土台穴(国書刊行会):アンドレイ・プラトーノフ | 夜の旅と朝の夢

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【ロシア文学の深みを覗く】
第40回:『土台穴』
土台穴 (文学の冒険シリーズ)/国書刊行会

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今回紹介する本はプラトーノフ(1899-1951)の小説『土台穴』です。

プラトーノフはソビエト時代の小説家。反革命的というレッテルを貼られて、長い間日の目を見ることがなかった作家の一人です。本書も1929年から1930年にかけて執筆されたのにかかわらず、ソ連で刊行されたのは1987年になってから。

プラトーノフの代表作として挙げられるのは、岩波文庫の『プラトーノフ作品集』に収録されている「ジャン」と、本書『土台穴』です。ただ本書は物語的というより哲学的で、少し難しい気がしますので、最初に読むのは『プラトーノフ作品集』の方がいいかもしれません。

さて、本書はこんな書き出しで始まります。

「私的生活三十周年を迎えたその日、ヴォーシェフはそれまで彼が生活の資を得ていた小さな機械工場を解雇された。通知状には、体力のなさや思考癖がいよいよ目だち、全体の作業テンポを著しく乱していることを理由に現場から取りのぞかれる、と記されてあった。(P3)」

ここで大事なのは「思考癖がいよいよ目だち」というところでしょう。ソ連体制にあっては、人々は一丸となって仕事に打ち込むことを良しとし、個人的な思考に現を抜かす人間は邪魔な存在。しかしヴォーシェフは、「考えごとをなくしたら、人間なんて生きてたってむだ(P8)」と確信している。

そんな職を失ったヴォーシェフは、工事現場を偶然見かける。その現場では、全プロレタリアートが住むこととなる壮大な新住宅のための土台穴を掘る作業が行われていた。その工事現場で働くことになったヴォーシェフであったが・・・

大きな出来事が起こる物語ではなく、工事現場で働く人々と、母親を亡くして作業員と生活することになった少女を描いた群像劇的な話です。工事現場で働く人々は、ヴォーシェフのように考えながら生きる人が多いのですが、指揮を執る人間は全体主義的な思想を持っています。その対比が本書の見どころの一つですが、とくに注目すべきは次世代の代表者である少女。

彼女は完全にソ連体制に教育されてしまっていて、「死ななきゃならないのは富農だけ(P194)」などと言い放つ始末で、かなりグロテスクな印象を与えます人物です。後半は少女を軸に物語は進みます。

あと、本書解説にも似たようなことが書いてありますが、新住宅はユートピアの象徴であり、本書はユートピアの建設過程を描いた小説ともとれます。ユートピア完成後の社会を描いた小説には、少し前に紹介したザミャーチンの『われら』などがありますが、ユートピアの建設過程に目を向けているのは少し珍しいかもしれません。

ということで気になる方は是非読んでみてください。

さて、今年のブログ更新はこれで終了。今年も面白い本に色々と出会えたので、来年もきっと出会えることでしょう。そして、来年はそんな面白い本をもう少し巧みに紹介したいものですね。まあ、無理でしょうけど(笑)

それでは、良い読書生活を! じゃなかった、良いお年を!

関連本
プラトーノフ作品集 (岩波文庫)/岩波書店

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