相変わらずの深夜更新すみません。


そして勘の良い皆様ならお気づきのはずですが
志田くんのモデルは何を隠そう、最強シムさんですw

海外帰りのエリートくんったら、あの人しかいないっすよね!



でもって今回のパク主任、アンニュイめんどくさいモード全開につき
萌え要素少なくてほんとすみませんw


もうちょっと頑張れって言っておきますw




では、第2話どうじょ。















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「へぇー!志田くん、自転車やるんだ!」
「向こうにいた時に運動不足解消にと思って始めたんですけど、ハマっちゃって」
「こういう、ハンドル曲がってるようなヤツ?」
「あ、そうですそうです。ロードバイクっていう」
「どれくらい距離走るの?」
「100キロくらいですかねー、練習だと。あ、でも僕はどっちかっていうと、ヒルクライムって言って山とか坂道登るのが好きなんですよ。だから距離っていうより傾斜度っていうかー」
「え、なにそれ!?ずっと立ち漕ぎで坂登り続けるの!?」
「ま、そうですね」
「志田くんってドSかと思ってたけど、意外にドMなんだね……(笑)」
「いや、ある意味ドSは当たってるかもしれないです。登ってる時は自分にドSですから(笑)」
「なるほど(笑)あたしも何か運動始めたいって思ってて、自転車アリだなー」
「店に見に行くとかなら、相談乗りますよ」
「え、ほんと?」

「じゃ、今日の打ち合わせはこれくらいに」
「そうですね、じゃあまた各々調整して、次回もうちょっと細かく詰めましょう」
「おつかれさまでしたー」


うちのチームのそばにある打合せ卓で、志田くんと、志田くんとこの主任と、システム管理チームの担当者と、あたしと4人で。システムの人が自転車やってるって話になって、志田くんもやるらしくて、最後ちょっとそんな話で盛り上がってしまった。


……しまった。何をこんなとこで、よりによって志田くんと。




パク主任、あたしが席に戻ってもピクリとも表情を動かさない。


「……で?」

「え、ハイ」
「打合せ、どうだったの」
「あ、滞りなくというか、企画自体はいけそうな感じですけどまだふわっとしてるので、もうちょっと詳細詰めてからってことになりまして」
「あ、そ」
「ハイ……」
「また、進捗教えて」

「……ハイ」


超絶事務的会話きたこれ……(泣)
なんでちょっと楽しそうに雑談なんかしたんだあたしのバカバカバカバカバカーっ!!!






あの夜から、かれこれ1週間。


主任とは話をしていない。
正確に言うと、さっきみたいな超絶事務的なのを除いては、今まで自然にしてたからかうみたいな雑談とかもない。


どんどんひらいていく距離。降り積もる、気まずさ。


どうしたらいいんだろ……。


そんな時に限って、うちの部内でおそらく一番空気が読めない男=早瀬が、3人で飲みに行こうとか言い出す。
3回に2回は断る主任が、今日に限っていいよとか言うから、あたしも断れなくてついてく。




いつもの居酒屋。


「俺、枝豆とホッケ」
「じゃあたし、刺し盛り」
「ハイハイわかってますよー。あとは僕がちゃーんとよしなに頼みますので。すいませーん!生3つ!」


今日はなぜか、四人掛けの席、向かいに早瀬が一人、あたしと主任が隣同士。




ジャケットを脱いで、少し緩めたネクタイ


テーブルに肘をつく

シャツのボタンを外しながら、また例の癖で気怠げに首をコキコキ鳴らす

あたしにごめんと合図して、煙草に火をつける

右側にあたしが座ると、自分の左肩に吹き付けるように煙を吐く


そのあと、煙草を持ったままの左手、薬指で額を触るのも、癖



別にどうってことない動作なのに
主任からは何か溢れているような
漏れ出しているような

あたしの眼を捉えて離さないその仕草も
もう憶えてしまっていて




「んで、相談って何」
「主任、それなんですよ。聞いてくださいよ先輩も」
「なに、かしこまって」
「実は最近、彼女が冷たくて……これって、マリッジブルーってやつなんですかね」


