草薙香の小説アーカイブ・あゆみと香 1 | 緋鷹由理 

緋鷹由理 

たぬこと熊太の徒然日記を主に掲載しています。

ベイン・ドリーム 夏休みの計画 NO1(1ページ)


 (平成18年7月20日 金曜日)

~終業式当日・生活科~ 1

夏の日差しが教室内を照らし、蒸し暑い状態になっていました。僕は机にうつ伏せになりながら、大量の汗をかいています。

すると、一人の少女が話しかけてきました。

かおり……香!

ん? ああ、何?

頭を上げ、周囲を見渡すと女子生徒ばかりです。それも当然ながら、僕は女子クラスの生徒になりつつ、すでに何事もなかったかのように一年と半年も放って置かれていました。

教卓を眺めると、先生が僕の通知表を持ってにらみつけてきます。

く・さ・な・ぎぃ~! さっさと来い!

は、はい!

僕は慌てて教卓へ向かいます。クラス中から響く笑い声を背に受けながら、先生から通知表を受け取って頭を下げました。そして、女子生徒たちは全員が口元を抑えます。

次! 西藤あゆみ!

は~い!

次の女子が呼ばれました。僕は再び通知表を持って机に戻り伏せます。すると、

きゃあ!

不意に女の子の悲鳴が聞こえ、僕は頭を上げます。その声は今しがた名前を呼ばれた『ボクっ子』の西藤あゆみでした。

そして、彼女は無意味に僕の机に走りこみ、バンッ、と自分の通知表を僕に見せ付けます。

ちょっと! 香君! 見て、これ!

ん……何?

僕はかすんだ視覚を取り戻しました。そして、彼女の成績が丸裸となって僕の視界に入ります。

そこには教科別に全く同じ数字が並び、全て『』で表現されていました。その意味が指すところ、彼女の学力が知れてしまいます。

それで……何?

僕が再び彼女に問いただすと、あゆみは無意味に横に一回転し、僕の視線の先にある『』のオンパレードを指でなぞりました。

これだよ! これ!

ああ、いや……だから何?

出来るだけ、彼女の成績についてのコメントを控えておきます。

しかし、少女は自分から暴露し始めました。

馬鹿ぁ! 『2』だよ! 『2』!

見たら分かるよ! 『2』がどうかしたの!?

僕は半ば怒鳴りつつツッコミを入れます。あゆみは大きめの胸を張って背筋を伸ばしました。

だって……だって全部『2』だよ! すごくない!?

(別にすごくないけど!?) な、なんて反応すればいいの!? 教えてくれ!

思わず、本心で訊ねてみます。すると、彼女は説明を始めました。

『2』って言ったら足しても『4』! かけても『4』! だからすごいでしょ!

(言っている意味がさっぱり分からない!) ど、どうでもいいよ。そんなこと……

もはや、付き合いきれずに投げやりになります。

ベイン・ドリーム 夏休みの計画 NO2(2ページ)


~終業式当日・生活科~ 2

しかし、あゆみは更に食いついてきました。

何でボクの感動が伝わらないの!? 香君はあのお話を読んだことがないの!? あの、長靴を履いていた……そう! 『にゃんこクラブ!』

(にゃんこクラブ!? 誰も感動しなさそう!) あ、あの……それって長靴をはいた……

うわあああぁぁぁぁん!

少女はその場に泣き崩れ、僕はわけも分からないまま周囲の女子生徒から非難されます。

うわぁ……また泣かしているわよ。(女子A)

(ひど)いですね。香って…… (女子B)

堂々と胸触ってきますし。 (破魔)

それに男だし。 (女子A)

待った! どさくさに紛れて胸触ってくるって言ったのは誰!? 僕は何もしていない! (僕)

少しだけ孤立しつつ、目の前の難解少女を慰めないことには説得力がありません。僕はあゆみに声をかけてあげました。

あ、あの……ごめん

すると、あゆみは頭を上げて、潤んだ瞳を僕に向けてきます。

ぅ……うん。もう、ボクを突き放さないでね

えっと……努力するよ。 (くっ……やっぱり意味が分からん!)

そして、僕は彼女の手を引き、立ち上がらせました。同時に、

パチ、パチパチパチパチパチ

(何で拍手!?)

無意味に暖かい拍手が巻き起こり、僕は呆然としています。すると、眼鏡学級委員長の破魔が、僕の隣に立ちました。

おめでとうございます。今回の賞品は我が宮司家の宿泊券二枚になります。お二人で楽しい旅行をお楽しみください

(よく分からない展開に!?)

僕が戸惑っていると、あゆみは券を受け取って喜びます。

わ~い。香君。『お勉強会券』だって、やったね!

(僕だけ話についていけない! だ、誰か教えてくれ!) あ、うん。一人で行ってくればいいよ

そんなにはしゃがなくても……一緒に行こうね!

僕もついていくの!? 嫌だよ!

香君……またボクを―――

爽やかに送ってあげるよ! 無人島にでもどこにでも行って来ればいいでしょ!

僕の叫び声が響きます。そして、そのときの騒動はしばらくして鎮圧されました。これが今回の一連の騒動の引き金になるとは、夢にも思わなかったのです。

西藤あゆみ 『ボクっ子』の同級生

登場人物

草薙 香   主人公

破魔     眼鏡の学級委員長


**:;;;:**:;;;: **:;;;:**:;;;:**:;;;:**:;;;: **:;;;:*



草薙香  学校生活案内書 へ戻るダウン

http://ameblo.jp/kusanagi-kaori