
また同出生時刻では、火星は1ハウスに入るようになり、非常に強い活動力、パイオニア精神などを与えられます。この配置が正しいのだとすると、むしろ男性的な強さを持っていた人物というのが浮かび上がってきます。
また教育に関わる水星も1ハウスに入り、人生の大きな構成要素として浮上してきます。
この夜明け後間もない頃の出生時間というのは、おそらくですが、かなりの確度で彼女の人生を占星術上、説明しやすくしてくれるように感じます。もちろん誤差はあるでしょうし、間違っているかも知れません。
この後の解読は、あまり出生時間を重視したものとしては行いませんが、参考程度には留意致します。
いっぺんに済ませられるような記事ではないで、また続編を書きます。
といったところで、疑問に思われる方も出てくるかも知れません。
そう。
「おいおい、もしかしたらマザー・テレサは、占星術法則を超えた人間かもしれなかったと考えているのだろう? その人間にホロスコープ・チャートを当てはめることに意味はあるのか? 矛盾してないか?」
という疑問です。
これについては、生まれつき占星術法則を超えている人間というのは、存在しないのではないかというのが、私の目下のところの考えです、とお答えしておきたいです。
というのは、人はさまざまな環境を自ら選んで生まれてきているというのが、「生まれ変わりの研究報告」です。
チャートにはその環境もある程度表示されます。
それすらもキャンセルになっているとは、考えにくいです。
そして、人間はその後の人生の中で「愛」に目覚め、自己に目覚め、もしかすると占星術法則さえも超越した人間へと覚醒する可能性を持っている、持たされている、と考えたいというのが、今のところの私見です。
イエスにせよ、ブッダにせよ、生まれつき覚者であったとは考えず、その後の生き方の中で覚醒していったと思います。
そうでないと、生まれてくる意味もありません。
生まれつき完成型だなんて。
最初のステージで、いきなり究極的に進化し、装備も充実した状態でゲームをやるようなものです。
面白くも何ともない。

このあと、マザー・テレサの歴史を辿りながら、その時々のチャートの解読を行っていきます。
その中で、もしかしたら彼女が占星術法則を超えた瞬間を見つけられるかも知れません。
そこまではまだ解読していないので、これから皆さんとこの知的な時間旅行を楽しんでいきたいと思います。