そうだ、早瀬は結婚するんだった。
式は6月、ジューンブライド。主任もあたしも招待されてて。
同期の女の子と、社内恋愛だったはず。


「まー、誰しもあるんじゃないの?俺は男だからわかんないけど」
「あたしも、独身だしあんまりいいアドバイスないよ」
「えーっ、もうちょっと親身に聞いてくださいよー」


「具体的に、何があったわけ?」

「式の準備ってあれ結構大変なんですよね、彼女だけに決めさせるのは悪いんで俺もいろいろ口出すようにしたり、あと新婚旅行の行き先とかもいろいろ調べて候補出したりしてたんですけど、あとやっぱり前よりこまめに連絡取るようにしたりとか、そういうのが全部束縛っぽく思われたのか、ちょっと自由にさせて欲しいみたいな、一人の時間欲しい的なこと言われちゃって……」


わぁ……。これ、マジのやつだ。早瀬、思ったよりマジの相談だこれ。


「もしかして、ほんとに俺でいいのかとか、思われてんのかなって……」

「うーん、彼女もちょっと、過敏になってるっていうか、例えば苗字変わったりとかいろいろ変化が待ち受けてるわけじゃない?これから。そういうの思ってちょっとナーバスになってるだけだよ。全部やってくれって放っとかれる方が絶対大変だし寂しいんだから、早瀬は間違ってないと思うよあたし。ただまあちょっと自由な時間も作ってあげればいいかもしんないけど……」

「ま、難しいんすよね。構ったら構ったで自由にさせてほしいって言われるし、放っとけば放っといたで寂しいって言われるし、そういうの完全に理解できる男なんていないんだよきっと。俺もお前もさ」


主任、そんな風に思ってたのか……。

それって、たぶん一回目の反省を踏まえたコメントっていうか、きっと。


「結局男なんてエゴの塊だかんね。ただ自分の好きなようにしてただけだってこと、関係壊れる寸前まで気づかねーし。それでも、相手を傷つけるようなことだけしなければ、大丈夫なんじゃね?」

「深いっすね、主任」
「大事にしろよ、彼女」
「主任……っ。俺、どうやったら主任みたくカッコよくなれますかね!?」
「はぁ?」
「ってか、主任だったらこういう時どう声かけるんだろとかマジ考えたんすよ俺。しかしもったいないっすよねーこんないい男が独身なんて、世の中の女子は何してんすかね!?」


この子、マジで知らないんじゃ……?


「つーかさ、そういうの、失敗してる人間に聞かないでくれる?」

「え……っ!?」
「早瀬、知らなかったの……?」
「え、もしかして、まさか主任、ば、ば、ば、バツイチなんですか!?」


店のど真ん中でなんという大声を出すのか早瀬よ……!


「すいませんでしたね、そのまさかで」
「ウソだーっ!?俺てっきりスマート独身貴族だと思ってました…ってかモテすぎて結婚焦らない系っていうか、でも年齢的にもそろそろだしぶっちゃけ主任と先輩ってお似合いだなとか勝手に思ってたんすけどそっかバツイチってことはそりゃ先輩もウカツには手出せないっすよねそっかそっか俺何勝手に勘違いしてすみませんでしたでもそっかー主任のその大人の色気っていうかそういうのって生半可じゃやっぱ出せないんすね俺まだまだ修行が足りないっすねマジで」
「マジでちょっと、お口にチャックしようか早瀬くん」
「あ、俺……ヤベっ(震)」


句読点無しにしゃべり続けた早瀬をあたしが制した頃には、主任はすっかりうんざりっていうか、むしろノンストップで感想を垂れ流し続けた早瀬がおかしくて呆れ笑いの境地だった。


早瀬、マジで一回でいいから空気読んで……!!!


