なんとか今日の日に滑り込みセーフかな?(^^;;



  大和撫子七変化  後編



そしてそれからの蓮は、椹にキョーコの仕事の練習から本番までの、いわゆるメイキングを録画したものを取り寄せられないかこっそり頼んだ。
 椹は契約の場に居合わせたこともあって監督に頼んですんなりと蓮に回して寄越した。
 キョーコの艶姿は蓮の予想を上回って、キョーコの魅力溢れる姿に、蓮はやっと重い腰を上げて行動を起こすことを決めた。


 京子達3人のCMは洋服とは違う艶やかさで話題を呼び、振り袖の注文が予想以上に多くなり、中でも京子の着ていた振り袖に人気が集まった。

「社さん。最上さんのスケジュールで、わかる範囲でかまいませんから調べて教えてもらえませんか?」
 蓮の言葉に社は一瞬驚きで目を見開いたが、嬉しそうににやにやとした。
「やっと蓮も本気になったか! わかった。二人の為に協力は惜しまないよ」
 お節介だとか言いながら社にまで気持ちを誤魔化していたことが嘘のように、蓮がキョーコを本当に大切にしていることはわかっていたことだ。兄のように見守りながらも、蓮が本気で行動するのを待っていたのだ。
 社はキョーコのスケジュールを調べて蓮と照らし合わせては、少しでも話せる時間を作る助言をした。蓮の忙しさ故にゆっくりとは難しくとも、二人の時間を作るための努力は惜しむことなく、仲の良かった二人の雰囲気が先輩後輩よりも近いものに変わっていった。

 キョーコ自身の気持ちは隠していたところで蓮にあるわけで、キョーコは甘い蓮の言葉に奥底に隠した箱の鍵は閉めても直ぐに飛んでしまう。
 蓮の真綿の優しさで逃げられないように捕まって、逃げられなくなったキョーコに、蓮は「君が好きだ」と伝えると、キョーコは本来の可愛らしい笑顔で頷いて「私もです」と答えた。
 逃げ回っていた気持ちも、蓮がゆっくり愛そうとしてくれる気持ちには、もう蓋をする事が出来なくなっていた。
 そしてゆっくりと二人の思いを育んでいった。


 そして暫くしてから翌年の京子の振り袖を、スポンサーの個室で多くのカタログを前におかみさんと共に親子のようにして染めから頼んで仕上げてもらった。
「キョーコちゃんの振り袖を一緒に選べるなんて、夢みたいだね…」
 口に出すことはなくともお互いに母と娘のような関係の二人は、おかみはキョーコという娘を持った喜びを感じ、キョーコも母親との蜜月を持ったように感じて嬉しかった。
 キョーコにとって京都の生みの親は、母と言えるほどに甘えることも許されずに育てられた。尚の家である旅館に預けられ、親の本当の温もりを知ったのは、おかみや大将のお陰だった。田舎を飛び出してアルバイトの時から、色々と親身になってくれた上に居候させてくれるほどに世話をしてくれる優しい二人は、今まで知らなかった無償の愛をくれる親としか言えない存在だ。
「…私、おかみさんや大将のことは親同然に思っているんです。ですから一緒に選んで貰えるなら、おかみさんしか居ないと思って…」
「そうかい。そうかい。嬉しいよ。キョーコちゃんはあたしの娘なんだね」
 おかみはそう言って涙ぐんで、キョーコを抱きしめた。
 「だるまや」の二人は子宝に恵まれなかったが、キョーコという娘が居るのだと、キョーコにはっきり言われたことが嬉しかった。
 最近は仕事が忙しくなったことで「だるまや」から出ての生活になっていたが、何か嬉しいことがあれば電話で連絡をしていた。そして今回の振り袖も、親なら一緒に選ぶものとしておかみを誘って選ぶことにしていた。
 その最高の振り袖が出来上がる頃には、キョーコにもある変化があることは、一緒に暮らしていなかった「だるまや」の二人には驚きながらも嬉しい報告となったのは成人式の日だった。


 2年目となるCMの撮りは、衣装合わせから監督を驚かせた。
 更に磨きのかかり色香を増した京子は、まさに大輪の花が香りさえ匂わせていた。
 それは少女ではなく女性としての大人の秋波…。
 キョーコを大人にした誰かがいたと感じた。だがそれが敦賀蓮という大物だとは知らないでいたが…。
 今回は京子だけでいけるとスポンサーも押していたが、監督は間近に見た京子が更に化けて大物になると確信して撮影に入った。
 京子の美しさは着物の所作でなお鮮やかに色を持っていた。去年もその美しさはあったが、今年の色香とは比べものにならない。撮影に入る前から秋波の美しさで、新人のスタッフは容赦なく魂を持っていかれていた。

 予想通りに京子の振り袖姿は興味のある年頃の女性だけでなく、男女を問わず画面から目が離せないほどに好評で、街頭のポスターは軒並み剥がされるという嬉しい悲鳴を上げることになった。


