なぜ、ホンダは営業黒字を達成できるのか?①
未曾有の自動車構造不況
なぜ、ホンダは営業黒字を達成できるのか?
「長期的視点でやるべきことをやる。それを必ず具現化し新たな成長につなげる」と語るのはホンダ社長の福井威夫氏である。トヨタ、日産などが続々営業赤字見通しを出す中、ホンダは黒字を確保する見通し。環境ムードを背景に小型車に特化したことが強み。どう時代の流れを読むかがカギとなる中、ホンダの経営の方向とは──。
本誌・大浦 秀和
小型車、二輪車で安定収益を確保
「赤字は絶対に避けたい。生産、開発などのコストダウン、在庫を多く持たないなど、思いきって改善できることをやっていく。赤字は避ける」――2008年末、ホンダ社長の福井威夫氏はこう繰り返した。
ホンダが発表した、09年3月期通期見通しは、売上高が前期比16%減の10兆1000億円、営業利益は同85%減の1400億円となった。
営業利益などは、従来予想の1800億円からさらに400億円の下方修正となったが、他の自動車メーカーが軒並み赤字見通しを発表する中、ホンダが黒字を確保したことについて、称賛の声が挙がっている。
この逆風下、なぜホンダは営業黒字を確保することができるのか――。
まず、小型車の比率が高かったことである。トヨタ自動車や日産自動車と同様、ホンダも北米市場での利益が全体の7割を占めていた。しかし、その車種構成は少し違う。
経済危機が訪れる以前、北米自動車市場の主役は「ピックアップトラック」や高級車など、燃費の悪い、しかし利益率の高い車たちであった。
日産は社長のカルロス・ゴーン氏の下、次々と大型車を北米市場に投入、トヨタも新工場を建設して、ピックアップトラック「タンドラ」の現地生産をスタートさせた。
一方ホンダは、市場関係者から「いつ大型車への投資を行うのか」といぶかしがられるほど、投資には慎重だった。当時を振り返ってホンダ関係者は、「投資余力がなかっただけ」と振り返るが、それが事実なら、これが結果として奏功。
実際、08年夏をピークに原油価格が高騰し、ビッグスリーを始めとする大型車主力のメーカーが打撃を受け、トヨタも大型車工場をハイブリッド車「プリウス」の生産に切り替えた。
一方で、北米でのホンダは、セダンの「アコード」、「シビック」や、小型車の「フィット」など燃費のいい車が主力となっていったのである。
自動車不況の影響は避けられなかったものの、他社と比較して、そのダメージの度合いが軽かったということが言える。
次に、二輪車の存在である。08年第3四半期累計で、売上高、利益とも増加している。売上高は第3四半期累計で、前年同期比2%増の1兆1370億円、営業利益は同4.3%増の1027億円となっている。
この要因を、ホンダ副社長の近藤広一氏は「二輪車は生活必需品という側面が大きい。また、為替対抗力もある」と分析する。地域的に見ても、アジアで130%増、ブラジルなどその他地域で58%増と、日本や北米での落ち込みをカバーしている。こうした安定した収益を生む事業を持っていることが強みにつながったのである。
しかし、来期は二期連続の大幅な収益悪化が見込まれており、他社と同様に厳しい。日興シティグループ証券マネージングディレクターの松島憲之氏は、「収益の原動力となっている北米の自動車販売の環境が、金融危機の影響で厳しくなってきており、燃費の良い主力セダンのアコードやシビックの販売にもマイナス影響が出てきた」と指摘する。
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