真珠会社をやめてのは、ちょうどセミたちが騒がしい盆の頃だった。
「さあ、これからどうしよう」
特に当てがあったわけでもない。これでまた振り出しに戻っただけだ。
大学中退を承認してもらう代わりに出ていく約束だったが、他に行く場所もなくぼくはとりあえず実家に帰っていた。
なんとなく気まずくもあったが、両親はぼくの“出戻り”を黙認してくれた。
「よしJJ、散歩に行くぞ」
愛犬の首輪になわをつけて出発した。
家の前に公園があった。その向こう側に丘陵地帯が広がっていた。横尾山ほど面白くなかったが、犬を走り回らせるにはちょうどよかった。
ヒグラシが澄んだ声で鳴き、一日の終わりを告げていた。
忠犬ワン公JJ(神戸市学園都市 1996年)