 そして年が明け、成人式がそれぞれの故郷で晴れやかに行われた。この頃は成人式の意味をはき違えた折角の式典を台無しにする大人になりきれないでいる者もいるが、それでも晴れの門出だと着飾る若者の笑顔は輝いていた。
 キョーコもおかみと選んだ振り袖で嬉しそうに着飾り、この日の為に少しだけ伸ばした髪をアップにすると襟足に色気を滲ませ、簪や花で華やかに飾った。
「キョーコちゃん、綺麗よ。ほんとにべっぴんさん。こんな娘を持ったあたし達は幸せ者だよね、あんた」
 おかみが涙ぐみながらそう言うと、キョーコも貰い泣きをしていた。
「キョーコ。泣いたらメイクが崩れるわよ!」
 親友の奏江は、素直に誉めるよりもいつもの辛口が出た。
「キョーコ!」
 芸能人が数人いれば、成人式もグラビア撮影並のカメラマンやリポーターも居た。そんな中に奏江も聞き覚えのある声が大きく響いた。
「なによ。あの人来たの?」
 奏江も嫌いなわけではないが、親友との時間を取られることもあり、それに加えて2人が付き合うようになってからは過剰なほどの愛情表現を目の当たりにされてげんなりしているのだ。
 身長も頭一つ抜きん出た若手俳優に、キョーコを見ていたカメラマン達も一斉に向きを変えた。
「あの…ね、モー子さん。式典に行けたらプロポーズするから、よろしくね、って、昨夜メールが来たの」
 嬉しさ半分、恥ずかしさ半分でキョーコが小さな声で奏江に言った。
 それを聞いた奏江は盛大な溜息を吐いた。
「あの人ったら、相変わらず自分がどれだけ目立つかわかってないわね」
 少しばかり苦虫を噛み潰した顔で、でも親友の嬉しそうな顔に苦笑へと変わっていった。
「こんなマスコミもいる前で、名前なんか大声で呼んだらカメラマンが二人のことを撮りまくってるじゃない!」
 周りを気にすることのない蓮は、キョーコの元へ人をかき分け近づいてきた。愛しいキョーコの晴れ姿を一目でも早く近くで見たいが為に、周りがとろけそうな笑みを浮かべて…。
「綺麗だよ、キョーコ。おかみさんと選んだ素敵な晴れ着だ。成人の日にお似合いの素晴らしい振り袖姿だよ」
「ありがとうございます。敦賀さん」
 蓮の笑みに真っ赤になりながら、でも嬉しそうにキョーコは言った。
 そんなキョーコを微笑ましそうに見つめながら、蓮はスーツのポケットからビロードの箱を取り出した。それは誰が見ても中に入っている物が想像できた。
「メールで伝えた通り、この指輪を填めてくれるかな。キョーコ?」
 蓮のとろけるような笑みが京子という後輩に向けられた意味を問いかける前に、蓮自らがその意味を形と言葉にして見せることで、マスコミのフラッシュがまたもの凄い勢いで焚かれることになる。
 蓮は平然としてキョーコを見つめるだけだが、キョーコは余りの眩しさに顔を覆った。そしてメールの意味は分かっていたものの、現実のものになった指輪という形に、戸惑いながらも嬉しいと思える気持ちがこみ上げてきた。
 そして嬉しいと思える気持ちがキョーコの頬を涙になって伝った。キョーコは蓮を見上げて頷くと左手を差し出し、蓮はキョーコの薬指にエンゲージリングを優しく通した。
 蓮のその姿は役者としても何度も経験済みの行動だが、キョーコの指の付け根まで納まると大きく溜息を吐いた。
 キョーコはフラッシュが焚かれても動じなかった蓮が、まさかと思いながらも緊張しているのかと感じた。
「その…敦賀さん。もしかして緊張しているということはないですよね?」
 否定の言葉が聞こえると思ったキョーコだが、蓮の笑みが苦笑に変わった。
「緊張するよ。初めて本気でプロポーズして、もし断られたらと思ったからね」
「敦賀さんほどの自信のある方がですか?」
「こればかりは自信のある男が居たらコツを訊きたいね。それに今日は君の晴れ舞台の日で、親ともいえるご夫妻の前でもある。失敗は許されないからね」
「あ……」
 蓮はマスコミを無視した形でおかみと大将に向き直った。そして深々とお辞儀をして心のままに言葉にした。
「キョーコさんを幸せにします。全力で、必ず幸せにします。それほど遠くない日に、キョーコさんと結婚することをお許し下さい」
 二人ともキョーコから付き合っている人が居ることは知らされていたが、まさかこれほどの有名人だとは知らずに驚いた。先輩として顔を合わせたのはずっと昔だった気もするが、ほんの数年前のこと。そして幸せそうに薬指のリングを見て微笑む姿は、もうその先の幸せを夢見る飛び立とうとする娘だ。その伴侶となろうとする男の目も真っ直ぐで、反対など出来るはずもない。
「幸せにしないと許さんぞ!」
 大将の一言で、固唾を飲んで見守っていた周りからは拍手が起こった。
「おめでとうございます!」
 マスコミのリポーターから一般の成人式の参加者までが、二人に向かって声をかけた。
 事の成り行きを見守っていた周り中から「おめでとう」と言われ、マスコミのマイクは二人を囲んで離さなかった。
 一部の局は字幕で特報として流し、生中継の局は特番さながらに二人の映像を流した。
 そして今の時代は個人でも多くの情報を流せるアイテムを持っていることだ。マスコミ以上にネットを通じて、目の前の世紀の大カップル誕生を映像付きで流すことで、数時間もかからないうちに敦賀蓮と京子のビッグニュースは日本を飛び出し世界へも配信された。
 そのせいで蓮が両親から泣きつかれたのは時差の加減もあって深夜になってからのことだった。


 晴れやかな花の舞うほどに咲き誇った、キョーコという華を蓮はやっと手にしたのだった。


                【FIN】

     でかい砂吐き場ですが、どうぞ (^▽^;) 矢印   風呂  
  
あの…このお話、最初は「キョコが振袖を着てのCMだ!」というだけだったんです。
でもそれが、気が付いたら話が膨れ上がりまして、ラストは砂吐き場を用意してありますのでご容赦を…σ(^_^;)  
(どこか甘くしないと気が済まなくなっているのかな…)           

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