「最後の夜に…」後編

「君は…、君の目は俺が何を見つめているか知ろうとしてくれないのか?」

「敦賀さんの目…?」
「俺は…、確かにハリウッドを追いかけていた。その理由があるから、俺はハリウッドを目指し、捕まえたいモノがあった。だがもう一つ欲しいモノが出来たんだ」
 蓮ははっきりとキョーコを見て言った。
「それは君という存在だ!」
「わ、わ、私?」


 蓮のハリウッド進出のお祝いの食卓が、思わぬ告白を呼んでキョーコは固まった。


 ……今の、敦賀さんの幻聴が聞こえた?
 敦賀さんが欲しい存在が、わ、私!?
 そ、そんなこと……。


「そんなことは、あり得ません!! 私なんかを、敦賀さんが欲しい存在なんて、そんなことは!」
「…ーーーどうしてそう言いきれる? 俺は君が芸能界に入った時からずっと見てきた。最初は復讐などと言うバカな志でいた時は、君の存在が芸能界から直ぐに消えると思っていた。そんな君が自分を作るために、自分を作り出すために、女優として自分が変わっていく、自分を育てていくと話してくれた時の表情は、芸能界で初めて会った時の君とは全く違うとわかった」
「芸能界で初めて会った?」
 この表現に、キョーコは少し違和感を感じた。
「そうだ。君はどんどん変わっていった…。蛹が羽を出して美しい羽を広げて蝶に変わるように、堅く閉ざした蕾が綻び花開くように、ずっと見つめてきた俺の目は、君から離れることはなかった」
「……ずっと……ですか?」
「ずっと、ずっと見つめてきた。目を離せなかった。何故だかわかるかい?」
 キョーコは首をフルフルと振った。
 危なっかしい後輩を見る先輩がいいところだと思ったからだ。
「君の真っ直ぐな目が、女優として花開く姿が、後輩として以上に魅力的な女の子として俺の目を離せなくしていたんだ!」
「…うそ…」
「嘘じゃない。それに君とはもっと昔にも会っているんだ。今の俺の姿ではわからないと思うけど、十年以上も前の夏の京都、河原で君は言ったよね。『あなた妖精?』って。俺は本来の姿で、金髪に壁眼だった。そして君は、俺を『コーン』と呼んだ」
「…………」
 驚きで声も出せないキョーコは口元を両手で覆った。
「今思えば、俺はあの時の君にずっと優しい気持ちをもらっていた。君は子供の時の俺の宝物で、思い出の女の子だった。俺達は全く別の場所で、姿も変わったけど再び巡り会えた。これを運命でなくてなんと呼べばいい?」
「敦賀さんが……コーン? あの時の、妖精?」
「妖精だって言ったのは君に合わせて嘘を吐いた事になるけど、君の夢を壊さないようにしたかったんだ。俺は君の夢を叶える妖精にはなれないか?」


 蓮の言葉にキョーコは夢から現実に引き戻された。
 現実の妖精?
 それは蓮の隣に立つことを、蓮とこれからも共に時間を過ごしていくことを、差し伸べられた手を取ることを求められた事に、キョーコは固まってしまった。


 嬉しい気持ちよりも驚きが勝る蓮の言葉……。
 笑顔よりも固まる表情は、蓮を落胆させた。
 蓮も一足飛びにキョーコの嬉しい返事が聞けるとはたやすく思っていなかった。しかし固まる表情には、蓮も落胆の溜息を漏らさずにはいられなかった。


「これからの俺の仕事は、君の言った通り忙しさを増す。差し出した手を取って欲しくても一緒にいられる時間はすれ違うかもしれない。それでも君と、共にいられる時間を作りたいんだ。今直ぐに返事は難しいなら、考えてくれないか?」


 キョーコはフルフルと首を振って蓮の言葉を否定しようとした。


「だめ…ダメです! 私と敦賀さんなんて……無理です!」
「どうして? 君は俺を嫌い? 違うよね?」
「ち、違わないけど、ダメなんです!!」


 もう世界の違う人と、また離れてしまうかもしれない人と、追いかけないって決めたのに!!


「理由を…教えて…?」


「住む世界が、違います!」


 それが今夜が最後の夜の訳なのに……。


「そんな事は誰が決めたの!?」


 蓮がキョーコにぐっと近付きテーブルの手を取った。
 キョーコがビクッと手を引こうとしたが、蓮は手を離してくれない。


「決めなくても、もう決まってます! 敦賀さんは、世界の俳優になるんですよ!? 私なんか…私が傍に立っていい人じゃないです!」
「それは、俺が決めてもいい事じゃないか? 俺のパートナーになる人を、好きな人を決めるのは、俺自身だよ?」


 蓮は強い意志と優しい笑みでキョーコを、心を捕まえて離さなかった。


「わたし…私で、私でいいんですか?」
「今夜を君との最後の夜にする気はないよ。最後にするなら、先輩と後輩の関係だけだ……」


 蓮の言葉にキョーコの頬を涙が伝った。


「信じても…信じても良いの? 敦賀さんの言葉を?」
「信じてくれないか? 俺の…初めての恋が君で、君の心が俺にあるって信じさせて欲しい…。ダメかな?」
「私の…心は、つる…がさ…」


 キョーコの言葉が言い終わらないうちに蓮の唇がキョーコの唇を塞いだ。
 唇を甘く塞いで、閉じられたキョーコの瞼からは嬉し涙がいく筋も伝い落ちた。
 そしてーーーー…心も蓮に落ちていった。


「君とやっと始められるね。出来たら、恋人として初めて……君をくれない?」
「……恋人として?」


 キョーコには自分の思っていた事とは違う展開ばかりに、目を開いて驚くばかりで言葉が頭の中で理解しきれないでいた。


「やっぱりいきなりは無理? ハリウッドに行ってしまうから、君を浚いたかったけど」
「い…イヤじゃない…です」
「ほんとに?」
「でも……」
「でも?」
「私みたいな、出るとこも出てない、地味だし、は…初めてだし……」
「俺は君だから欲しいんだ。君だけ……」


 キョーコは俯いていた顔が頷くと、蓮をそっと見た。


「俺のものになって、キョーコ…」
「貴方の、貴方の…」


 キョーコは真っ赤になって俯いて言葉にできない。それでも蓮にはキョーコの思いが伝わってきた。


 蓮はキョーコを抱き上げて寝室へと向かった。
 キョーコが最後の夜と決めた夜は、二人には初めての夜になった。


     【FIN】




……っと、こんなんでいいですか?sei 様(^^;;;
途中で保留にしては進んでみたら、
最後の処で、頂いたタイトルが「おおやったね!」
と自画自賛(苦笑)
途中からは何処までが頂いたセリフだったか分からなくなって、
我が道を行きました(えっへん?)
私が書くと、甘々街道しかないみたいです!!
そんなわけで、返品不可ですので…(^^;;;;
 

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