10 Years Ater

 

 七夕だというのに窓の外はあいにくの雨。
 広いリビングの窓際には、笹の葉に願い事が拙い文字で書かれた短冊が幾つもつるされていた。
「やっぱり今日は無理ね……」
 キョーコはソファーで待ち疲れて眠ってしまった我が子達の髪を撫でながら、外の雨が上がることを待っていた。
 天気予報では明日の朝まで降ると言っていた通り、今夜中に上がりそうもない。
 キョーコはそっと起こさないように抱き上げると、一人ずつベッドへと運んでいった。
「陸。修。綾。おやすみなさい」
 お風呂にも入り、パジャマに着替えていた三人の愛する子供達に、キョーコはお休みのキスをすると静かにドアを閉めた。
 キョーコはリビングに戻ってくると、外を見て呟いた。
「喜びの涙なら、雲の下の願い事も見に来てくださいね」
 そう言って空を見上げていると、当家の主人が静かに帰宅した。
「ただいま、キョーコ」
「お帰りなさい、蓮」
 軽く交わすキスの後は、蓮は我が子達のベッドへと足を運んだ。
 人気俳優が故になかなか相手をして上げられないが、キョーコとの愛の結晶。それぞれに似た部分を持っていて愛おしい存在だ。
「元気だったみたいだね。みんなグッスリだ…」
「今日は七夕だから、晴れて欲しくて途中から泣き出しちゃったわ」
 我が子の一生懸命さに、キョーコは愛おしくてクスクスと笑った。
「日本では雨になると、彦星と織り姫が会えないって、子供の頃は信じるよね」
 蓮はロマンチックな伝説とともに、キョーコも好きそうな話だと思っている。多分、キョーコも子供の頃は、空を見上げて願いをかけていたのだろう。
「でも昨日ね、「七夕の雨は織り姫様が、彦星に出会えた時の嬉し涙なんですよ」っていう話を聞いたの。その話をしたら、この子達泣き止んだの」
 子供達の素直な反応に、キョーコは嬉しそうに微笑んだ。
「へー、嬉し涙の雨なんだ」
「そう思うと、晴れても雨でも二人は逢瀬を楽しんでいるってことよね。素敵だと思わない?」
 キョーコの笑顔に蓮も嬉しそうに微笑んだ。
「では、俺達も逢瀬を楽しみませんか? 奥さん」
 意味深な笑みで言う蓮に、キョーコは気づかぬ振りで答えた。
「いつも会ってますけれど?」
「大人の逢瀬は少ないよ?」
 ゆっくりと近づきながら深く口付けた。
「……子供達はよく寝てるから、旦那様のご希望のように……」
 唇が離れると、キョーコはその胸に顔を埋めてそう言った。
「子供達にばかり独占されているからね……。偶には俺が独占してもいいだろう?」
「そうでしたね。独占欲の強い敦賀蓮様」
 キョーコが呆れた口調で言った。
「そうさせているのは君だけだよ……」
 空の上で、天の川で逢瀬を重ねるものもいれば、夜の帳を貴重な二人の愛し合う時間となる二人もいた。
「俺にとってはあの子供の頃に離れてしまったけど、再び巡り会えて、今こうやって共に居られる運命の女性だからね」


              《Fin》


2人がチャペルで式を上げてから十年ぐらいの頃のイメージで…。

昨日の夕方から書き始めたモノで、睡魔に負けて一日遅れのアップになってしまいました。

でも一応七夕の小話です。


七夕の雨が嬉し泣きの雨ならば、願い事をして二人が出会えるのをお祝いするだけでいいのかも…。


web拍手 by FC2                   ペタしてね