本日は七夕ですね…と書き始めたのが昨日だったのでまた遅し(TT)。
で、一応終わらせたはずのプチシリーズ+のショートを書きたくなってしまったのです(^^;;
本当はそれどころじゃないんですけどね。
(イベントー!プラス妄想もこもこ)

七夕の夜に…
星のかけらを探しに行こう…番外編?


「明日は七夕ね」
「また君に出会えた事を喜んだ日だ」
「それと今年はまた楽しみが増えるかもしれない日でしょ?」
 キョーコは細い身体に大きく膨らんだお腹に手をやって微笑んだ。
 去年のバレンタインデーに、末娘の綾がお願いした事が現実になった。
 子供を三人も授かってもいつまでも仲むづまじい二人に、もう一人の子供を授けてくれた。
「綾のお願いを織り姫と彦星が叶えてくれるとは思わなかったわ」
「二人も沢山の子供が欲しかったんじゃない? でも会えるのは年に一度だから、空から見守る子供達が子供なんだろうね」
「そうね……」
 二人は勿論の事、三人の子供達や二人を見守る人達も待ち望んだ新しい命……。

 そして翌朝、出掛ける間際にも蓮は言葉をかけた。
「キョーコ。予定日通りとは限らないけれど、無理はしないようにね。ここ数日は社さんも仕事の予定は緩く組んでくれているからね。ちゃんと連絡はしてくれよ?」
「はいはい。パパは心配性ね、赤ちゃん」
 お腹をさすりながら多忙な蓮を見送ると、キョーコはリビングで食後の一休みをした。
 流石に出産を控えて胃が押し上がり、食欲が落ちたキョーコは少な目の食事と重い身体に休憩が多くなっていた。
 つわりは当たり前の事と苦しいながらも乗り越えたが、元々の体型が細いキョーコには十キロの子供を含めた重みは辛かった。
「4回目とは言っても、慣れるものじゃないわね」

「ママ、お腹の中の妹って大きいの?」
 無邪気な末娘は妹が欲しいと言っていたが、ママのお腹の大きさに驚きながら訊いてきた事があった。末っ子である為、華奢なママのお腹が想像以上に大きくなって、その姿が大変そうなのが子供心にも分かったのだろう。
「普通ぐらいよ。あなたが生まれる時も、同じぐらいだったから」
「……でも、ママのお腹凄く大きい…」
「それは赤ちゃんを守る為のお水も入っているからなの。お兄ちゃん達も同じようにママのお腹で育ってから生まれたの」
「……じゃあ、赤ちゃんは元気?」
「元気だから、時々ポコポコお腹を蹴ってる。あ、また動いた」
「ホントだ!」
「綾お姉ちゃんに早く会いたいって動いたのかも…」
 嬉しそうな笑顔になって綾は納得したようだった。

