ロシア・ソビエト文学全集27(平凡社):ニコライ・アレクセーヴィチ・オストロフスキー | 夜の旅と朝の夢

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【ロシア文学の深みを覗く】
第46回:『鋼鉄はいかに鍛えられたか』

ロシア・ソビエト文学全集〈第27〉オストローフスキイ (1964年)/平凡社

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今回紹介する本は、平凡社の『ロシア・ソビエト文学全集』の27巻目です。本書には、オストロフスキー(1904-1936)の『鋼鉄はいかに鍛えられたか』が収録されています(本書では、作者の名前は「オストローフスキイ」と表記されていますが、ここではより一般的な表記である「オストロフスキー」に統一しておきます)。

本作は、以前紹介したゴーリキーの『母』と並んで社会主義リアリズムの初期の代表作として知られています。社会主義リアリズムは、『母』のところで簡単に紹介しましたが、一言でいうなら「労働者を社会主義精神に添うように思想的に教育することを目的とした文学」です。今となっては時代遅れの感がありますが、ロシア文学の流れの把握するためには必読でしょう。

まあ、同じ社会主義リアリズムといっても、ロシア革命前の1907年に発表され、後から社会主義リアリズムの規範として選ばれた『母』と、1927年から1932年にかけて、つまり、ロシア革命後の内戦も落ち着いた後に執筆された本作とを同列に並べるのは少し無理があるかもしれません。

さて本作は、オストロフスキーの自伝的な作品で当時の社会情勢を色濃く反映したものとなっています。

謗られたため、放校となってしまった少年パーフカは、駅の食堂で働くことになる。職場環境は悪く、反骨心の強いパーフカであったが、母を悲しませないために、身を粉にして働く。

その間、客が従業員の女性を金で買い、約束の金額を支払わないという卑劣な行いを見たりするなど、弱きものが虐げられる社会システムに対する強烈な怒りを蓄積していく。そして、パーフカは、兄の知人である革命家などから徐々に感化されていき、自らも革命家として歩み始めることになる。

主題は、タイトルの通り「鋼鉄はいかに鍛えられたか」です。ここでいう鋼鉄は「共産主義の実現のために一切の妥協を許さない革命家」程度の意味でしょう。実際に、本作は、困難や誘惑に負けず、精神と思想を磨き、完璧な革命家を目指すパーフカの物語です。

例えば、パーフカは、トーニャという女性と相思相愛になるのですが、トーニャがブルジョワ的な衣装を着ているという理由で袂を分かちますし、人の意志が何かを変えられることを証明するために、煙草や悪口を言うのを止めたりと、かなりストイックな人生を歩みます。

本作が自伝的な作品だということを考えれば、「鋼鉄」とはオストロフスキー本人を指すことは明らかです。随分と大きくでたなと思われるかもしれませんが、本作は、オストロフスキーは難病にかかり、寝たきりでしかも盲目となった後に執筆されたものです。これほどの困難にも負けず本作を完成させたのですから、「鋼鉄」を自任する資格があると言えるでしょう。

ただし、本作が面白いとか、文学的に秀でているとかは別問題。既存の思想に寄り添った作品ということを差し引いても、優れた作品とは思いませんでしたね。散漫なところや冗長なところが目立ちますし、人間に対する深い洞察も感じませんでした。

と、まあ、個人的には好みの作品ではありませんでしたが、困難に負けない強い意志を持つ主人公が好きな方、マルクス・レーニン主義に共感する方、社会主義リアリズムやロシア文学に興味がある方は読んでも損はしないかなと。

品切れですが、岩波文庫からも出版されていますので、興味ある方は読んでみてください。

次回は、ソルジェニーツィンの予定です。

関連本
鋼鉄はいかに鍛えられたか〈上巻〉 (1955年) (岩波文庫)/岩波書店

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鋼鉄はいかに鍛えられたか〈下巻〉 (1955年) (岩波文庫)/岩波書店

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