お待たせしました。魔人様

蓮と京子のダブル主演。「ライバル」の2人。
刑事モノでも芸能界モノでも…のお言葉に
刑事モノに食いつきました、私(^^;;
ではどうぞ…


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     「コンビネーション」    1話

 このところ人気のある刑事モノのドラマ。それもコンビものは色々なタイプで古今東西、刑事のタイプが変わればその雰囲気が変わり、その時々の役者の組み合わせで味のある刑事ドラマが出来上がる。
 推理モノにしろ、コンビに焦点を合わせたモノにしろ、正当派といえる刑事モノはあって無いようなものだ。
 昔は刑事モノと言えば、主役はいてもその部署のメンバーが入れ替わり立ち替わりして新しい雰囲気を出しているタイプもあったが、今はどのドラマも入れ替わりが激しく、2クールがいいところで一度話は区切りをつけて終わってしまう。ただ長いだけでいくよりも、次の続編が始まるまでの間に新たな展開を脚本家達が練って別の流れを作り、また新たな役者を使い、ゲスト的な犯人を豪華に使うための準備期間としても使うこともできる。
 続編の作られるドラマはそのキャラクター達にも人気があり、時にはその過去に触れるシリアスな話や、過去に残してきたモノを終わりにできる話など、だからこそ相手役もポッとでの新人よりも実力のあるオプション的な役が使われたりするには、ドラマの中のただのワンシーンで終わらせない実力派を押さえておく必要がある。
 人気のでたドラマこそ、役者にとっては嬉しいながらも続編を期待されたり、最近は「スピンオフ」という本来の主役以外をメインに持っていく、視点を変えたドラマも人気がある。個性があるからこその別目線のドラマを作り上げていくのだが、主役達は自分のお株をとられたと思えることだろう。
 それぞれの個性が作り上げていくドラマという現実にはないはずの話が、また別の話を生み出し作り上げていくことは不思議な感じもする。


 今回も主役二人に期待と少しばかりの不安の目が向けられていた。
 一人は最近は主役以外の役も少ないほどに忙しい敦賀蓮。若手俳優の筆頭で実力も満点。言うことはない。
 もう一人はまだそこまでの順調さはないモノの、蓮も可愛がるほどに役者としても目覚ましい後輩、京子だ。
 演技は役に入り込めば蓮も真剣を交えるやりとりが必要だと思えるキョーコの上達ぶりに、嬉しい反面複雑な気持ちがのぞく蓮がいた。真剣な演技が仕事仲間からも人気を集めて予想以上に馬の骨が増殖しているからだ。

 二人とも忙しいこともあり、時間のある時にと収録は早めに始められた。
 蓮はドラマからモデル、映画の予定が入ればこのドラマとの往復で時間が限られる分も収録にロスを少なくしたい。1クールモノとはいえ蓮の出るドラマに視聴率は付いてくる。だが、『敦賀蓮が出るから視聴率がいい』という看板を蓮は喜ばない。自分の人気故のある程度の視聴率は理解するが、皆で作り上げた最高のドラマを楽しんで欲しいと思っている。それが役者の敦賀蓮という男だ。
 そして今回は嬉しいことに可愛い後輩がいる。ドラマの中でも後輩ながら実力を出して自分に追いつこうとする姿は、実際のキョーコの姿にも似ているところは微笑ましくもある。
 だが今回はそれだけではなく、時には蓮よりも勘を働かせて先を読む後輩という役回りもあった。そんな時はキョーコ自身が一回りも二回りも大きく見える不思議な感覚に蓮は陥った。自分を目標にしてくれる愛しい女性だが、まだ彼女に負ける訳にはいかないと思っている蓮にとって、役の上でもキョーコに上をとられる役はキョーコに嫉妬を覚えさせた。

