Joy 後編
それから1時間泣き続けたキョーコだったが、コテンと蓮に身体を預けて来た。
その事に気付いた蓮がキョーコの顔を覗き込むと、泣き疲れたキョーコは蓮にしがみ付いたまま寝息を立てていた。
「ん?最上君は眠ったのか?」
「そのようです」
「なら、そのまま寝かせてやれ。奥のベットを貸してやるから」
「はい。琴南さん、ちょっと手伝ってくれる?」
「あ、はい」
女性がいた方がいいだろうと奏江を呼び、蓮はキョーコを抱き抱えて執事について奥へと進んだ。
キョーコをベットに降ろそうとした蓮は、そこである問題に直面する事になった。
「敦賀さん、どうしたんですか?」
いつまでもベットに降ろしたキョーコから離れようとしない蓮に、奏江が訝しげに声を掛けた。まさか、無防備なキョーコに悪戯をしようとしているのではと思ったのだが・・・返って来た蓮の言葉にさすもの奏江も唖然とした。
「いや・・・それが、ね?離してくれないんだ・・・」
「えっ?」
驚いた奏江が見たものは、蓮の服をギュッと握り締めるキョーコの姿だった。
蓮が何とかキョーコの手を外そうとしているのだが、キョーコが嫌がって離れなかったのだ。
「ほら、最上さん?離して?ちゃんと、ベットで休まないと・・・」
「む~~~」
イヤイヤと首を振るキョーコに、蓮はため息をついて着ていたシャツのボタンを外し始めた。
「・・・何してるんですか?」
「仕方ないだろう?シャツを脱いでるんだよ」
「・・・ああ、確かに・・・」
だが、シャツを脱ごうとした蓮に気が付いたのか、キョーコは温かなでいい匂いのするモノ(蓮の身体)を逃がすまいと腕を蓮の背中に回してさらに抱きしめる力を込めてしまった。
「・・・ちょ、ちょっと!キョーコ!!」
「・・・・・(どうしてくれようか・・・この娘・・・)」
「なーにしてんだ?お前達は・・・」
このキョーコの行動に慌てる奏江と、無表情になった蓮の後ろで呆れた様な声がした。
振り向くといつの間に来たのか、ローリィがドアに凭れ掛かって蓮達を見ていた。
「それが・・・」
「ああん?・・・・なるほど・・・役得じゃねぇか、蓮よ」
「・・・そんな事を言っている場合ではないでしょう・・・」
蓮の腕の中を覗き込んだローリィは、蓮にしがみ付いたまま離れようとしないキョーコに柔らかい笑みを漏らした。
「仕方ねぇな・・・蓮、お前付いててやれや」
「「えっ!?」
「しょうがねぇだろう?離れないんだし。最上君だって、その方が安心出来るみてぇだしな~」
ローリィの台詞に驚いた蓮と奏江に、ローリィはしたり顔だ。
「・・・はぁ~・・分かりました・・・明日の朝は、大絶叫で起こされるんでしょうね・・・」
「まぁ・・・そうでしょうね・・・一応、言っておきますが、この子に無体な事はしないで下さいね?」
「・・・俺を何だと・・・」
「一応です・・・そういった事は、ちゃんと順序を経てからにして下さいね!」
「・・・・・了解」
一言釘をさす奏江に、蓮は苦笑するしかなかった。
やがて、若干不安そうな奏江を連れてローリィが部屋を後にすると、蓮はため息をついてキョーコの横に身体を横たえた。そして、用意しておいた濡れたタオルをキョーコの瞼の上に乗せ、腕枕をしてやると、キョーコから蓮に擦り寄って来た。
「お休み、最上さん。ゆっくり休んで、明日はまた君の可愛い笑顔を見せて?」
キョーコの額にキスを落とし、蓮も少しでも休むべく瞼を閉じた。
「いやああああああ!!!な、なんで・・・何で~!?」
翌日、蓮は予想通りの大絶叫によって起こされた。
キンキンと耳鳴りするのを堪えて、蓮は瞼を開けて顔を真っ赤にして横たわる自分を凝視しているキョーコを見た。
「・・・おはよう、最上さん」
「へ・・?あ、おはようございます・・・」
「大丈夫?頭とか、痛くない?」
「え・・・あ、はい!大丈夫です・・・あの・・・」
「ああ。ごめんね?昨日、君が離してくれなかったから・・・隣で寝ただけなんだけど・・・覚えてない?」
「うぇ・・・あ!!す、すみません!!」
身体を起こし、髪を掻き揚げながら困ったような顔をする蓮に、ようやく昨日のことを思い出したキョーコは青ざめてベットの上に正座した。見ると確かに蓮のシャツの合わせ部分は握り締めた様に皺が寄っていた。
「申し訳ありませ~~ん!!!!」
「ストップ!」
ペチッ!
土下座しようとしたキョーコを、蓮は額に手を置く事でそれを阻止した。
「ほぇ?」
「謝らなくていいから、こんなの洗えばいいだけだしね?」
「・・・・・」
「でも、これだけは約束して?」
「え・・・?」
キョーコの頬を包み込む様にして顔を上げさせた蓮は、頬を染めるキョーコに言い聞かせる様に微笑んだ。
「泣きたくなったら、俺の所に来て?」
「え・・・?」
「一人では、絶対に泣かないでくれ」
「・・・・でも、そんなの・・・敦賀さんに迷惑なんじゃ・・・」
「全然、迷惑じゃないよ?それよりも、君が一人で我慢しているとこの方が、ずっと心配だよ」
「・・・・・」
蓮の言葉が心に染みて、キョーコは何も言えなくなってしまった。
「だからね?泣きたくなったら、俺を頼って?」
「・・・・なら・・・その時は・・・ご飯、作りに行きます・・・」
「うん、分かった」
「~~~~/////」
朝から神々しいまでの笑顔を向けられ、キョーコの顔は茹蛸状態になってしまった。
その後、泣きたくなった時蓮の部屋に行くようになったキョーコと蓮の関係が変化したのはもう少し後の事だった。
FIN
ようやく終わりました・・・。
しかも、これを書いている間にアメンバー400人に迫ってるし・・・
どうしようかなぁ~。今更、リクっていうのも需要があるのかぁ?
おまけ
「でも・・・どうして、敦賀さんにはあの子の心理状態が分かったんでしょうね・・?」
キョーコを蓮に任せて社長室へ戻った、奏江がずっと気になっていた事を聞いてみた。先ほどは、聞きたくともそんな雰囲気ではなかったのだ。
「ああ・・・それはな、あいつらが似ているんだよ。良くも悪くもな」
「「「それは・・・」」」
「困ったもんだよなぁ」
やれやれと困った様に笑うローリィに、その場にいた全員が何とも言えず蓮達が消えたドアを凝視していた。
本当におわりw