本当に大切なことは何か 児童ポルノ改正案、今国会も成立見送り | 山本洋一ブログ とことん正論

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元日経新聞記者が政治、経済問題の裏側を解説!

 児童ポルノに関する罰則を強化する児童ポルノ禁止法改正案の今国会での成立が見送られる見通しとなった。3度目の提出となる与党案は児童ポルノ作品の単純所持を禁じたのが柱だが、民主党などが「表現の自由が侵される」と反発。今国会でも時間切れとなった。しかし、先延ばしになればなるだけ、その間に犠牲となる児童は増える可能性がある。大切なのは党のメンツではなく、子どもの安全だということを忘れてはならない。


 児童買春や児童ポルノに関する犯罪の増加を受け、国会は平成11年に議員立法で「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(児童ポルノ禁止法)を制定した。しかし、児童ポルノの所持が処罰対象となっていないために実効性が薄いとの批判が噴出。自民、公明両党は平成20年に児童ポルノ作品やその電子データを所持すること(いわゆる単純所持)を禁止した改正案を提出した。


 ただし、世論の中にはアニメの表現を必要以上に当局が規制するのではないかとか、恣意的な捜査に利用されるのではないかとの懸念から反発する声が根強かった。そこで民主党は平成21年に表現の自由に配慮し、規制を緩めた対案を提出。その後の修正協議はほぼ合意に達したが、直後の衆院解散で廃案に。自公は野党転落直後に再び提出し、民主党も平成23年に同じく提出したが、政局の波にのまれてまたもや廃案となった。


 今国会に出されたのは自民、公明両党が以前、提出したものをベースに、日本維新の会も加わって提出したものである。


 自公維案が提出されるとネットや一部雑誌等ではまたも「罪のない人間が罰せられる」とか「表現の自由が侵される」といった反対の声が噴出した。彼らの言い分は、例えば「妻が離婚しようとしている夫のパソコンに児童ポルノ作品をダウンロードすれば逮捕される、もしくは離婚協議で有利となる」場合や、「捜査当局が犯人と疑う人物に児童ポルノを送り付けて別件逮捕することが可能となる」などというものだ。


 また、ネット上では「ドラえもんに出てくるしずかちゃんの入浴シーンも取り締まりの対象となる」「自分の子どもの裸の写真を持っていれば逮捕されるのか」との懸念の声がある。みんなの党の山田太郎議員は参院予算委員会で、同姓同名の漫画の主人公を引き合いに「ドカベンの中でも8歳のサチ子(主人公・山田太郎の妹)が入浴しており、発禁本になる可能性もある」と指摘した。


 懸念は理解する。しかし、マスコミやネット上の議論はともかく、国会で「ああでもない、こうでもない」などと言葉遊びをしている場合ではない。実際に児童に対する性犯罪は絶えない。朝日新聞の過去記事で検索してみたところ、一年でざっと100件超の事件が取り上げられている。そしてネット上だけでも児童を性の対象とした実写やアニメの作品があふれかえっている。幼い子どもを抱える身としては制作者も、所持者もおぞましくてたまらない。


 国会の役割とは何か。これ以上、子どもが犯罪被害にあわないよう、そして新たな犯罪者が生まれないよう、法律を改良して規制の実効性を高めることだ。もちろん、表現の自由をできる限り侵さないようにするにはどうすればいいか、捜査当局の暴走を抑えるにはどうすればいいか、立法的に知恵を働かせる必要はある。


 自公維もメンツにこだわらず、修正には前向きに応じるべきだ。例えば罰則対象である「自己の性的好奇心を満たす目的での所持」は民主党案の「有償かつ反復の取得の禁止」に修正してもいい。民主党やみんなの党も一部の世論に惑わされず、立法者として現実的な判断をしてほしい。

 

 そもそも、一度は修正で合意しているのだ。時間が経過しているとはいえ、再び合意するのは難しいことではない。こうした問題を政局に利用してはならない。最優先すべきは子どもの安全だ。