人間の運命(角川文庫):ミハイル・アレクサンドロヴィチ・ショーロホフ | 夜の旅と朝の夢

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【ロシア文学の深みを覗く】
第45回:『人間の運命』
人間の運命 (角川文庫)/角川グループパブリッシング

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今回紹介する本は、ショーロホフ(1905-1984)の短編集『人間の運命』です。

ショーロホフは、1965年にノーベル文学賞を受賞したソビエト文学の代表的な小説家の一人です。スターリン賞も受賞しているなど、体制側の小説家と見られていますが、作品自体はそれほど体制讃美ではありませんので、あまり毛嫌いしなくてもいいと思います。

ショーロホフの最も有名な作品は、彼の生誕地でもあるドン地方に生きるコサックたちを描いた『静かなドン』でしょう。その長さと壮大な物語からトルストイの『戦争と平和』と比較されることも多い作品です。

僕の読んだ本は、河出書房新社の「グリーン版世界文学全集」でしたが、3冊もある上に、字が小さく、そしてなにより古書だったため字が薄くて、かなり読みづらかったのを覚えています。まあ、ほとんど嫌がらせのような本でした(笑)。質の良い文庫を手にいれたら再読したいですね。

内容は『戦争と平和』と比べると一段落ちる気はしますが、ドラマチックでかなり面白いです。絶版で非常に長い作品ですが、興味ある方は探してみてください。

さて今回は、そんな長い小説を読むのが億劫な人向け。いや、そういうわけではない(笑)。

解説入れて180頁ほどで5篇の短篇小説が収録されています。いずれも『静かなドン』より前に書かれたもので、『静かなドン』と同じようにドン地方を舞台にした物語です。

【人間の運命】
ブカノーフスカ村に所用で行くことになった「私」が道中で子供連れの男と出会う。その男が語る自身の人生。愛する妻と子供と別れ戦争に赴くことになったその男は、当初は運良く難を逃れていたが、遂に負傷し敵の捕虜になって・・・。
表題作だけあって、短い割には読み応えのある作品です。

【夫の二人いる女】
戦場で音信不通となった夫を持つアンナは、他の男からプロポーズを受けると、考えた末、夫が死んだものと考えて再婚することに。新しい夫との間に子供も生まれ、それなりに幸せに生きていたが、突然、前の夫が帰ってきて・・・。
少しありきたりな設定ですが、物悲しく話心打つ物語です。

【子持ちの男】
戦争で白軍と赤軍に分かれて戦うことになった親と息子の運命とは。本書の中で一番短い作品ですが、個人的にはかなり気に入りました。

【るり色のステップ】
旦那衆に媚びる未だに農奴的な性格が抜けきらない男と、旦那衆の支配に反発する息子の物語。本書の中で最も思想的な話ですね。その辺りが少し気になります。

【他人の血】
自分たちの子供を失い、偶然出会ったペトロを自分の子供として引き取った老夫婦。しかし、人にはそれぞれ生き方があるのだ。ペトロも例外ではなく・・・。
「子持ちの男」と雰囲気や内容が少し似ていますね。

と、そんな5篇を収録。いずれも『静かなドン』の萌芽を感じさせます。やや感傷的な気もしますが、いい話が多いです。興味ある方はぜひ読んでみてください。

次回は、オストロフスキーの予定です。