今日の日に何か書きたくて書いてみました。
昨年書きかけて、形にならなかったものを元に、
でも、蓮キョではないですのでご注意を。
名前を借りてはいますが、
それに私は本当の現実を知っている訳ではないので、
何か優しい思いを伝えられたらという、
言葉でもたやすく出来ない気持ちを話の形で託しました。
タイトルは、いつも優しい気持ちを頂く、
大谷先生から、勝手に、お借りしました。


   生まれいづる命


 ドキュメンタリーの中の短いドラマ、再現ドラマとは少し違うが、同じように過ごした人も多いだろう…津波が甚大な被害をもたらした実際の自然災害。
「心を痛めた時間の中で、それでも授かった命が支えになり、強く生きていこうとした若い夫婦の姿だ」

 プロデューサーは二人にこそ頼みたいと頭を下げてきた。
 後日知ったのは、そのプロデューサーの故郷でも大きな被害があったという事実だった。
 蓮とキョーコがその若い夫婦として、実生活でも結婚間もない二人が指名された。


        *****
(ドキュメンタリー中のドラマ)


 あの時から2年という日に、生まれてきた一つの命があった。
 失われた人も多い。でも逞しく生きている人もいる。
 それでも失ったものは多くて、前に進むことが出来ないで佇んだまま、進めたい歩みは生きる元気さえ溜息と共に漏れてしまう人もいた。

「何も言わない。ただ元気に育ってほしい」
 腕の中の生まれてきた命に、キョーコは頬をすり寄せて愛しく呟いた。
「俺達の思いに包まれて、元気に生きてほしいな」

 失われた命もあれば、こうやって授かり、生まれてくる命もある。
 生まれてきたならば、何もわからない間に奪われた人達の分、精一杯生きて欲しかった。いきなりの天災に、生きることを奪われた人の分まで、どうか生きることを、生まれてきた命を謳歌して欲しいと思った。

 二人は我が子を抱き抱えて、少しの時間だけと、日光浴に出かけた。
 そして道ばたに枯れかけた木から、芽吹く新しい命を見つける。

「この木…。枯れてしまったと思ったのに」
 キョーコは驚いて、その緑の小さな芽にそっと触れた。
「この辺りまで水が…」
 津波が押し寄せて高台まで逃げたのに…。

「木も力を溜めて新しい命を生み出したんだ。簡単にはくたばらないぞって」

「人間も、人も心を痛めたけど、でも生きている。前に進もうとしている」
「簡単じゃないけど、でも…この木が生まれ変わるように芽を出したように、時間をかけてでも新しい出発をしなければいけないな」
「まだ前が見えないような、そんな状況でも?」
「生きていれば何か、前が開ける。勿論簡単じゃない。直ぐには無理だろう。でもこの子が生まれたように、何かが変わっていく」
 時が知らぬ間に2年という時間を刻んでいるように…。
「生まれてきたこの子?」
 キョーコが訊き返した。
 蓮はキョーコの腕から子供を引き寄せて抱きしめながら、キョーコに笑みを見せて言った。
「あの時はまだ影も形もなかったこの子が生まれた。それは新しい兆しだろ? 明るい未来をこの子に託そう」
「未来を?」
「重い錘もあるかもしれない。それだけをこの子達に背負わせるつもりはない。でも新しい未来もこの子は作る力を持っている。俺達とは違う未来だ」
 キョーコは優しく微笑んで頷いた。
「私達に出来なかった、でもこの子になら作り出せる未来?」
「あの経験を、忘れてはいけない。それは、もしもの時の未来への経験にしなければ、あの時に犠牲になった、被災した多くの人の苦労も、苦しみも全て無にしてしまう。あの神戸での震災も知らずに生まれた命も、多く育って記憶は風化していく。風化させてはいけないけれど、人は知らず知らずに痛みを忘れたがる。言葉にして語り継ぐ勇気は必要なことだ」
「語り継ぐ勇気…」
 キョーコは言葉にしてあの恐怖を人に伝えられるかと自分に問いかけた。
「昔の戦争や原爆を、恐怖で言葉に出来ないでいた人達も、勇気を持って語り部になった人もいる。神戸でも、山古志村でも、それに日本だけじゃない。津波の恐ろしさも、人が作り出した恐怖…テロの恐ろしさもある。忘れてしまうことは再び恐怖を生み出すことになる」
「忘れない為にも、勇気を持って語り継ぐことが必要なのね?」
「この子が知らない自然の素晴らしさと恐怖を、両方教えてあげるのが俺達の語り継ぐ一歩だ」


