コンビネーション ー ライバル 3話


 丸1日のオフは、メインの二人にとっては気持ちの上でも休息となって深い眠りももたらした。
 眠りの中でそれぞれの思いが形になって、自由な思いが解放された。
 しかしそれも目覚めれば気持ちのよかった夢だとだけ記憶に残るものとなった。
 目覚めた後のすっきりとした気持ちよさが、何か心の中のくすぶっていたモノを洗い流してくれた気がした。何かわからないからこそ気持ちの整理がしにくいモノが、一度形になったことでさっぱりと整頓できたのかもしれない。

「「心の中が、軽くなった?」」

 二人が同じ言葉で目覚めた時に感じた気持ちを口にしたことは、互いに知る由もない。


  *****


 そしてドラマは後半へと盛り上がっていく中で渡された台本は、最初に聞かされたラストに向かうものと少し変わっていた。

「監督。話の流れが、唯香との関係が予定とは変わってきましたね? それで台本が遅れたんですか?」
「その通りだ。視聴者の反応や君達の間が、ただの刑事モノのコンビとしてよりも近いと感じた。敦賀君は後輩として、しかしそれ以上に守ろうとしている視線が優しくなってきている。ファンの目はそこを見つけている」
「ファンの目が?」
「それはもっと近くで見つめる私や脚本家も早くに気付いていたことだがね…。お互いに見つめる視線がコンビとしてよりも、互いに交わす笑みがより深くなっている。ドラマの中で二人の距離はもっと近くなり、ファンもその関係を望んできた。このドラマは刑事のコンビモノだけではなく、人との結びつきから愛情へと成長するドラマになったんだ」

 その言葉の意味を、蓮は監督を見ながら心の中を見られたのではないかと隠しながらそっと見た。

「……それは監督の予想範囲でしたか?」
「いくつかの道があるならあってもよかったが、初めの読み合わせの時は予定から外れていた。京子君の成長はドラマの中で生きながらしていくものだな。それも相手が強ければ、予想以上に大きな花になる。監督としてはまた育ててみたいタイプの女優だね。どんな花になるか、どんな色を出してくれるか楽しみだよ」

 監督の言葉に、蓮はもう前から知っていることだと…言葉にしなくても浮かべた笑みが物語っていた。
 それは破顔の笑み…。
 監督はその深く輝くような笑みに、蓮はキョーコの成長する姿をすでに知っていたのだとわかった。そして周りにいた者達は、男女を問わず蓮の破顔に赤面した。

「敦賀君はその笑みでどれだけの女性を腰抜けにしてきたんだ? どんな女性でも選り取りみどりだろう?」
 監督が耳打ちして聞いてきたが、蓮は「本当に欲しい人は一人ですから」とだけ答えて撮影の準備に向かってしまった。
「つまりはまだ手に入れていないのか? 敦賀蓮ならいくらでも寄ってくるが、まだ手は出せないか? 思ったより押しが強くない男だな」


  *****


 すぐ近くで蓮と監督のやりとりを聞いていた社は、小さく溜息を吐いた。
 蓮もキョーコの成長と心の変化を待っているのだ。
 女優として、一人の女性として自分の足で立ち、キョーコの望む人としての成長を待っていた。そしてラブミー部からの卒業として、人を愛することがバカなことではないと、そして愛されることを受け入れることが出来る女性らしい柔らかな心が育つことを待っていた。
 今回の仕事で久しぶりに同じ現場での仕事は、キョーコの成長を目の当たりにすることになり蓮も顔には出さなくとも楽しみにしていた。だが二人を見守っていた社には、何気なく接する二人の距離が、新人だったキョーコとは違ってきていることを感じた。
 普段のキョーコとのすれ違いは変わりないものの、長い時間の現場で過ごすことはキョーコの変化をよく見ることが出来た。
 監督の言葉、そして組んで仕事をする蓮の反応に対しても、キョーコの反応は蓮にも手応えのあるものになった。
 コンビモノはお互いの反応が良ければそれだけ話にも反映してくる。
 脚本に隠れた味がでてくるのだ。
 時にはでるアドリブや、役としてならあり得る素の反応など、話に勢いがでてドラマが生き生きと動き出す姿は、人が動かすのではなくドラマが生きている証拠だ。

 そのドラマの動きがコンビの二人の関係を、刑事としてだけでなく人間として、男女の心の結びつきへと関係を変える投書のメールが山のように来るようになった。
 脚本家もいくつかに絞った話のラストの中に入れてはいたが、途中までは”先輩に追いつく唯香”がメインとしていたが、隣に並び余裕の笑みを見せる時もある姿を、優しく見つめる先輩の笑みは先輩以上の意味を含んで見えた。
 これが折り返しとなって蓮の視線は優しく唯香を見守り、時には危険から庇い、急速に近くなっていく二人の距離を脚本家は、二人が自由に動けるようにと大まかなセリフや動きだけで二人に任せる形にしてしまった。もちろん監督には流れと大きなセリフだけ知らせ、この二人ならコンビが相手の動きに合わせるようにドラマを作り上げていくと楽しみな目で見た。


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               【つづく】

  ドラマに話を絡める形もあるので長さがバラバラです。
 もう少しお付き合いを…。

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