「しかし、アンタんとこの旦那は…キョーコの身体の事とか考えてるの? 子供四人は少子化には貢献してるでしょうけど、母親のアンタには負担が増えるじゃない!」
 予定日とオフが重なったからと、親友のモー子さんこと社奏江、旧姓琴南奏江はキョーコの様子を見つつ遊びに来た。
 しかしその途端にキョーコの身体に宿る重みが、華奢な身体には負担にも見えた。それに加えて女優としてのキョーコの才能を開花させる時間を、少なくしている気がして文句の一つもぶつけたいが、当の本人は人気実力共に忙しくて不在な為、相手が違うと思いながらもキョーコに愚痴を零した。
「大丈夫。気遣ってくれてるから…。それこそ社婦人はそろそろどうなの?」
「や、社婦人って……。こちらは倖人さんが多忙なアンタの旦那に付いてるから忙しいの。それに、……そういう言い方は恥ずかしいから止めて頂戴!」
 入籍のみで身内でのパーティーしかしなかった奏江は、結婚したと言っても新婚である事と結婚の事を指摘されるのが気恥ずかしいらしい。
「私はまだ女優として頑張りたいから、もう少し先…」
「じゃあ、おめでたになったら今度は私が先輩ね!」
「……その時は、……そうね……」
 嬉しそうな母の笑みは、まだ奏江には眩しい事しか分からない。授かった喜びは、また人それぞれでもある。
 奏江はキョーコから視線を逸らしつつ頬を染めていた。
 親友の新婚生活も順調な様子に、キョーコは笑みを浮かべていたが、覚えのある痛みにお腹を押さえた。
「キョーコ?」
「……うん。陣痛…みたい……イタッ…。この子は予定日通りの優等生……かな?」
「あ、えと、どうしたらいい?」
 いつもなら落ち着きのある奏江にしては少し慌てた。
「大丈夫。陣痛の間隔がもう少し短くなったらタクシーで行くから、その壁際に置いてあるバッグだけ持って来てもらえる?」
「このバッグ?」
 旅行用の中ぐらいのバッグをキョーコは持って来てくれるように頼んだ。
「入院に必要な物が用意してあるの。陣痛が起こってからだと難しいから、少し前から用意しておく…つぅ……」
 これまでのキョーコの出産には立ち会う事がなかった奏江には、我慢強いキョーコの痛がる姿に母としての強さを感じた。
「他に出来る事、ある?」
「お水を少し……持って来てくれない? 喉が渇くから…」
「わかったわ」
 キョーコの落ち着いた様子に、奏江も慌ててはいけないとキョーコの力になろうとした。
 痛みが少し去ると奏江の持って来てくれた水を口にした。
 この痛みは生まれてくるよ、という合図。
 キョーコは奏江に頼んでタクシーを呼んでもらった。
 さあ頑張って出ておいで……。
 沢山の人があなたが産まれてくる事を待っているから。

「キョーコ! 子供は? 女の子? 無事?」
 夫である蓮は部屋に入るなり、人目も何もなく妻と産まれてきた娘を抱きしめて大声で叫びそうだった。
 蓮は予定外に仕事が長引いたことで、やっと終わった仕事と同時に娘の産まれた事を知らされた。その後は愛妻家でも知られる蓮は、周りが見えない勢いで一目散に病院へと車を走らせて病室に飛び込んだ。
 キョーコの病室にいた看護師は蓮の存在は知っていたものの、TVで見る蓮とは違う形相に驚いた。結婚してもなお「抱かれたい男」として人気の俳優、綺麗と言えるほどに格好いい男が普段は見せない必死の形相で飛び込んできたのだ。
「敦賀さん。安産だったって知らせたでしょう!? そんな必死の顔して、看護師さんだって驚いてるわよ!」
「俺は家族の前でまで役者をやるつもりはないからいいんだ!」
 奏江の言葉はかろうじて耳に入るが、半分はキョーコと子供の事で素通りに近かった。
 蓮の素顔に驚いていた看護師も、芸能界のトップスターの家族を思う気持ちは驚きから安心に変わった。
「キョーコさんはとても安産でしたので、敦賀さんもご安心ください」
 笑顔でそう言って部屋を後にする看護師も、蓮がどれだけ愛妻家で、子供達を愛しているのか微笑ましく感じた。
「……今の看護師さん、敦賀蓮のイメージ変わったでしょうね…」
 奏江が一人小さく呟いた。
「キョーコ、疲れているなら寝ていいからね。この子……綾に似ているね…」
「女の子ですからね。私よりも蓮の方が疲れてない? 今日の仕事は押したんでしょう?」
「ちょっと相性の悪い相手だったみたいでね。でも、今日のうちに間に合った…。産まれてきてくれて、ありがとう」
 蓮がスヤスヤと眠る小さな指に触れ、額にそっとキスをした。
「寝てるから起こさないでよ?」
「わかってる。キョーコも疲れてるだろ? これからまた大変だから、眠れる時に寝て…」
 産まれたばかりの赤ん坊を挟んでとはいえ、甘々ムードに奏江はここに居る事がばからしくなった。
「じゃあ旦那も来たことだし帰るわ。ずっといちゃついてなさい!」
「モー子さん。ありがとうね!」
 キョーコの声に手を振って、言い損ねていた「無事出産できて、おめでとう」と言って帰って行った。


