日本では、麦芽100%のビールは少数派です。価格的にも少々お高く、プレミアム商品という性格付けになっています。
 しかし、ドイツでは麦芽100%でなければビールとは認められません。これは、「ビール純粋令」という法律で決められています。

 日本では、麦芽やホップ以外に、米やコーン、スターチなどの副原料の添加が認められています。副原料の添加によって、味がスッキリしたりキレが良くなったりすると言われますが、麦芽100%であるドイツのビールには、日本のビール以上にスッキリしたものやキレの良いものがあります。
 麦芽100%で、様々な風味を醸し出すことは可能なのです

 つまり、日本のビールの場合の副原料とは、ベルギービールのようにビールの個性を豊かにするためのものでも、品質を向上させるためのものでもなく、極論を言えば「単なる原料のガサ増し」でしかないのです。

 ビールに限らず、日本酒でも焼酎でも、日本では同様の問題があります。日本においては「酒税法はあるが酒造法はない」ために、伝統的な酒造文化がないがしろにされていると言えるでしょう。哀しいかな、これが日本の現状なのです。

 第三のビールは論外として、日本の「酒税法」上でビールとされているもののほとんどが、副原料を使用しています。
 麦芽100%のレギュラー製品として販売されているのは、エビスビールシリーズ(サッポロ)、モルツシリーズ(サントリー)、ハートランド(キリン)、一番搾り(キリン)くらいです。
*注)ハートランドは流通が多少特殊ですが、発売以来20年が経つ製品ですので、レギュラー製品としました。

 そしてようやく、アサヒがレギュラー製品として「アサヒ・ザ・マスター」という麦芽100%ビールを市場に投入したのです。

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 商品開発のコンセプトや使用原料などは、アサヒのHPに詳しいので、そちらをご参照下さい。
 と言えるほど、アサヒ・ザ・マスターのHPは充実しています。この製品をレギュラー製品として位置づけようとする、メーカー側の気概を感じます。
・アサヒ・ザ・マスターのHP

 肝心の味ですが、タイトルに記したように良い意味で「やれば出来るじゃん」と誉めたくなるものです。

 まず、しっかりとした一本芯の通った「苦み」が土台としてあります。しかしこの苦みは、芯が通っているとはいえ強すぎず、慣れないと受け入れられないという個性的なものでもなく、喉に心地良い種類のものです。
 そして、その苦みに抑えつけられることなく、甘みと酸味が良いバランスで口の中を舞い踊ります。
 ボディはライト気味なミディアムですが、軽薄さはありません。原料の麦芽とホップがしっかりしているためでしょう。重くはないのに、腰の強さを感じます。

 特筆すべきは、「フルーティ」という表現が出来る風味を持つことです。
 日本のビール技術者は、職人は、ちゃんとここまで出来るのです。これほどに高いレベルの技術を持っているのです。それを如実に示すだけの内容を持つビールです。
 この点において、私はこの「アサヒ・ザ・マスター」に賞賛の言葉を惜しみません

 
 この「アサヒ・ザ・マスター」を呑んだ後に副原料入りのビールを呑むと、香り、味わい、喉ごし、アフター全てにおいて、何か違和感を感じることでしょう。それこそが、ビールの品質や個性のためではなく「ガサ増し」のためだけに入れられた副原料の「余計な臭さ」なのです。

 現実問題として、副原料入りのビールや第三のビール(ビール風味飲料)の存在は、食の現場・経済・流通などの点から否定出来ない状況になってしまっています。
 そうした現状を認識してはいますが、それでも私は、本来の「麦芽100%ビール」とは、どういったものなのかをきちんと経験して、その味覚を舌に脳に憶えさせ、その上で副原料入りのビールや第三のビールとの付き合い方を考えてもらいたいな、と思ってしまうのです。