温もりがあれば……


 ベッドの中で、キョーコが蓮を抱き締め呟いた。
「暖かい……」
「ん? どうしたの?」
 夜の闇の中ではあっても、微かな月明かりに浮かぶキョーコは優しいような切ないような……複雑な表情をしていた。
「寒かった?」
 優しく囁きながら、蓮はキョーコを強く抱き締めた。
「ちょっ! やり過ぎよ、蓮!」
 キョーコがそう言うのが分かっていて蓮がしたこと…。
 蓮はキョーコの元気がない表情が切なくて、ワザとふざけた行動をしたのだ。
 そして、キョーコの抗議を受けて、そっとその腕を緩めた。
「もう、ワザとでしょう!?」
「さぁ……どうだろう?」
 穏やかな笑みの蓮に、キョーコは深く息を吐いた。
「でも、こんな温もりがあれば、寂しさも何処かに行ってしまう気がするなぁ……」
 キョーコは小さく呟いた。
「……俺とシテル時よりも?」
 小悪魔な笑みで耳元で囁く蓮に、キョーコは真っ赤になった。
「バ、バカ!!! もう知らない! 蓮なんて!」
 蓮に背を向けてしまうキョーコだが、その後ろから蓮はそっと抱き締めた。
「でも……温もりがあれば……、誰かの優しさがあれば、人は生きていける、強くなれる……よね……」
「人は誰かと暖め合えれば……強くなる……」
 寂しさと暖かさを感じた……一夜のこと……。


           《 Fin 》


この話は、研修で家を出る直前に見たTVがきっかけでした。
家族の行方を想い涙する人達。
そして、その直後の画像には、
屋根の上で二日間をたった一人で過ごしながら頑張っていた年輩の男性。
多分、この映像を編集された方は、
「この男性の様に、家族の方も頑張って待ってますよ」と言いたかったのではと思います。
家族の温もり、家族への思いが、
一人でも多くの方が助かって欲しいと思いました。
後、屋根の上頑張っていた年輩の方を見て思い出したのは、
ある映画(デイ・アフター・トゥモロー)で、
突然、氷河期になってしまった中を生き残っていた人達のラストです。


「頑張っている人に、それ以上頑張れとは言えない」
この言葉は、前にさだまさしさんの言っていた言葉です。
頑張り過ぎないでいいから、
まず前向きに生きる事だけを考えて欲しいと思いました。
 そして、一人でも多くの人が救出されますように……。


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