出会い、運命、ドラマのそばにはいつもがある
本がある場所が紡ぐ物語





いま、書店や図書館、図書室、出版社など本にまつわる場所が舞台の小説が人気を博している。

出会い、運命、ドラマのそばにはいつもがある。

本好きな人にとって、本に囲まれた空間は楽しいもの。

アイコンりす総合的書籍構成編集人・・・・Arika*



図書室から繋がる物語

 図書室の海/ 恩田陸(著)

図書室の海 (新潮文庫)/新潮社

¥562
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Arikaアイコン(小)1き下ろしで、『六番目の小夜子』の番外編・短編。十色の趣向、十色の愉悦――。受賞作『夜のピクニック』の前日譚も併録した全10篇!あたしは主人公にはなれない――。関根夏はそう思っていた。だが半年前の卒業式、夏はテニス部の先輩・志田から、秘密の使命を授かった。高校で代々語り継がれる〈サヨコ〉伝説に関わる使命を……。関根夏、桜庭克哉、浅井光、そして志田啓一。短編で終わるのがもったいないくらい、魅力的な生徒たちだった。学生の頃、図書室が好き過ぎて、休み時間はいつも入り浸っていた場所。そんな場所での少しヒンヤリするお話でした。もっとも恐怖を感じたのは「国境の南」で背筋がぞっとしながら読み進め、喫茶店の頻繁の水の給仕に気を付けよう(?)と思いました。恩田ワールドの魅力を凝縮したあまりにも贅沢な短篇玉手箱。この短編だけで完結させておくには余程の想像力が必要なのでは?と感じてしまいました。あるいは何も考えずに読み終えて、どこか引っ掛かる、すっきりしない後味を楽しむのが恩田さん作品の魅力なのかも知れない。 イサオ・オサリヴァンを探しての本編が「夜の底は柔らかな幻」らしいので、早く読みたい~♪




 復讐プランナー / あさのあつこ(著)

復讐プランナー (河出文庫)/河出書房新社

¥486
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Arikaアイコン(小)1人公が図書委員。中学校に入ってまもなく、突然いじめられる日々がはじまった雄哉と章司。怒りと悔しさに立ちすくむ二人の前に、「復讐計画を考えるんだ」と誘う不思議な先輩が現れた―。いじめについての話ですが、ちょっと道徳的すぎ。復讐してやれ、なんて出てきますが、実際の復讐場面はない。いじめられるきっかけはいろいろあるけれど、ノートを用意して、復讐プランを立てることで、頑張れる。これは、いじめられている人や、身の回りにいじめられている人がいて、どうしたものかと悩んでいる人におすすめです。 あんまりドロドロせずに、あとがきも含め、いじめられっ子へのストレートなメッセージが書かれています。あさのあつこが贈る、生き抜くための青春小説。その後のプランナーたちの活躍を描いた、書き下ろし続篇「星空の下に」を特別収録。 優等生的な本編に、正直物足りなさを覚えましたが、続編まで読み切ると、復讐プランナーになった主人公たちがとてもたくましく思え、かっこよかったです。





 図書準備室/田中 慎弥(著)

図書準備室 (新潮文庫)/新潮社

¥497
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Arikaアイコン(小)1ぜ30歳を過ぎても、私は働かず母の金で酒を飲んでいるのか。それはあの目に出会してしまったから。中学の古参教師に告白させた生涯の罪を、虚無的に冷笑しつつ、不敵な価値転倒を企てる野心的表題作。級友たちの生け贄として凄惨ないじめの標的にされた少年が、独自の「論理」を通じて生存の暗部に迫る、新潮新人賞受賞作「冷たい水の羊」を併録。気鋭の小説家のデビュー作品集。

表題作『図書準備室』という小説は、徹底的に主人公の「本音」によって成り立っている小説です。喋る、喋る、最初から最後まで延々と主人公はあーだこーだと喋り続けます。しかもその内容が凄まじい。本当に凄まじいですから。そして、最後に置かれている脱力系のオチ。饒舌文体で衝撃的なエピソードが並べられる中で最後の最後に訪れるオチには笑わせられました。描かれているのはこれも少年の内面に起こる葛藤と、そして印象的な大人との出会い。だけど読んでいるうちにふと、これっておっさんが一人でしゃべってるんだよな、と思い出して滑稽。ラストがきらりと光って、胸に残ります。 作者の強烈な言いたいことが本気で書いてあるように思えました。「なんで働かないの?」という伯母の質問を必死に思考した結果の作品だと思いました。作者のプロフィールを見てみれば、高校卒業後、一度も働いたことがないとのこと。きっと「なんで働かないの?」という問いを腐るほどされ、それについて、考え抜き、この小説を書いたんだと思いました。なので、「なんで働かないの?」と言われ、辟易している方や働かない人の周辺で「なんであいつは働かないんだ」とムカムカしている人にとって大変意味ある小説だと思います。

ちなみに「図書準備室」とは、貸し出しカウンタが「表」の接客的な業務だとしたら「裏」の管理的な業務をするところです。業者が納入した本を一時おいておく。図書館用の本のカタログを置いておく。新着図書の図書カードをつくる(パソコン入力する)。破損した本を修理する。予算や決算についての書類をつくる。返却遅延者を洗い出して督促掲示物をつくる。生徒の図書利用状況を分析する。など、いわば裏方です。




生徒達とともに、新米のなんちゃって司書さんが成長していく。改めて本って素敵、と思える本。
 図書室のキリギリス/竹内真(著)

図書室のキリギリス (双葉文庫)/双葉社

¥730
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Arikaアイコン(小)1ツイチになったのを機に、職探しをはじめた詩織。友人の紹介で学校司書に採用されるが、彼女にはある特殊な能力があって……。本に込められた思いと謎を読み解くブックミステリー。本好きなら司書さんと本屋さんには一度は憧れた事があるんじゃないかな?資格を持たない「なんちゃって司書」として高校の図書室で働くことになった主人公が、生徒との触れ合いを通じて自身の過去と向き合い、自分の道を歩いていけるようになるお話。登場人物や時系列は続いているものの、一つ一つのお話が独立しているような印象を受けました。でも、本に登場する人物は皆 魅力的で、本が好きなのだとわかる。作中にも様々な作品が取り上げられていて、中には知らないものもあったから、今度本屋に行ったら探してみようと思った。こんな図書室があったらいいな。私の学生時代に学校司書さんが居たかどうか全く覚えてないんだけれど、学校における図書室って一番生徒が身近に本と接することのできる場所ですもんね。学校司書さんの立場の向上と図書室の充実が図られるようにと切に願ってしまいました。