「本当にお疲れさま、キョーコ」
「無事に産まれてきてくれて良かった。それに陣痛が来た時に、モー子さんが居てくれたから心強かったわ」
「いいタイミングで産まれてきてくれたんだね。この子は…」
「お乳を飲んだら直ぐに笑って、産湯に浸かったら気持ちよかったみたいで、少ししたら寝てくれたの…。お母さん思いのいい子かもしれないわ」
「予定日だったし、素直な子になるかな?」
 キョーコはクスクスと笑いながら幸せをかみしめた。
 優しい夫に子供も四人目が恵まれた。
 自分の子供の頃を思うと考えられない幸せな家庭という幸せの場所。
「キョーコはこの子の名前は考えてた? それぞれに考えてみることにして、相談しなかったけど……」
「四人目で、女の子は二人目で、七月だから夏らしい名前にしてあげたいと思って考えていたんだけど……」
 キョーコは決めかねていた幾つかの名前が頭の中で回っていた。
「俺の…一つの候補なんだけど、『七瀬』って名前はどうかな?」
「『七瀬』?」
「七月の瀬と書いて『七瀬』」
「何か意味があるの?」
「キョーコなら知ってると思うけど、『瀬を早み 岩にせかるる滝川の…』」
「『われても末に 逢わんとぞ思ふ』? 百人一首よね。『瀬』の意味は…」
 蓮の言葉に続けてみたものの、名前に使いたい理由が分からなかった。
「浅瀬とか幾つかあるけど、夏の川瀬で過ごした子供の時の俺達が再び出会って幸せになった様に、この子も幸せな出会いがあってくれますようにって願いを込めて……」
 蓮が名前に込めた願いをキョーコに伝えると、キョーコは笑顔で頷いた。
「私達みたいに、もし離れる事があっても再び出会えるほどの絆で幸せになれますように……」
「織り姫と彦星も、雲で見えなくてもそっと逢って、二人の出会いと幸せを感じているなら、この子の幸せも叶えてくれるんじゃないかな?」
 七夕は願い事を短冊に書いて叶えられる事を祈るけれど、ただ祈るだけでは夢で終わってしまう儚さ……。
 ともに叶える夢の為に努力したからこその二人の再会。遠く離れても引き合った二人の場所は、出会う事こそが二人をいつか引き寄せる為の初めのステップだったとしたら?
「七瀬もこれから、幸せになりますように…。私達家族の一人として。そして七瀬のこれからがずっと幸せでありますように……」
「キョーコが幸せで、俺も幸せで、子供達も幸せなら、七瀬だって幸せになるよ」
 蓮はキョーコを抱きしめて、産まれたばかりの愛しい子供の幸せを願った。


 俺達が出会ったように、ずっと幸せでいて欲しい。
 梅雨の晴れ間に少しだけ見える天の川に向かって、蓮もキョーコも少しだけ静かな時間のささやかな幸せに微笑んだ。
 蓮ヘの連絡が入ったとすれば、あの愛を語る伝導士が、夜の病院だからと構わずに祝いの舞を見せに現れないとは言い切れなかったからだ。流石に騒がしいのは控えたようだが、花束や籠盛りの果物、ベビー服で病室を埋め尽くしたのは翌日の事だった。

    【Fin】

 お、終わっていいですか?(^^;;;;
 また1日遅れになっちゃいました!(逃走…)
バレンタイン(?)もので書いた「リトルプリンセス」の続きでもあるような、
めっちゃベターな、でもこんな素敵な未来なら?…という話です。
(何処がスキビ?という突っ込みは、どんどん頂きます(^^;;)

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