  ***********


 そして1年後…。

「お、お、美希。頑張れ!」

 おぼつかない足取りで、父親である蓮に向かって数歩歩いてペタン…と座り込んだ。

「おー、頑張った。頑張った」
「親バカさんね…」
「そんなことあるか。美希は可愛いし、頑張って前に進むからいいんだ!」
「明日で1歳だけど、少し遅いぐらいなのよ。歩くの…」
「少しぐらいどうした。元気で丈夫なら、直ぐに追いつくさ」
「ホントは……外でも思い切り遊ばせてあげたいけれど、難しいから運動も限られて運動不足じゃないかと思うの」

 母親のキョーコの心配は父親とは違う深刻なものを多く抱えていた。

「私が食べるものはこの子の栄養になっていくから、母乳をあげたいけど迷うの。今のミルクは栄養的に悪い訳じゃないけれど、母乳をあげるのもスキンシップにもなるわ。抱きしめて愛している気持ちを、思いを伝えることは出来るけど、母乳を通じての栄養と思いもあげたい」

「確かにニュースとかを聞いていると心配にはなるが、過剰に反応して神経質にはなるなよ。お前が心配しすぎると、この子にも何か伝わる」
「……そうね」
「少しだけ散歩に行くか?」
「でも、外は…」
「こちらにまでは大丈夫だろう。それに少しだけだ。外の空気を吸う程度だ。マスクもするさ」

 水は来たが、空もまたつながっている。

 そして歩いて来たのはあの芽吹いていた木の処。
「凄いな、自然のエネルギーは…。ゆっくりだが育っているぞ」
 朽ちたと思った木からの芽が、去年よりも大きく天を目指していた。
「ホントだ…」
「子供もゆっくりと自然に大きくなればいい。この木の生長と競争だ。それでも木の方が長生きな分、成長はゆっくりと大きくおおらかな感じだがな」
「おおらかで、でもゆっくりと未来へと歩いていってくれるかな?」
「俺達の子供だぞ。前を向いてあるいて行くさ」
「…またこの街に、沢山の人が、子供の声が溢れたらいいな」
 願いを込めてそう呟いた。
「人は弱いようで強い。昔みた東京の空襲や大正にあった東京大震災の後の写真は凄まじかった。でも今の東京や神戸の街は、傷を抱えながらも生まれ変わろうとしている。本当はその傷全てを治したいが、それには時間がかかる。だから出来ることからやってみよう。一つずつ…」
「一つずつ…」
「前へと行こう。俺達に出来ることから、そしてこの子達の為に。この子の笑顔を育てていこう」
「ぱ…。ぱ! マ!」
 二人は顔を見合わせた。
「今…俺達を…」
「呼んだわ! 私達の、未来を歩いていくこの子が…」

 僅かな子供の成長に、子供の未来を感じた二人は笑顔を交わした。
 まだ本当に大きな被害のある場所は、出口を手探りにしている状況だが、同じ見えなくとも輝く未来を子供達は持っている。

「この子達が、大きな輝く未来を作る為に、俺達も一歩でも前に進まなければいけないな」

 蓮の言葉にキョーコは頷き、美希を抱きしめて空を見た。
 蓮は二人ごと抱きしめて、人は弱くはないと海を見つめた。

         【FIN】

あとがき…でも長いです。

私の書いた話は、夢物語かもしれません。
でも『夢』で終わらせたくはない気持ちがあります。

優しさと、励ましと、そんな気持ちのつもりが、本当の苦労を知らずに伝わるのかと、書いてみました。
実際の処は、子供達を思うご両親達の心配で、疎開するなど、大変だということは知っています。知ってはいても本当の意味で理解はどこまで出来ているのか、そんなあやふやな部分があることは知っている上で書いています。
だからこそ、多くの方が宝物だという子供達を、未来の光だと思いたいと思います。
時間は止まってはいないのなら、一歩を頑張れるように、動けるように力のある人達には、しっかり支えて、心も体も支える行動を取ってもらいたいです。(特にえら~い方々に…)

もう3月だというのに暖かくなったり寒さが戻ったりしていますが、体調を崩されたりしません様に。

かなり私自身が頭も身体もワヤワヤで書いていますので、
不快な思いをされた方がいらっしゃったら申し訳ありません。
出来るだけ早く、皆さんのご苦労が少しでも軽くなるように、
全てがなくなることはなくても、笑顔がもっと多くなりますように。
私達の方が、笑顔を貰ったままでなく、笑顔を返せるように。
奢れた気持ちでなく、力になれますように。

  山崎由布子 拝

PS 書き上げてはみたものの、
  この記事はアップを迷いました。
  ご意見のある方はよろしくお願いします。

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