ソルジェニーツィン短篇集(岩波文庫):アレクサンドル・イサーエヴィチ・ソルジェニーツィン | 夜の旅と朝の夢

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【ロシア文学の深みを覗く】
第47回:『マトリョーナの家』他3篇
ソルジェニーツィン短篇集 (岩波文庫)/岩波書店

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今回は、ソルジェニーツィン(1918-2008)の短篇小説集を紹介します。

ソルジェニーツィンといえば、ソ連の強制収容所の実態を告発した『イワン・デニーソヴィチの一日』や『収容所群島』などが特に有名です。

『イワン・デニーソヴィチの一日』は、スターリン死後、一時的に表現の自由などが緩和された「雪解け」時代に発表された作品で、ソルジェニーツィンの処女作になります。短い話ですので、『イワン・デニーソヴィチの一日』からソルジェニーツィンに入る人も多いことでしょう。

しかし、「雪解け」も長くは続かず、ソルジェニーツィンもソ連国内での発表の場を失っていきます。1970年のノーベル文学賞受賞も状況を変えるには至らず、1973年に大長編ルポルタージュとして有名な『収容所群島』をフランスで出版すると、国家反逆罪で逮捕され、国外追放に処されてしまいます。

1994年にはロシアに帰国し、作家活動も晩年まで続けていたようですが、傑作が生まれたという話は聞きません。実際のところはどうなのでしょうか?

さて本書には、国外追放前のソ連で発表された短篇小説が全て収録されています。全てといっても4篇だけなんですけどね。4篇中3篇は比較的長い短篇小説ですので、読み応えもあると思います。

【マトリョーナの家】
1953年、異国から帰還した「私」は、トルフォドゥクト(泥炭生産地の意)という田舎で教師の職に就くことになる。下宿先として選ばれたのは、病気がちな老婦マトリョーナが一人で住む家だった。

マトリョーナは勤勉であったが貧しく、質素な食事しか出なかった。しかし、マトリョーナは頼まれごとをされると、自身の山羊の乳しぼりなどの仕事を後回しにして、当たり前のように頼みごとをこなすような「古き良きロシア」の女性であった。

マトリョーナの人徳に感銘を受ける「私」であったが、マトリョーナの親戚筋はマトリョーナを利用することしか考えていなくて・・・

【クレチェトフカ駅の出来事】
戦時中、前線で国のために戦いたいと思っていたであったが、あてがわれたのはクレチェトフカ駅で物資や兵士を輸送する列車の運行などを管理する職だった。

様々な問題が起こるが、ゾートフはぬるい仕事と感じていた。そこに列車に乗り遅れたという男が現われて・・・

【公共のためには】
老朽化した小学校の新校舎が建てられることになったが、工事は一向に進まない。そこで小学生たちも新校舎建設に手を貸し、ようやく目処が立ってきた。しかし、突然、新校舎となるはずだった建物が別の用途に使われることになってしまった。愕然とする先生と学童。そして怒りを覚える校長のとった行動とは?

【胴巻のザハール】
本作は小品といった感じ。
クリコヴォの古戦場に建てられた記念碑に赴き、そこでクリコヴォの原の番人ザハールに出会う。この男が一癖も二癖もある人物で・・・

と、まあ、そんな感じの4篇を収録。各作品はリアリズムの形式で書かれたものですが、社会主義リアリズムとは明らかに異なりますね。いずれも地上の楽園かのように宣伝されていたソ連型社会主義に翻弄される人々が描かれていて、そんな人々に対するやるせなさが湧いてきます。

派手さはありませんが、意外と良い作品が収録されていますので、興味ある方は読んでみてください。

次回はエロフェーエフの予定です。