テクノファンなら誰でも一度は聞いたことがあるであろう、世界最大規模の

ダンスフェスティバル「LOVE PARADE」。


以下にざっとその歴史を記します。


本来は政治的デモ行動として、ジャーマンテクノの重鎮であるDr.Motteが

ドイツのベルリンにて1989年から開催をスタートさせたこのイベントは、

一般的な野外イベントのスタイルとは異なり、フロートと呼ばれるサウンド

システムを搭載したトレーラーがベルリン市内を移動、参加者は踊り

ながらそれについて行き、ひたすら練り歩く。最終的には戦勝記念塔下に

フロートと共に参加者が集められ(ファイナルギャザリング)、やぐらの上

に設けられたDJブースからのテクノミュージックでひたすら踊るという、

まさに街を上げた一大ダンスフェスティバルなのである。


当初は政治的デモ行動という目的から行政当局にも開催を認められて

いたものの、毎年参加者が増え続け、ピーク時の1999年には世界中の

ダンスファンが150万人以上集結したことから、もはや本来の目的を

反れた商業的・観光的イベントとみなされ、更にゴミ問題も深刻化したこと

から政府当局の資金協力を得られなくなり、開催から15年目となる

2004年、とうとう中止を余儀なくされてしまった。

そこで会場をベルリンからサンフランシスコに移し、2004年、2005年の

2年間をしのいだのだが、2006年、再びベルリンでの開催が決定した。


ここまでの流れだけを見ると、円満な解決に至ったように感じるだろうが

その実、主催者サイドでは円満とは程遠い問題を抱えているようなの

である。


資金不足を理由に中止に追い込まれた2004年、日本でもなじみのある

韓国系企業サムスンが「『LOVEPARADE SAMSUNG』を公称にする」

という条件で全面的な資金提供を買って出たのだが、Dr.Motteは

「LOVEPARADEは誰のものでもない」と断固として受け入れなかった。

それから2年経った今年、フィットネス会社のMcFitをスポンサーに

迎えて本拠地であるベルリンでの開催となったものの運営側とDr.Motte

のイベントに対する方針が噛み合わず、真っ向から対立していると

いうのだ。


当初150人ほどの集客しかなかったこのイベントは、回を重ねるごとに

参加者が増え、世界最大とまでいわれるほど大規模なものへと成長した。

この事を客観視すれば商業的なものだと取られるのも仕方がない。

しかしDr.Motteの「エレクトロ・ダンスミュージックが文化的な進化を遂げて

いくのを表現したかった」という言葉の通り、音楽文化の成長支援の一環

という信念を持ってこれまで続けてきた。しかし現在の運営元が提案した

今年のラヴパレードは投票によって支持を集めた40のフロートがパレード

に参加できるといった人気投票やテクノ以外のジャンルの介入、さらに

テーマ別に分けられたステージが設置されるなど、いかにも商業目的

としか思えない方向に向かっているという。


一度だけ、私もラヴパレードに参加したことがある。1998年だ。

パレードの前日に現地入りしたが、街はもうラヴパレード一色といった

様子だった。街中に広告が貼られフリーペーパーも数多く出回っていた。

CDショップやレコードショップも特設コーナーを作っていたし、タクシー

のラジオからはテクノが爆音で流れていた。

当日の朝だってそう。ホテルで出かける準備をしながらテレビをつけると、

フロートが通る「6月17日通り」からニュースキャスターが現地レポートを

していた。ド派手なコスチュームのダンサーも、あらゆる人種の人々も、

その場にいた人たちは最高に楽しそうだった。ファイナルギャザリングで

私の目の前にいたのなんてよぼよぼの老夫婦だった。


とてもピースな空間だった。


個人的には、商業的な興行が悪いとは決して思わない。

むしろどんどんやってくれという感じである。

遊ぶ場所があれば正直なんだってかまわない。

しかし、本来意志を持ってスタートしたものに資金をネタに介入して

主旨を捻じ曲げてしまうのはどうなんだろうか。

今年のラヴパレードにDr.Motteは参加しないと公言している。


テクノファンにとっても、またダンスファンにとってもその存在意義は

大きいイベント「LOVE PARADE」。開催されるのは嬉しいがもう少し

大切に扱ってもらいたいところだ。