「ま、いいんじゃないのお前は、そういう傍若無人なとこが」
「え、俺ですか?」
「してあげたいこと、なーんも考えずにしてあげなよ。歳取るとさ、ビビリになるから」
「ビビリ?主任は全然、そんなとこないじゃないっすかー」



「……大事なもんほどさ、傷つけたくなくて。どうしていいのかわかんなくなるんだって」


主任はそう言って、もう一本、煙草に火を点けた。




帰り道、早瀬は彼女のところに行くと言って、いつもの違う方の駅へ向かっていった。
一人の時間が欲しいって言ってた彼女なのにそれでいいのかって思ったけど、あの子なりの純粋な気持ちゆえのやり方なんだろうと、温かく見送った。


主任と二人、駅へ向かう道は、何を話したらいいのかわからなくて。
車や雑踏の音に包まれながら、あたしたちの間には沈黙が流れる。


信号待ち、止まって、なんとなく車の流れを目で追ってたら。


突然、主任の手があたしの指に触れて。
そのままふわりと持ち上げた。


驚きとその温度で、指先から心臓に向かって電流が走る。



「爪、綺麗にしたんだ」

「え……あ、ハイ」


「ずっと、伸びたままだったっしょ。ごめんね、忙しくて」



こないだの週末、やっと直しにいけたネイル。
主任、そんなとこ見てたんだ。
ササクレてた傷口も、見られてたのかな。


主任はまだ、あたしの指先をじっと見つめてる。



「主任……?」


伏せていた目をそっと閉じて
主任はあたしの指先を
キュッと小さな力で握った

そして、自分の顔の方へ近づけた


爪の先が、主任の頬と唇に少しだけ触れた



それから、少し苦しそうに、
何かを飲み込んだように見えた


離さないでって思ったのに
数秒のうちに
触れていたところは、ほどけてしまって

あたしの手は元の位置に戻ってきた



信号は青に変わってしまった






4月は年度始めってことで、労働環境クリーン月間だかなんかに総務部さんが指定してるらしく、時間外勤務上限を厳守せよとのお達しが出て仕方なく(仕事は山積みなのに)帰らされる金曜日の夜。

珍しく、同期の綾が誘ってきた。
あったかくなったからってオープンエアの店。空はまだうっすら明るい。外に向かったカウンター席のスツールに掛けると、ライトアップされた遅咲きの、ソメイヨシノじゃないもっと花が大ぶりな桜が見えた。いい風が吹いてくる。
乾杯すると、綾が頼んだバーニャカウダが運ばれてきた。うん、綾はやっぱ女子だなって思う。


「で、どうなのよ」
「どうって何が」
「おたくの主任とよ」
「何もないよ!別に」
「あのね、あたしに隠せると思ってる?冬くらいから、絶対なんかあったじゃん。ちょいちょい打合せ卓であなた方から薄紅色のオーラ出てるんだけど。って、他の人は別に気づいてないと思うけどねー」


綾、怖いよ私。
何にも話してないのにこれだもんね。
女子の嗅覚は犬をも凌駕するよ。


「んー、接近したけど交差しなかった軌道、って感じかな」
「え、なに。離れてってんの?」
「わかんない。っていうか見えなくなった。ミノフスキー粒子的なものがふわぁ~っと」
「なにそれ。なんとか粒子?」
「あ、ガンダムの話」
「世代じゃないでしょーに(笑)」
「好きなんだもん」


2杯ずつ飲んで、綾の彼氏(実は学生時代から付き合ってる)の話がひと段落した頃、思いもよらない人物の名前が出た。


「こっちのフロアに戻ってきたあのイケメン君、可愛いじゃん」
「え、だれ?」
「志田くん、だっけ」
「綾、ああいうのもタイプだったっけ」
「あたしじゃないよ。え、まだ何も言われてないの?」
「言われてないって、何を?」
「あんたおっかけて、うちの部に戻ってきたらしいじゃん」
「ハァ!?」


