ディスプレーデザイナー 22
蓮は溜息まで吐いて、入社して以来の大きなイベントに驚きを隠せず、そしてその度に枝垂れかかる女性達に辟易する事となっていったパーティーには少しばかりうんざりしていた。
社長が唱える人を愛する事を広める気持ちの意図することは分かる。人を愛する気持ちは、全てのものへの愛情と重なり、デパートとして人との対面を仕事とするのならばこそ、顧客に対しての愛情も深くなる。そして勧める商品への愛情ともなって、デパート全体に愛という最高の気持ちの詰まった場となることも大切だと思っているのだ。
「……なんか、想像よりも規模が大きい事だけはわかった気が……します」
キョーコは蓮の溜息に規模を察して、蓮は苦笑いを浮かべたまま、社長に関しての事はそこまでにした。
「でも、クリスマスがキョーコさんの誕生日って聞いたけど、ホント?」
「……ええ、12月25日です……」
蓮の言葉にキョーコの顔が僅かに曇り、蓮は違和感を覚えた。
「それなのに仕事もあるし、誕生日なのに夜通しの仕事は寂しくない?」
キョーコの表情の変化が気になったが、蓮は心配そうに優しい目で尋ねた。
「いえ。元々母子家庭で母も忙しい人でしたから、こう言ったクリスマスとか、そんな行事に仕事ぐらいでしか接したことが少ないので……」
子供の頃から世話になっていた家でのささやかなクリスマスイブのパーティーが、自分の誕生日だと……そう言い聞かせていたのは、子供心にも強がりもあったのだといえた。
だが年を重ねれば、クリスマスという皆が祝うお祭りに隠れて、心の中で祝っていた。
……お誕生日、おめでとう。メリークリスマス……。
「……それは残念だね。クリスマスなどの行事は、日本人は楽しい行事を取り入れる事が好きで広まったものだけど、でも誕生日だけは別だ」
「別……ですか?」
蓮の言葉にキョーコは引き付けられるように反応した。
「だって君だけの……最上キョーコが生まれた事をお祝いする日だよ? 他にもクリスマス生まれの人もいる。でも君だけの誕生日で、君が生まれてきて出会えた人が君と出会えた事、一緒に仕事をしたり友達になれたりした事を、喜ぶ日でもあると思う」
「……私だけの……出会いとかも……?」
「そう、少なくとも俺は君との出会いを、とても素敵な出会いだと思っている一人だよ」
蓮の優しい言葉に、気付けばキョーコの頬を一滴の涙が零れていた。
「……キョーコさん…?」
蓮は驚いて、そっとその頬の涙を拭った。
「言葉よりも語ってるね。寂しかったんだね……」
蓮の話し方が余りにも優しくて、キョーコは頬に触れる指を止める事が出来なかった。
……どうして……どうして分かるの?
私…私……寂しかったの……。でも誰も、気付いてくれなかった。
そんな寂しさに、出会って間もない貴方がどうして気付いてくれるの?
どうして分かってくれるの…?
どうして……?
涙を零しながら蓮を見上げるキョーコは、蓮の優しい笑みに気持ちが甘えていくのを感じた。
出会って間もない人なのに、そっと寄り添ってくれるような優しさを感じる……。
とても優しい人……。そして暖かくて、大きな心を持っている人……。
「……えっと……、俺が泣かせたのかな…?」
「ふふ……泣かされました……」
泣かされたと言いながら、キョーコは泣き笑いの笑みを浮かべていた。
その笑みに蓮は少しだけほっとすると同時に、キョーコの心には孤独が大きく占めているのだと知った。
俺ではその孤独を癒せないかな…?
少しずつでいい……。君の笑顔がいつでも明るく輝けるように、寂しさを癒してあげたい。
キョーコは蓮に対して大きな尊敬の気持ちを育て、蓮はキョーコへの慈しむ思いが溢れるほどに大きくなってきていた。
「すみません…。泣いたりなんかして……」
キョーコが恥ずかしそうに口にした。
「構わないよ。それよりも君の気持ちを知ることが出来て、君を泣かしてしまったけれど少しは近付けたのが嬉しい気がする……」
不謹慎な言い方かと思いながら、蓮は素直に口にした。
「……えっ……」
「ああ、俺の言った事は気にしないで。君は頑張り屋さんだから、本当の気持ちを見せたりしない。でも心を隠したりしないで、俺には本当の気持ちを見せて欲しいだけだよ」
《つづく》