晴れやかな空気の中に一抹の寂しさがある卒業の季節。
「さよなら」を交わし、次のステージへ向かうその前に…
別れと旅立ちのときにふさわしい本を6冊紹介。
総合的書籍構成編集人・・・・Arika*
【第二章】さよならと旅立ちの物語
― 卒業・旅立ちをテーマにしたフィクション ―
少女は卒業しない (集英社文芸単行本) (2013/05/08) 朝井リョウ 商品詳細を見る |
どうしてこんなに女の子の気持ちが分かるんだろう…
どの話も切なくて、眩しくて、瑞々しい感情と言葉が迸る。
廃校が決まっている地方の高校で、今日、最後の卒業式が始まる――。 恋、友情、涙と別れ、旅立ち、そして秘密。朝井リョウさんの描く高校生は本当に妙にリアル。うまいな、ともまた違う。表現のひとつひとつが、こんな表現もあるんだなといつも思う。高校生の大人でも子どもでもないこの感覚をすごく生き生きしてるイメージをうまく教えてもらえているような気がします。最初の2つが特に好きです。卒業式という特別な日の風景を、七人の少女の視点から瑞々しく紡いだ新・直木賞作家による青春卒業連作短編集。
卒業するわたしたち (2013/02) 加藤 千恵 商品詳細を見る |
人は生きていく中で、いくつもの卒業を経験していくんだな・・・。
さすが歌人、表現が気持ち良い!
卒業って学生だけの言葉じゃない。学生が終わった時に卒業したはずの卒業が、大人になってからもたくさんあると思うと不思議な気持ちがします。 「さよならは一生うまく言えそうになくて涙でこじむ三月」。どこにでもある平凡な卒業式の一日、母の再婚への戸惑い、大好きなアイドルの”卒業”。短歌集を出してる作者さんなので、各章の冒頭の短歌が素敵だった。言葉の選び方が優しく丁寧で、読んでいて心地いい。 甘く、切なく、ほろ苦く。さまざまな卒業のシーンを鮮やかに切り取った13編の短編集。
卒業ホームラン―自選短編集・男子編 (新潮文庫) (2011/08/28) 重松 清 商品詳細を見る |
頭の中に映像が浮かんでくる。
繊細な描写で、少年の心情が伝わる。
見栄を張りたいし、女の子が気になるし、複雑で単純な男の子の世界!
少年野球チームに所属する6年生の智。チームの監督を務める智の父は、努力家だが万年補欠の息子を卒業試合に出すかどうかで悩むが・・・・・・。エビス君のぶっきらぼうな優しさに泣けた。どの短編集も胸を打つ。特に好きなのは、転校生のフイッチのイッチと野球少年の卒業ホームラン。子供と大人の心理描写がさすが。重松さんらしい、じわっとくる話ばかり。作家と年齢がそれほど離れていないせいか、ものごとに対する感じ方、考え方が同じようなので、好きな作家です。東日本大震災をモチーフにして「また次の夢へ」も収録した六つの自選短編集。女子編も同時刊行。
対訳 21世紀に生きる君たちへ (1999/10) 司馬 遼太郎 商品詳細を見る |
「人間は、自分で生きているのではなく、大きな存在によって生かされている」
Humanbeings do not live on their own,but are kept alive by a great presence.
自分の持っているものを次の世代へ、きちんと渡すことが、社会に対する恩返しになる。21世紀になっても戦争はなくならず、原発もなくならず…。司馬遼太郎氏は1996年に亡くなられていますが、もし生きておられたら話を聞いてみたい人物の一人です。そんな氏がまるで原発事故を予言していたかのように、21世紀を生きることになるだろう我々に対して残した手紙…いや次世代に向けての遺言ともいい…。
めちゃ薄い本けど、未来においても変わらない大事な投げかけが書かれてる、特に中高生に読んで欲しいなと思ったので目にしたら読んでみてよ。あらゆる人物の生きざまを綴った小説を書いてきた司馬遼太郎氏の言葉だけに、なるほどと思わざるを得なかった。
「君たちはつねに晴れあがった空のように、たかだかとした心を持たねばならない」。
小学六年生の教科書掲載のために書かれたメッセージなんだけど、間違いなく大人が読んでも心を掴まれる名文だった。内容としては書き下した表題作含む2編と、ほか1編を英文対訳付きで収録。英文と併せて大人になった今こそじっくりと再読を。
「あなたが今歩いている21世紀とは、どんな世の中でしょう」
私が歩いている21世紀は、隣人同士が腹の探り合いをし、テロルの恐怖が付きまとい、そして貧困が憎しみを生む世の中です。
…少なくても私はそう感じてるね!?
もし司馬遼太郎氏が生きてたら、21世紀をどう感じるんだろうね?
ぼくたちは大人になる (双葉文庫) (2012/01/12) 佐川 光晴 商品詳細を見る |
真っ直ぐにしか進めない、それが青春の証。
両親の離婚を経て「責任感溢れる大人になりたい」と決意する高校3年生の達大。だが潔癖な正義感と幼い自我は、達大の高校最後の一年を波瀾万丈なものに変えてしまう・・・・。
どんな人が「真の」大人なのか?少なくとも、画一的な見方をしない人、周りがちゃんと見えてる人だと思う。こうだと思うと譲らなかった達大が、いろんな事件や人と出合い、成長していく。大人のようで大人でない、子供のようで子供でない。ぴったり過ぎる洋服は窮屈すぎて却って動きづらい。かと言って、だぶだぶの服もだらしない。ちょうどいい“遊び”のある人になるのは難しい。それに気がつくには、世間の波で少々痛い思いをすることだろうと思う。言って聞かされるだけではなかなか分からない。
小説を通じて感じる佐川さんの願いを詠み解くと、それはきっと「大人はたとえうまく行っていなかったりヘンだったりしても、子どもよりもずっと厚みのある人間であってほしい」ということなのではないかと思う。
18歳の驕りと成長を瑞々しく描いた青春小説、真っ直ぐにしか進めない、それが青春の証・・・・。
独立記念日 (PHP文芸文庫) (2012/11/17) 原田 マハ 商品詳細を見る |
様々な年代の女性たちが迷いや悩みを抱えながらも、
人生の再スタートを切る24の短篇集。
恋愛、結婚、進路、キャリア、家族の喪失と再生。『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞を受賞した原田マハが、それぞれの場所で自分の殻を破り、”独立”していく女性たちの姿を描いた24の人生応援歌。
人、家、会社、などからの物理的な独立はもちろん、それによって悩みや自分の嫌な面をもう一度見直すといった精神的な独立の意味も含めて『独立』という言葉は、少し敷居が高いような、勇気のいることのように感じるけれど、「自由になるってことは、結局いかに独立するかってことなんだと思う。独立することで、自分が楽になれることが確かにあるだろうなと思う。日々の生活の中でのささいな独立を大切にすべきだと思った。 挫折や喪失に傷つきながらも、次の一歩を踏み出そうとする女性たち。最初と最後の短篇の他は独立した物語ながら、ある話の主人公が他の話で脇役で登場したりと緩やかにリンクしていて楽しく読ませてもらいました。