「最上さんの成長は早いね」
 蓮は嬉しい本音とまだ追いつかれる訳にはいかない嫉妬も混じって、キョーコが輝く姿に増える馬の骨には睨みを利かせた。
「私の成長ですか?」
 キョーコはいつになっても自覚のない様子で、キョトンっと答えた。
「役の上だけじゃなく、俺が追い抜かれたように感じるよ」
 蓮が複雑な気持ちをこぼしてみると、キョーコは驚いてとんでもないと言わんばかりに首を振った。
「私なんか、敦賀さんに追いつきたくって必死なんですよ! 敦賀さんのように、自分の演技で相手を引っ張れるような、相手に演技させられるような、その場所の空気を作れるほどの役者さんになりたいんです! まだまだ私なんて足元にも及びませんよ! それなのに、今回は敦賀さんとのダブル主演と言われて、敦賀さんの足を引っ張らないかと必死なんですから!」
 キョーコが叫ばんばかりの声で返すと、蓮は少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべた。
「……本当にそう思ってる? 君は充分に俺の横で主役の一人になってるよ。俺が足を掬われないか心配になるほどにね」
「本当…ですか?」
 キョーコが恐る恐るといった顔で蓮に訊いてきた。
「収録は上々に進んできたけど、始めは監督やスタッフ達も最上さんよりも俺への気遣いが多かった。俺だけが主役のようにね。でも今は最上さんにも同じように主役として接している。『ライバル』だからね。君の演技を認めてこのドラマを成功させたいと思っているからだ」
「……そうなんでしょうか?」
 まだどこまで信じていいかと思うキョーコが呟いた。
「主役ならただ目立てばいいわけじゃない。その役として、俺の相棒でありライバルとしてドラマの中で霞んだら意味がない。俺のライバルなら俺と対等で、そして時には俺よりも癖を見せたりしながら、俺を追い越す勢いの後輩として成長する姿が『ライバル』として、相棒として競いあって成長するのは俺も同じだよ」
「敦賀さんと競いあう…ですか!?」
 信じられないとばかりにキョーコは驚いて声をあげた。
「そうだよ。何でもそうだと思う。スポーツにしても、仕事にしても、役者としてだってお互いにいい刺激があれば成長する。ただしそれはお互いに真剣にやり合うからだ」
「真剣に…? 敦賀さんと?」
 それはキョーコには憧れていた役だ。
「そうだよ。俺はいつでも真剣に演じている。それは最上さんも知っていることじゃないかな?」
 キョーコはそれを誰よりも知っていると言わんばかりに大きく頷いた。
「放送が始まれば、ドラマを見る視聴者から反応は返ってくるだろうけど、今のスタッフや監督の反応も俺たちの『ライバル』を楽しんで作り上げているのがわかるよ。最上さんも楽しく演じていない? 役の唯香は好きだろう?」
「好きです。先輩を尊敬しながら刑事という仕事に誇りを持って、そして被害者の無念を晴らしたくて必死に捜査する姿は好きです」

 蓮はキョーコの真っ直ぐな目に、唯香と同じ目を見た。

「それでいい。最上さんの感じた唯香は真っ直ぐで俺も好きだよ。刑事として、また一人の女性としてもその信念を貫く姿は、先輩も後輩もない。男の仕事と思われることの多い刑事という過酷な役でも、君の唯香は男女関係なく輝く、俺とは『ライバル』だ」

 役者として、その役の上であっても、目指す先輩に『ライバル』と言われてキョーコははにかむように嬉しい笑顔になった。
 自分の演技が少しでも認められ、そして唯香という役にとけ込んでいける自分が嬉しかった。
 台本の中から吸収した唯香が、動きながらドラマの中で先輩を追いかけ、そしてその背中からもっと何かを吸収して成長していく。 それは自分と同じ姿だと感じた。蓮を追いかけて、でも蓮に追い付きたいのではなく追い続けたい気持ちは、心の中の箱は開いたままで閉じる術を忘れてしまった気持ちだった。
 その気持ちを蓮に知られたくはなくて、だからといって追いかけるのは止めたくはない。いつまでも、ずっとずっと追いかけたい。
 追いかけられたらそれでいい。
 そして時々振り返ってくれたなら、顔が見ることができれば充分だ。その表情が困った後輩を見る目でも、笑顔であることまで望まない。
 最高の笑顔は、ドラマが成功を納めた時に見られたらそれだけで何もいらない。

 キョーコが心の中で成長する思いを隠したまま、収録は順調に進んでいった。


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ドラマ撮影を通しての二人…なんですが、
このところ記憶のもうろく度が酷くて、
話数を間違えて覚えていましたので、短すぎず長すぎずです。
ぼちぼちお付き合いください。(^^;;

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