綾様曰く。
こないだ歓迎会かなんかの席で、新人研修の時にお世話になった先輩がいるからこの部署を選んだ的な話をこぼしてたらしい。それがどうやらあたしだとか。
いやいや、ないからないから。


「あったとしてもそれは仕事的な面で、でしょ」
「それだけなわけないじゃん。なに言ってんの」
「だって、そんなに言うほど関わってないもん、あたし」
「ま、そういうならいいけど、いつだって鈍感だねーほんと」
「鈍感じゃないよ、別に」



「あーぁ、どうしよっかなぁ、結婚」


綾は、その学生時代からの彼氏と結婚するべきか、せざるべきか、悩んでいる。


「結婚とか、考えないの?考えないか、まだ」
「あたし?あたしはまぁ、今んとこ相手もいないし……」
「仕事が恋人だし?」
「恋人くらいは、作ってもいいかなって思ってるけど」
「おっと、心境の変化?」
「うーん」

「いいんじゃないの?あの年下くん」
「え、志田くん?」
「彼は伸びるよー、これから!うまいことやれば将来的に幹部だね」
「あたし、そういうところで選びたくない」
「いやいや、こないだ打合せで同席したけどさ、普通にデキるし、でもひけらかさないし、理性的だけど気配りも効くし、ああいうタイプが旦那にすると一番いいんだよ」




結婚、かぁ……。
結婚、ですか……。
正直、考えたこともなかった。会社に入ってからというもの、仕事もまずまず楽しいし、遊びも楽しいし、恋愛も無かったわけじゃないけど。

旦那にするなら、ああいうタイプ?


この歳になって、結婚が見えない恋愛とか、するべきじゃないんだろうか。
すこしくらい打算が必要なんだろうか。
それともやっぱり、自分が一番好きな人と……?




主任は、もう一度、恋する準備とかそういうのの前提として。

結婚とか、考えたりするのかな?


もう二度とって、やっぱり思うのかな……。







その日は、意外にあっさり。
心の準備もできないままやってきた。


4月最後の、よく晴れた祝日。



《明日空いてる?前言ってた、映画行こ》

前日、帰りの地下鉄の中でそんなメッセージが来て、慌ててOKの返事をした。
昼過ぎに駅で待ち合わせて、少し歩いたりして、映画を見て、食事する約束。




ちゃんと乾かして寝たはずなのに、なかなか決まらない髪に焦って。

白の丸襟シャツにネイビーのニットワンピを合わせて、あんまり甘くしすぎても狙いすぎみたいだし、足元はソックスとややマニッシュなレザーシューズに。ショルダーのミニバッグに最小限のコスメと必需品を詰める。


オフィスではベージュ系のリップばっかりだけど。
この春買ったばかりの血色みたいなレッドのリップティントを、初めて使ってみた。





「お待たせ、しました」
「ううん、俺も、今来たとこ」


ターミナル駅は混むし仕事のにおいがするからと、ひとつ逸れた駅で待ち合わせた。


地下鉄の階段を上がると。
歩道のガードレールに腰掛けて、主任は待っていた。

ストレートシルエットのリジッドデニム。
カットソー、ブロックカラーのカーディガン。
そういえば雑誌で見たのをふと憶えていて。
確かMARNIだったかも……。


オンモードの時より、リラックスしたスタイリングの髪も。
ややボストンぽい、いつもよりカジュアルなフレームの眼鏡も。


全部、彼の魅力を際立たせていて。



どうしてこんなに、圧倒的に惹かれてしまうんだろう……。





「え、あ……主任?」


確かに人通りはほとんど無いけど、それでもびっくりして

立ち上がった主任は、突然あたしを、ふわりと抱きしめたから


「ん……、行こっか」






気のせい、なのかな

気のせいなら、いいんだけど



今日、主任、なんでそんなに哀しそうな顔してるんだろ……