コンビネーションーライバル  4話


 先輩の音夜は日々成長していく唯香を、初めはどれほどのモノかと見ていた目が、見守りながら優しくなっていくことを感じた。

『唯香ちゃんも音夜に負けない根性だね。音夜も最近は唯香ちゃんにも優しいし、もしかして惚れたか?』

 冗談めかして言われた言葉に、音夜はすぐに否定の言葉がでなかった。
 否定できなかったのは、音夜の中に自覚する気持ちができてきたからだった。
 蓮がキョーコに抱く気持ちを、音夜も唯香の中に見つけていた。

 時には読み間違う犯行の筋も、周りの先輩の姿から学び、気付ば音夜の目からはライバルとしてよりも可愛い表情を見せる女性に見える瞬間が多くなった。唯香を見つめる表情も優しく恋人を見るように見えてきた。


      *****


「何だ、蓮。唯香ちゃんと同じように、京子ちゃんにも惚れたのか?」

 同僚役からの言葉に、蓮はキョーコへの思いが溢れていることを自覚した。

 時には肩肘張り合っていた音夜と唯香も、それぞれの実力を認めると同時に、お互いの気持ちも認め合えるようになった。だが仕事はいつも真剣勝負で、気を許せる時間も少ない。


シーンの関係で音夜がバイクに乗り、後ろのシートに唯香が乗って犯人を追いかけるシーンがあった。
「京子ちゃんはバイクは初めて?」
「えーと、こんなに大きいのは初めてです。自転車は乗りなれてますけど…」
「あはは。まあ、バイクの方が馬力あるし、このナナハンクラスは運転手を信用して乗れば大丈夫だ。敦賀君もそれなりに乗ったことがあるらしいしね」
 自転車と大型バイクを比べるキョーコに監督は笑ってしまったが、女性ならスクーターがいいところだろうと納得もした。それに蓮の腕慣らしに乗って現場を走らせれば安定した腕前だった。最近は乗っていないと言ったが大丈夫と吹き替えは止めた。

 相手は車で音夜たちを巻こうとしたが、大型とはいえバイクで小回りを利かせて犯人達を追いかけた。
 身長もあり体格のいい蓮では普通のバイクでは小さいからと用意されたが、様になる姿に男性陣からも憧れの溜息がでた。
「いい男ってのはこういう時もカッコが付くもんか?」
 羨ましいような呆れたような声が聞こえたが、キョーコは流石だと思う一方で、その姿に心臓が高鳴って周りに聞こえないかと困った。
 それにこれから…蓮の後ろに座り、振り落とされないように掴まって走らなければならない。

 ーー…敦賀さんに、聞こえちゃうーー。

「京子君。敦賀君の後ろに座ってみて」
 監督の指示に心臓の音が聞こえやしないかと思いながら蓮の後ろに腰掛けた。
 バイクは倒れないように支えがあるが、キョーコは横向きに座った。
「ああ、違う。バイクに跨って敦賀君にしがみついてくれ」
「えっ!?」
 唯香の衣装はパンツスーツだ。素早く動けるようにと仕事中はスカートを選ばずにパンツ姿という設定なのだ。だから跨いで乗ることも可能だ。
 だがキョーコは驚いた。この方がしがみつくにしても接触率が低いのに、監督はまともに蓮に抱きつけと言っているのだ。
「最上さん。俺はそんなに信用がない? しがみついても振り落としたりしないから大丈夫」
「わはは。京子君なら振り落としても気づかないじゃないか?」
 監督が面白そうに笑うとキョーコが少しむっとした声を出した。
「何故ですか?」
「そんなに細かったら、風の抵抗で落としそうだ」
「監督!」
 確かに女性としてボリュームのある方ではないが、細くて風に飛ばされるなどと言われれば女性らしくなくてヒョロヒョロの体格のようだ。
 すると蓮もクスクスと笑いだし、しかし視線は優しくキョーコを見ていた。
「敦賀さんも風に飛ばされると思ってらっしゃるんですか?」
「違うよ。でも最上さんは体重が軽そうだからね。華奢で俺の後ろなら風を避けられるんじゃないのかな?」
 蓮の言い方は監督と同じことの筈なのに、女性として華奢だと言ってくれたことがキョーコには嬉しくて恥ずかしかった。
「それは…敦賀さんの体格がいいからで…、海外の服のモデルのアルマンディのモデルをしていらっしゃるぐらいですから、肩幅も広いですし…」
「そこから先の分析はいいからね。君の目は怖いぐらいに骨格まで分析してくれるから、目にレントゲンを隠してないかと思うよ」
「あ…」
 蓮がキョーコの説明を遮った理由がわかって口元を押さえた。
 ヒール兄妹として生活を送る前、カイン・ヒールを迎えに行った時にその骨格で蓮だと見抜いたことを説明した時に蓮は驚きで言葉をなくしていた。その見抜き方もそうだったが、それが好きな女の子からだとは想像したこともない見抜き方だったことだ。
 それが「もしかして?」のレベルならまだしも、確定していた特徴として「骨格が!パーツが!」と説明されても喜べるものだろうか?
「す、すみません! でも、敦賀さん並の体格の芸能人の方は少ないですし、敦賀さんほど観察している芸能人の方は少ないですから」
「……観察じゃなくて、視姦じゃないの?」
 あの時のことを思い出して蓮もつっこみを入れた。
「そ、そんな訳ないじゃありませんか!! 観察です、観察! 私には男性の裸に興味はありませんから! 敦賀さんは意地悪です! 破廉恥です!」

 キョーコと蓮がじゃれ合っている姿に、監督も脚本家もこの雰囲気をラストに繋げて行くことを決めた。
 コンビというよりもパートナーに近い、男と女でありながら変にべたつく男女関係とも違う、二人の関係が自然に寄り添うラスト。


          *****

                 【つづく】

 次でラストです。チェックは毎回必要ですね(^^;;

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