やさしくキスをして 2 | 愛こそすべて LOVE IS ALL

やさしくキスをして 2

おっさん



 父親がパキスタンから移民としてイギリスに来て、グラスゴーで暮らす一家。その長男カシムがロシーンと恋に落ちる。さすがにラブ・ストリーをチラシが強調しているだけあって官能シーンは結構あります。ちょっとケンにしては珍しいです。ロマンスがうまく行き、これからという時、カシムが重大な話をし始める、それは親が決めた娘との結婚が2ヶ月半後にあるという告白。

 イギリス人のケン・ローチが、パキスタン人とイギリス人とのロマンスを描く時、果たしてどちらからの視点から、描いていくだろうか?この映画は決して抑圧する側から描かれてはいないし、まして抑圧される側からも描かれていない、うまくバランスを保ってる。そんな映画は、珍しいのではないか。イギリス人からの白人至上主義的な偏った視点を感じない。映画という分野においても、先進国と後進国では差がある。アメリカの映画が世界中で上映されるように文化的にも、人々の考え方的にも、先進国の侵略は起きている。それを支えるのはやはり経済という事になるだろう。

 二人のロマンスは、カシムの家族やロシーンの教師としてのキャリアまでに悪影響を及ぼしていく。カシムの両親は、封建的で前時代的でイスラム的な考えを貫こうとします。ラシーンの方は両親もいなく、その寂しさから若くして結婚したのだが、結局その結婚もうまくいかず、孤独で家族の絆みたいな物に憧れを持っている。そんな風に家族へのあこがれを持つ女性で、家族が欲しくて早くに結婚した女性が、きっと願うのは素敵な恋人を見つけて自分の家族を作りたいということ。ロシーンは現代のイギリス女性らしく、自分のしたいように行動し、その為には皮膚の色だって気にしないし、世間体だとか女性だとか気にせずラディカルに行動する。彼女の考え方や行動は日本人の女性が憧れるような生き方なのではないだろうか。

 それに対してカシムやその家族は、絆や世間体をとても重んじる。彼の父親は、インドからの独立も経験している。インドがイギリスから独立する際、イスラム教徒はヒンズー教徒から迫害されたのでパキスタンに逃れそのまま国を作った。そんな宗教の違いで起こった悲劇を経験しながらも、異教徒を受け入れず、自分の息子に対してイスラムのやり方を押し付ける。カシムの妹にも行きたい大学が遠いからという理由だけで、入学を認めようとしない。
 
 先に書いたようにケンはこの映画ではなるべく中間の視点から描こうとしている。そうして描かれた作品を見ると、どっちが悪いなんて決して言えない。というかどっちも正しいもの、間違った事はしていないし、ただ誰もが幸せになりたいと思って行動しているだけだ。カシム一家のやり方は前時代的だと思われるかもしれないが、それも家族の事を思ってだ、グラスゴーとはいえ、パキスタン人のコミュニティはしっかり出来上がっていて、彼らはパキスタンのコミュニティも気にしなければいけない。そうしない事には生きていけない。若い人達はいいかもしれないけど・・・。これはもう誰が悪いとか、そんなレベルの話ではすでになくて、決定的に違うものだとして描かれている。民族や宗教や時代で、暮らしかたや考え方は変わるけど、どちらがいいか悪いかなんて言えないでしょう。みんなそれぞれのやり方なんだって。

 同じ街で違う民族、違う宗教、違う考えの二人が出会って恋に落ちる。二人の間には厳然と存在する溝がある、これはもう埋めようがなく、勝手に埋まる事もない。この溝に翻弄されてしまう二人、途中で本当に解決できない問題ばかりでてきて、人間はどうしたって他人を理解できる生き物ではない、お互いが大切に想っているにもかかわらず・・・なので絶望的な気分に陥いってしまいました。映画は最後に向かいどんどん悪い方に話は進んで行きます。映画のラストあたり、ちょっと嫌な雰囲気を感じました。なんかこれからとてつもなく良くない事が、画面でおきそうな予感を感じました。でもそれは違ってました。この二人と二人を取り巻く周りの問題はまったく解決することなく、終わるし、さらに悪化しそうな含みを持たせている。でも良かったのは二人が最後まで分かれるという選択をしなかったという事。問題を超えるとか理解してやるとか、過剰な意気込みも感じさせず、自然と二人が一緒にいる、ゆるやかな意思みたいなもの。そいつが良かった。解決してないけどそのまま持って行こうなんておおらかさを感じます。

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